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監督・脚本S.S.ラージャマウリの映画「RRR」レビュー「決して交わる筈のない太陽と雨雲とが交わるとき…友情の虹の橋が架かるんだよ…」

1920年前後の大英帝国支配下のインド。
インド総督スコット・バクストンは妻キャサリンと共に英国保護下にある
ニザーム藩王国領アーディラーバードの森林地帯にやって来た。
キャサリンは森の中の小村で先住民族ゴーンド族のもてなしを受けている。
キャサリンに傅き(かしずき)ながら彼女の手にボディペインティングを施し
美しい声で民謡を歌う少女マッリ。
すっかりマッリが気に入ったキャサリンは2枚の硬貨をマッリの両親に投げ…
「娘の民謡への礼」と初めは感謝していた両親だがどうも様子が違う…。
マッリが車に押し込まれ拉致されようして初めて…
「娘が硬貨2枚と引き換えに人身売買された」
と気付く。
車に追い縋る母親。
警護の兵がマッリの母親を射殺しようとすると…
総督は次の様に警護を制止する…

この1発の銃弾はな…
海を隔てて遥か遠くの英国の工場で…
英国の金属によって製造され…
7つの海を渡って来たものだ…
その1発の銃弾は…
インド人如きムシケラの命よりも
遥かに価値のあるものだ…
無駄にしてなるものか…

警護は母親を撃ち殺すのを止め…
警棒で打擲(ちょうちゃく=打ち叩くコト)して昏倒させる…

このゴーンド族には…「羊飼い」と呼ばれる男がいた…
「羊飼い」は…群れを逸れた(はぐれた)羊を…
地の果てまで追跡してこれを保護し…
群れに返すコトを使命とする…。
その…「羊飼い」と呼ばれる男こそ…
森の中で虎と命懸けの相撲を取る剛の者…
本作の主人公のひとり…ビームなのであった…

ビームは少女マッリ奪回の為に首都デリーに向かう…
デリーには大英帝国インド総督府があり…
マッリは「歌の上手いカナリア」として…
総督府で籠の鳥となっているに違いないからである。

一方デリーの郊外アナンプクル警察署で…
インド独立活動家ラーラー・ラージパトライの
釈放を求めて群衆が警察署を取り囲み…
暴徒と化したそのときに
暴徒のひとりが投げた石が
英国王ジョージ5世の肖像写真に命中する。
英国人の署長が不届き者の逮捕を命じ…
地を覆いつくさんばかりの群衆の中に自ら志願して飛び込み…
無数の群衆から「裏切者!」と罵られ…
殴る蹴るの暴行を受けながらも不届き者の逮捕を成し遂げた…
インド人でありながらインド人を検挙し…
総督の信任を勝ち取り…立身出世を目論むこの男こそ…
本作品のもうひとりの主人公…ラーマなのであった。

ビームとラーマは互いの素性を知らぬまま
力を合わせてひとりの少年の命を救い…
自分程の剛の者はいないと自負していたビームは…
自分以上の剛の者の上に…
床一面に蔵書を広げて日々勉学に励むラーマに
すっかり心酔してしまい…
自ずと彼を「兄貴」と呼ぶ様になり…
ふたりは兄弟の様に懇意となる…。

だがラーマには総督の腰巾着エドワードより
正体不明の「羊飼い」の検挙が命ぜられているのだ…。

本作品は…ここぞと言うときに曲が挿入される…

虎と狩人の間に…
首と絞首台の間に…
燎原の火と…
雹を降らす嵐の間に…
太陽と雨雲の間に…
生まれた絆…

山火事と洪水の友情…
成文律と不文律の友情…
炎と氷河の抱擁…
それが彼等の友情…

この物語は…
ビームとラーマ…
ふたりの義兄弟の…ふたりの英傑の…
友情と裏切りと…
試練の炎によって
より堅固に鍛え抜かれた
魂の絆の物語なのだ…

ラーマは最初…「総督の犬」として登場するが…
その胸中で熱く燃え盛る大志は…大願は…
義兄弟のビームにさえも明かさず…
ただ故郷でラーマの帰りを待つ
許嫁(いいなずけ)のシータしか知らない。

英傑は…大願成就の為なら誤解されることを恐れないのだ…。

一度は義兄ラーマに裏切られたと思い…
義兄弟の契りも…友情をも破綻し…
失意のどん底に沈むビームの姿を描いて…

INTERRRVAL(造語)(=インタァァァバル=休ゥゥゥ憩)

のテロップが表示される憎い憎い憎い演出!
本作は尺が3時間あって…トイレ休憩は必須なのであるが…
ココで「休憩」するかあァァァァァ!?
という絶妙なタイミング!

