【連載詩集】No.1 砂の城
きみは、砂の城にいた。
ぼくは、そこにきみの姿を見た。
長い年月をかけて、砂の城はできた。
それはもろく、うつくしく、気高い城だった。
城はぼくたちの願いそのものだった。
この世の、矛盾したすべてを実現できる場所。
そこは、だれにも侵されることのない楽園だ。
ぼくたちは時折、時のないその場所で会った。
あるとき、ぼくときみは、くるった。
それは、まちわびたほころびだった。
ずっと、とおい過去から、そうなるのを待っていた。
ぼくたちは、おどった。
おどりくるった。
安息日(サバス)。
朧月の夜だった。
神はたしかに、ぼくたちをみていた。
神はもう、ぼくたちを見逃さなかった。
宇宙のことわりが、ぼくたちをつつんだ。
次の瞬間、時のない場所に、時間が流れ込んできた。
時の洗礼によって、砂の城は瞬く間に崩れ落ちた。
矛盾は矛盾としてそこに立ち上がり、風が吹いた。
ぼくたちは、おどるのをやめた。
「近くて、遠い」
と、僕が言った。
いや、君が言った。
あるいは、誰かが言った。
何かに追われるように、夜の街を歩いた。
かたちをなさない朧月が、まだ輝いていた。
「いつかまた、何年後かに、もう一度だけ」
不意に、そんな言葉が聞こえたような気がした。
ぼくはそのとき、嵐の中にいて、よく聞こえなかった。
ごおおう ごう ごおおう ごう(じひびき)。
巨大な蛇が、日本列島を横断しているみたいだ。
ごおおう ごう ごおおう ごう(じなり)。
きみの後ろ姿がみえた。
コマ送りのように、きみは離れていく。
きみが後ろを振り返ることはなかった。
きみはまだ、砂の城にいるのだろうか。
ぼくはまだ、砂の城にいるのだろうか。
ぼくたちは、おどるべきではなかったのかもしれない。
でも、時の流れはそれをのぞんだ。
あるいは、運命はそれをのぞんだ。
くるったぼくたちは、それをのぞんだ。
おどる。
朧月の夜。
安息日(サバス)。
ごおおう ごう ごおおう ごう(じひびき)。
巨大な蛇が、日本列島を横断しているみたいだ。
ごおおう ごう ごおおう ごう(じなり)。
嗚呼、砂の城。
ぼくたちの楽園。
長い年月をかけて、
ぼくたちが作り上げた。
いまはもう、蜃気楼だ。
砂の城など、どこにもない。
砂の城など、どこにあろう。
ぼくはもう、我慢ならない。
だから、詩を書く。
満月の前。
時が満ちる前。
平成最期の夏が始まる前に。
まだ間に合うはずだ。
祈りの声を、書き綴ろう。
ごおおう ごう ごおおう ごう(じひびき)。
巨大な蛇が、日本列島を横断しているみたいだ。
ごおおう ごう ごおおう ごう(じなり)。