別冊映画秘宝増刊山崎圭司&佐々木勝巳編「ルチオ・フルチとイタリア血みどろ映画地獄の門」レビュー「ロメロやカーペンターやアルジェントに関する専門書はあるのに…フルチにはソレがないという…切迫的危機感から本書は生まれたのだ…」
全く…何たる如何わしく禍々しく嫌らしく汚らわしい表題なのか…
本当に素晴らしい。
僕が「映画」に求めるもの全てがギュッと濃縮還元されておる。
「人の心」と言うのは歪(イビツ)で…トゲトゲして…ギザギザした…
ブロークンなモノなのであるから…
そんなイビツなハートが作った映画もまた…イビツで…ギザギザして…
トゲトゲした…ブロークンな代物となるのは…まこと道理と言え…
映画監督のルチオ・フルチこそが…
ブロークンな映画を数多く生み出したイビツなハートの持ち主なのだ…。
ルチオ・フルチは…ブロークンな映画を数多く作った故なのか…
本邦のウルトラゴアホラー映画愛好家の間でも…
必ずしも評価が高いとは言えぬ…
特殊映画評論家の中原昌也さんと
VIDEO VIOLENCE REALEASINGという…
インディーズ系ウルトラゴアホラー映画のBD-Rを
好き者にリリースするレーベルを代表する
地獄のサンタクロース・ヒロシニコフさんは…
「フルチを映画作家だと思ったことは一度もない!」
という実に挑戦的で刺激的な対談を本書で交わされている。
中原「マリオ・バーヴァの映画なら…」
「ソフトを買って観ろと言いたいが…」「フルチはねえ…」
ヒロシニコフ「フルチの評価,低いなあ…」
「でも中原さんも今はフルチ好きなんですよね?」
中原「そうとも」「オレもオトナになったもんだ…」
この本の執筆者は皆ロクデモない
ウルトラゴアホラー映画を推した罪で
地獄に堕ちるでしょうが…
中原さんは「ウソをついてない」から…
閻魔の裁きで放免され…
『地獄の閻魔の恵比須顔』という…
世にも珍しいモノを…地獄の法廷で観るに違いないのだ…。
「フルチの専門書がこれまで出なかった理由」を
フルチの専門書でサクッと対談する前代未聞の珍事…。
閑話休題
本書の前書で佐々木勝巳さんは
本書の執筆動機を次の様に語られてます…。
『ロメロやカーペンターやアルジェントの日本語書籍はあるのに…』
『フルチの日本語書籍はない事への切迫的危機感があった…』
『このまま放っておけば…』
『一生出ないに違いない…』
『オレがやらねば…』
『フルチの専門書など未来永劫出ないと言う切迫的危機感がな…』
『この本はな…オレのエゴの産物なんだ…』
この前書を書かれた佐々木勝巳さんを筆頭に…
日本中から結集したフルチに一家言あり…
本書に寄稿された人間全てが…
フルチ映画の登場人物の如く…
嫌な汗をかきながら
目力を込めてこっちを見ているに違いないのだ…。
こっち見んな。
「怒霊界エニグマ」「新デモンズ」「未来帝国ローマ」の
レビューを書く人間が…
この地球上に太陽系に銀河系に宇宙に存在したとは驚きだ。
「ヤマト」のナレーションの様に…
宇宙はやはり無限に広がっているのやも知れぬ…。
本書の本質が「フルチの専門書」なのであるから…
フルチの生い立ちから始まって…
マカロニウエスタン…
ミステリ…
「サンゲリア」「地獄の門」「ビヨンド」「墓地裏の家」…
「マンハッタン・ベイビー」「未来帝国ローマ」「怒霊界エニグマ」…
「肉の蝋人形」に至るまでの膨大なフィルモグラフィを追って行く…。
フルチの専門書なのであるから「勃興期」「最盛期」だけでなく
「凋落期」「黄昏期」も仮借なく追うのだ…。
そしてフルチがいなくなった後のイタリアジャンル映画…
イタリアキワモノ映画職人列伝を紹介して総括して行く…。
キワモノ映画職人に
ダリオ・アルジェントやマリオ・バーヴァや
ルッジェロ・デオダートが含まれ…
思わず自制心を無くし…
「なんだァ…てめェ…」
と気色ばむ一幕もあり
最後まで実に退屈させない…。
ビデマ店主さんへのインタビューで…
「お叱りを受けるかも知れませんが…」
「僕にとってルチオ・フルチは…」
「映画館ではなく家でビデオで観る監督でした…」
という発言は非常に新鮮でした…。
ビデマ店主さんは…僕より若く…
僕は「サンゲリア」を映画館に観に行った…
僕の1年下の後輩も東京まで「サンゲリア」を観に行った…
と突っ込みたい気持ちをグッと抑えました…
何しろホラー映画愛好家は心が広いですから…
レイプマンが思わず…「太平洋だッ」と絶叫する程にね…。
ビデマ店主さんに限らず…
執筆者の面々のお年が若く…
僕が死んだら「フルチ」を知る者は居なくなると思っておりましたが…
そんな事はないようで…僕も安心して死ねると言うものです…。
ノーマン・イングランドさんの寄稿された記事の見出しのひとつが
「『地獄の門』はうちの近所だった!」
コレで…読みたくならないヒトなんているの?
遠い将来…卒業論文に
「ルチオ・フルチのフィルモグラフィ」
を題材にするものが現れたなら…
参考文献の筆頭に…
本書の名が高々と掲げられるコトを確信するものです…。
最近の本は…物価高騰のアオリを受けて…
紙質が悪いコトが多くなったのですが…
本書は紙質も良く…
内容は輪をかけて良く…
この手の超特殊映画を扱って来た
老舗・映画秘宝誌の面目躍如たるものがありますね…。
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