「後半」はもうね!
シータからラーマの「大願」を明かされ…
滂沱の涙を流すビーム!

ビーム「オレは…ひとりの少女を救うコトに躍起になっていたが…」
「兄貴は国を救うコトに躍起になっていたッ」
「オレは…森の中で虎と相撲を取って生きていたが…」
「兄貴は大義の為に生きていたッ」
「オレは…何てちっぽけなんだ…」
「ラーマの兄貴ィィィィィ!!!!!」

燃え上げる火の玉と化したビームは
独房に軟禁されているラーマを救出する…。

ビーム「兄貴…ゴメン…オレ…」
ラーマ「泣く奴があるか」「…何故分かった?」

ビームがシータから預かったペンダントと
ラーマの持つペンダントが組み合わさり真円を描き…
大願を成就するまで決して逢わぬと決めた…
決して交わらぬ筈の
陰と陽の太極が一体となる熱い熱い熱い演出!

本作品は…ここぞと言うときに曲が挿入される…

虎と狩人の間に…
首と絞首台の間に…
燎原の火と…
雹を降らす嵐の間に…
太陽と雨雲の間に…
生まれた絆…

山火事と洪水の友情…
成文律と不文律の友情…
炎と氷河の抱擁…
それが彼等の友情…

「RRR」は…Rise Roar Revolt(蜂起と咆哮と反乱と)
という意味と…
最初のRは炎(fiRe)を表し…最後のRは水(wateR)を表し…
それぞれラーマとビームを表している…
では真ん中のRは…?

作中説明は無いが…僕は…虹(Rainbow)だと思ってるよ…。
決して交わる筈のない太陽と雨雲とが交わるとき…
虹の橋が架かり…最後の邪悪への道が通ずると…
僕は…「ドラゴンクエスト」から教わったんだ…。

足を負傷したラーマを肩車するビーム。
友情のバロムクロスはッ!
インドでは縦に繋がるんだッ!

ふたりがひとりバロローム
皆で呼ぼうバロムワン
必ず来るぞバロムワン
超人超人僕等のバロムワン

ラーマはシヴァ神の化身と化して皆中必至の弓を射り…
ビーマ(鬼神モードになると何故かビームがビーマ呼びとなる)
は剛腕による槍の投擲で兄に加勢する。

鬼神と化して神速で弓を射るラーマの姿は…
「ランボー怒りの脱出」のジョン・ランボーそのもの。

本作品は…ここぞと言うときに曲が挿入される…

ラーマはラグ家の末裔…
戦の英雄 王威を放つもの…
その弓矢はシヴァ神の様に頑強…
その音の気配は敵を恐怖に陥れる…

ビーマは強靭な戦士…
驚異の跳躍で敵を叩く…
ビーマはハスティナブラの都で…
象牙を砕き…
シヴァの破壊の舞を踊る…。

(以下混声合唱)

ラーマ…
ビーマ…
ラーマ…
ビーマ…

ラーマはラグ家の末裔…
戦の英雄 王威を放つもの…
ビーマは強靭な戦士…
驚異の跳躍で敵を叩く…

もうね!
終盤はふたりの英傑による無双が堪能出来ます!

