わらえない話
同じ人間から10年以上罵倒され続けたことはあるだろうか。
朝起きる、母に頼まれてきょうだいを起こしに行く、起きない。もう一度声をかける、肩を揺する。
起きて第一声「服を持ってこい」
学校に行く、きょうだいと同じ学年の人間から声をかけられる。それは好奇心だけの純粋なものだが、その頃の私には苦痛であった。
きょうだいがその近くにいるときは「こっちを見るなキモい」と罵声が飛んでくる。
きょうだいが卒業した。
だが、家には居る。
家には居る。
これは怪物なのだ。
怒らせてはならない、殴られる。
怒らせてはならない、罵られる。
怒らせてはならない、傷付けられてしまう。
怒らせてはならない、また傷付けられてしまう。
「手のかからない子」「大人しくて、物を欲しがったりもしない」
母はきょうだいと対極の私をそう褒めた。
褒めた、褒めた。それは呪いになっていた。
欲しいものを素直に強請るきょうだい。
手がかかる子になりたくなくて、きょうだいと同じになりたくなくて、欲しいものを眺めているだけで何も言えなかった。
何も言えない人間に育った。
自分の意見を言うと、勝手に涙が溢れるようになった。
新品の学習机を使うきょうだい。
親戚のお下がりの学習机を使う私。
自分で選んだランドセルのきょうだい。
きょうだいが購入した学習机のおまけについてきたランドセルを渡された私。
不満はなかった、なかったと思う。
唯一の不満はきょうだいと同じ部屋であること。
「もう寝た?」
寝たふりを決め込む。夜中に声をかけられる時は、決まってそうだ、始まるのはあの虐待だった。
「寝たふりをするな」
カマをかけているのか、わからなかった。
寝たふりを続けた。そうすると蹴られて起こされるのだ。
こうして文字に起こしてみると、なんとも酷い話だ。
「寝たふりするな、ブサイク」
ブサイク、ブス、キモい
もう何度きょうだいから浴びせられたか分からなかった。
花に、暴言を聞かせ続けると枯れるという話をテレビで観た事がある。その真偽は定かではないが。
私は徐々に、徐々に笑えなくなった。
普段の私は不機嫌そうな顔をしているらしい、自覚もある。口角は下がり、どこを見ているか分からないと。
笑った顔が1番醜いのだ、引き攣って、作り笑いだとすぐ分かるような、そんな顔。
醜い醜いブサイクな笑顔。
笑わない事が当たり前になってしまった、醜い顔。
笑うのが嫌で、人に顔を見られるのが嫌で、写真が何よりも嫌いだ。今も何も変わってはいない。
こんなにもつまらなくくだらない、つまらない話を最後まで読んでくれてありがとう。
これは遺書だ。きっと私の親族には届かないが、知らない誰かがこれを読んで少しでも、幼少期の、誰も味方のいなかった私をあわれんで欲しい。その一心で書き殴っている。
整形をしよう、整形をしよう。ブサイクをやめるために。整形をしよう。整形がしたい。