映画「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」レビュー『サイテー映画でありながら同時にベスト映画でもある…それこそが「ゾンビ映画の特徴」なのだ』。
ニューギニアの奥地に建造された研究所「ホープセンター」で
有毒ガスの流出事故が発生し,死んだ人間がゾンビと化して生者を襲う
未曽有のバイオハザードが発生する。
一方スペイン・バルセロナの米国大使館を
テロリストが占拠する事件を瞬く間に鎮圧した
SWAT隊の面々は休暇をニューギニアで取っており,
TV番組のクルーがゾンビに襲われているのを救う。
TV番組のクルーの生き残りと合流したSWAT隊は
バイオハザード発生の「爆心」を探し始める。
そうしている内にもゾンビ禍の蔓延は進行して行く。
彼等は旅の終点で何を見るのだろうか…。
地球上のありとあらゆるゾンビ映画を観て,
たったひとりで「ゾンビ映画大事典」を執筆された剛の者・伊東美和氏は
本作…「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」を
映画秘宝誌2022年5月号(休刊号)にて
オールタイムサイテーゾンビ映画10傑集の筆頭に選出されている。
『(ロメロの)「ゾンビ」のサントラを
まんま流用した低クオリティのパチモン』
(プログレ・バンドのゴブリン研究家のネズミツオ(佐藤祐介)氏によると
ゴブリンは「ゾンビ」の為にサントラを書き下ろしていて,
ゴブリンのファンである本作のブルーノ・マッティ監督は
彼等のオリジナル・プログレ作品の借用許可を求めたが
使用料が高額故に断念。
イタリア老舗サントラレーベル,チネヴォックス・レコードの
プロデューサーでマッティの友人であるカルロ・ビクシオに
ゴブリンの既存曲借用許可を得て正式に使用していると言う。
「まんま流用」には語弊があり「キチンと許可を得て借用」してるのだ。)
だが『低クオリティ』には違いなく
『ゾンビの弱点が頭だと知ってる癖に腹ばかり撃つ馬鹿揃い』
『ヒロインがトップレス&褌姿で原住民(人喰い人種)と交流』
『ゾンビの動きが本家「ゾンビ」以上に緩慢』
等々伊東氏の呵責のない追求が続くが,ちょっと待って欲しい。
伊東氏は映画秘宝誌2007年12月号で本作を
ゾンビ映画オールタイムベスト10の第7位に選出されてるのだ。
『ドキュメンタリー映画のフッテージ取り入れたモンド具合や』
『ヒロインが惨たらしく殺されて終わるだけの投げっ放し感に』
『1980年代イタリア・ゾンビ映画ならではの安い魅力がある』
伊東氏が所謂「二枚舌」の映画評論をしている,と結論するのは早計であって,
伊東氏は「ゾンビ映画大事典」の前書で次の様に述べている。
『だが幾ら探しても第二のロメロは見つからなかった』
『それもその筈ゾンビ映画の大半は紛れもないゴミだったのだ』
ロメロの「ゾンビ」の大ヒットを受けて,
ゾンビ映画の粗製乱造に拍車がかかったが,
それらの本質はゴミだと喝破されているのだ。
故にゾンビ映画の第一の特徴は「詰まらねえ」であり
「普通の映画ファン」がゾンビ映画を観る必要など微塵もなく
ゾンビ映画愛好家は
ロメロの「ゾンビ」が見せてくれた「夢」が
余りにも素晴らし過ぎたので
「夢」を見続けようと45年間眠り続けてる
「ボンクラの集まり」と断言しても一向に差し支えないのだ。
「普通の映画ファン」の皆さんは
「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」と言っても
恐らく口をポカンと開けて「ナニソレ」と反応されるだけだろう。
「面白い」映画の事は覚えられても「詰まらねえ」映画の事は
たちまち淘汰されるが故に覚え様がないからだ。
そしてゾンビ映画は「たちまち淘汰される映画」の集合なのだ。
メーテルの様に僕の見た「青春の幻影」に過ぎないのだ。
伊東氏は「だが収穫が無かったわけではない」と仰られ,
ゴミの山の中から「キラキラ光るもの」を懸命に探し始める。
その作業はさながら落穂拾いの様相を呈する。
故に「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」は
オールタイムサイテーゾンビ映画でありながら
同時に「キラキラ光るもの」が存在する
オールタイムベストゾンビ映画でも有り得るのだ。
今年(2023年)の7月に新宿シネマカリテにて
本邦で初めて本作が劇場公開され,僕も観に行った。
当時SNSに書き込んだ僕の感想を再掲する。
『新宿は土地勘ゼロ故シネマカリテがなかなか見つからず,
場内は,このクソ暑いのに冷房能力が低く死ぬかと思いました。
隣の席に偶然伊東美和と同様にロメロの「ゾンビ」に魅了され
ゾンビ映画を長年研究されている
碩学・ノーマン・イングランド氏が着席してビックリ。』
『土人のコスプレをするマージット・イヴリン・ニュートン,
「ゾンビ」のSWAT隊員・ロジャーを
うんと頭を悪くして10万倍陽気にしたフランコ・ギャロファロ,
ババアゾンビの腹からネズミが飛び出すババンバンと見所満載でした。
マッティは「世界の終わり」をキチンと描く気があり
喧しい女の舌を引っこ抜く描写は「良くやってくれた」と好感度大。』
『余談ですがマッティ&フラガッソコンビの本作,「サンゲリア2」に
感激したロシアのアレックス・ウェスリー監督は
「ゾンビ・インフェクション」でデス・スリーなる生物兵器を産んだ
ヴィンセント・マッティ博士役をフランコ・ギャロファロに演じさせ
フラガッソも博士役で登場させてます。』
『SWAT隊がテロリストに占拠された大使館に突入する際,
アルジェントゾンビの催涙弾打ち込んでアパートに突入する際の曲が
かかるんだけどホープセンターでは映画「エイリアンドローム」の曲
(同作のサントラもゴブリンが作曲している)がかかる。
「エイリアンドローム」の原題が「CONTAMINATION(汚染)」で
ホープセンターでバイオハザードが発生したと表現してる。』
『本作で一番感動したのは閑散とした国連総会会場の描写。
ニューギニアの代表が懸命に危機を訴えても最早誰も聴く者がいない。
マッティは「世界の終わり」を,
哀切とか心の機微を描く意思があるんだなって感動したよ。』
そもそもホープセンターで「何」を研究してたのか。
その「何」は映画「ソイレント・グリーン」が影響を与えていると言う。
「ソイレント・グリーン」は地球人口爆発に伴う食糧難を扱った作品であり
本作が斯様な意識高い系の社会派映画だとは終ぞ知らなかったよ…。
言われなければ永遠に気付けない設定なのだ。
本作は来年スティグレイ社からブルーレイが出る予定。
「ゴミ映画」でありながら「キラキラ光るものがある映画」であり
全てのゾンビ映画がそうである様に「非常に人を選ぶ」事は疑い様もないが
ブルーレイが出たら僕はガッとレビューを書く予定なので
御購入の参考にしていただけたらと思う。
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