ラーマとビームは本作の悪代官…大英帝国インド総督を追い詰める…。

(ラーマの口上)
この1発の銃弾はな…
海を隔てて遥か遠くの英国の工場で…
英国の金属によって製造され…
7つの海を渡って来たものだ…
その1発の銃弾は…
インド人如きムシケラの命よりも
遥かに価値のあるものだ…
無駄にしてなるものか…

最初大英帝国インド総督が英語で言った言葉を…
インドの言葉で返すラーマ…
あっ…マズい…ラーマの兄貴がガチギレしてる…。

「ラーマの怒り方」には特徴があって…
総督府のパーティに招かれたビーマが…
「オマエ達ムシケラに…」
「サルサが理解出来るのか…?」
「タンゴはどうだ…?」
「この…クソ有色人種がッ」
と英国人の若いのから挑発された際に…
ビームよりもラーマの鉄火の血が先に沸騰し…
「大願」を隠しながら…
ドラムを叩いて…
「サルサでもタンゴでもない…」
「『ナートゥ』を御存知か…?」
と慇懃無礼に聞き…ビームと共に「ナートゥ」を踊り…
英国人女性が皆「ナートゥ」の大地のリズムに夢中となり…
突然ミュージカルが始まるのだ…。

つまり…ラーマが務めて平静を装いながら話してるときが…
口調が「平坦」になったときが…
一番ヤバイのである…。
ラーマの兄貴っ
「大願」!
「大願」を忘れてますっ

「ラーマの口上」には実は「後半」が存在し…
「後半」を授けた相手こそが彼の父親なのだ…。

一件落着してラーマがビームに
「何か欲しいものはあるか…?」
と尋ねるとビームが…
「オレに…読み書きを教えてくれよ…兄貴…」
と恥ずかしそうに言うビームに無限に萌えるのである…。

映画観ててさあ…
残り時間が1時間と分かって…
終わらないでくれッ!
無限に続いてくれッ!
と祈ったのは初めてだよ…コオロギくん…。

ブックレットによると
インドでは大英帝国は鉄板の敵キャラであって…
「大英帝国にも良心があった」
という描写さえ入れれば
どれだけ悪逆非道な英国人を出しても構わないと言う…。

本作を「愛国映画」「国粋主義」「軍国主義」と断ずるのは言い過ぎで
第二次世界大戦では英国と同じブロックで戦勝国に入り…
その後英国から独立を果たした「若いインド」にとって
「自分の生まれた国がスキ」
はごく自然な感情の発露だとブックレットは指摘する。

大英帝国インド総督という「悪代官」が成敗されるのを楽しむ感情は…
日本人にも理解出来…本作はあくまでも娯楽映画であるコトを見失わず…
ラーマとビームが共闘してインド独立運動に身を投じるコトをしないのだ。

ラーマとビームは実在の人物をモデルとし…
史実ではふたりが出会った記録はない…。

ラージャマウリ監督
「ハリウッド映画の『イングロリアス・バスターズ』を観て…」
「あの映画でヒトラーが撃ち殺されてますけど勿論そんな史実はない」
「ワタシ達は…」
「歴史的事実に拘泥せずに高揚するコトが可能なのです」
「ワタシは…」
「苦労して得たお金をチケット代に費やしてくれるお客さんに…」
「ワクワクして貰いたい…」
「ドラマチックなモノを感じて貰いたいのです…」
「ワタシの映画に深読みなんて必要ない…」
「ワタシの映画に『隠されたメッセージ』など何も無いのです…」

「インドのふたりの英傑が大英帝国相手に無双する」

ソレがこの映画の全てであり…
ただ観客をワクワクさせるコトが…
この映画のたったひとつの目的なのである…。

インド人がインドの言葉で喋り…
英国人が英語で喋る…
コレはインド映画であるから…
インド人は群衆(モブ)でも悪役でもなく主役である…
そんな「当たり前」が…しみじみと嬉しく感じるのです…。

インド人が邪神カリーを崇拝し…
カブトムシや猿の脳ミソを食うと描写された…
「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」
から…随分遠くに来たもんだ…。

本円盤は日本語吹替が搭載されてるけど…
大英帝国インド総督が英語を喋り…
ラーマとビームがインドの言葉で話す…
字幕で観る方が楽しめると思う…。
英国人が決してインドの言葉で話そうとしない
違和感とムカツキを…貴方にも是非覚えて欲しいのだ…。

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