早く夏が終わればいい
毎朝の通勤で自転車を漕ぎながら道ゆく建物を眺めるのが好きで、ある空き地に新しい一軒家が建築されていくのを心楽しく観察していた。
やがて人が住み始めたその家の庭には真っ赤な車が駐車されて、その横に薄いピンクの紫陽花が大きな装飾品のように咲いていた。
他人の家のことだからとやかくいう権利は全くないんだけど、この家がまだハイハイしている頃から見てきた私にとっては、立派に独立して責務を果たしているこの家に親戚の子供くらいの愛着を持っている。誠に勝手ながら。
それでその家にはピンクより青い紫陽花の方が似合うんだけどなと傍を通るたびに思う。
私はアパレルで商品管理の仕事をしていますが、ネクタイの色があっていない取引先と商談をしているときみたいに、それが気になって仕方がない。
紫陽花は土の性質によって色を変えるリトマス紙のような花なので、こっそり土を入れ換えてみるかとさえ思ったことがある。
ネクタイ変ですよ、と取引先に言えない気持ちはお酒が笑い話にして解決してくれるけど、あの紫陽花はそうもいかない。
自分勝手で面白くもない話なんだけど、早く夏が終わって枯れてしまえばいいのになと思いながら梅雨に入る前の数日を過ごしている。
ピンクの紫陽花ももちろん素敵なんですけどね。
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