むるめ辞典
■帰路
[読]きろ
帰り路
[例文]
学校からの帰り道、彼女と手を繋いで歩いていたら路上に赤いボルボが駐車されているのを見つけた。
カッコよかった。
畑に囲まれた路上に流れる血のように赤いVOLVO‘V70に向かってゆっくりと近づいた私は、彼女の手を離して車内を覗きこんだ。
後部座席で寝そべっていた男と目があい、しまった、と私は思った。パッと視線を外して彼女の手を取り直し、少し遠い向こうの細い角を曲がろうとした。
犀のようにゆっくりとボルボは背後から忍び寄ってきて、運転席の窓があいた。
「お前、さっきこっちみたな?」
もう少しで、車の侵入できないこの角を曲がれたのに。
私は彼女を先にいかせて、脅されるがまま金を渡した。反抗的な態度にならないように気を配った。最後には笑顔までつくった。
すぐに彼女に追いついて、なんでもなかった、と言った私の手を彼女は握り返してくれなかった。
彼女はその角を曲がったところで、私の情けない声色や脆弱な心の音の全てを聞いていたのだ。
いいなと思ったら応援しよう!
サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。