フィル・ティペット監督の映画「マッドゴッド」レビュー「ダンテの「神曲」片手にユングをツアーガイドにして「バイオハザード」のハンクが無限にコンティニュー出来る精神世界という地獄巡りの旅へ!ハテサテ地下最深部に何があるのかな~?」
僕だってェたまには「最近の映画」くらい観ますぅ
僕がオススメの「最近の映画」はあ~
「マッドゴッド」ですう~
「ロクでもない映画」なのはあ~
僕のレビューの「仕様」ですう~
TVゲーム「バイオハザード」の「第4の生存者」ことハンクを思わせる
防護服の男が時折マップを参照しながら
「記憶の世界」という迷宮を旅しながら最深部を目指す。
極めてTVゲーム的な設定で生まれた時から
呼吸をする様にゲームをしてた世代には受け入れ易いと思う。
ハンク(仮)が全く喋らないのも
主人公が「寡黙」な設定の多いTVゲームを踏襲してる。
ハンク(仮)の初期装備は
非常に大雑把なマップと時限爆弾のみで得物を何も持ってない。
時限爆弾は地下最深部のみで作動するクリアアイテムで,
それ以外の場所にセットすると
タイマー残り1秒で必ず停止する仕様となっている。
故に地下最深部に到達したか否かを確かめるのに有効という
裏技的な使い方が出来るのだ。
ハンク(仮)はナイフすら装備してないので
「豆腐」以下の条件でのスタートとなり
スネークの様に隠れながら戦闘を避けて探索するのが
プレイスタイルとなる。
ハンク(仮)の唯一の強みはゲームオーバー(音信不通)となった場合,
「次のハンク(仮)」を直ちに迷宮に送り込める事。
ハンク(仮)の「代わり」は幾らでもいるのだ。
現実世界としても映画としても異常な設定だが
「TVゲームの設定」としては異常でも何でもない。
要するに「何遍でもコンティニュー出来る」のだ。
この映画に「話」が無いのではない。
ハンク(仮)の試行錯誤を繰り返すゲームプレイこそが「話」なのだ。
観客は,そのゲームプレイを後ろから眺める「水子」なのだ。
「ゲームをする人」ならば,この説明で容易に理解出来ると思う。
「記憶の世界」には最初「サイコ」のノーマン・ベイツの家,
「禁断の惑星」のロビー,兵馬俑等々が無秩序に登場するが
次第に瓦礫の山,死体の山,爆撃の轟音,サーチライトで照らされる空,
瓦礫の街を走るジープ等,「記憶の世界」を下に向かって探索するに従って
迷宮の記憶が遡り監督の「子供の頃観た光景」を強く反映し始める。
やがて意識の世界に無意識の世界が入り混じり始め,
遂にはハンク(仮)は捕らえられ
手術台の上で解剖され腹から赤子を摘出される。
個人の想像力は「出生」が限界と踏んでいたので
予想通りだったが,この時点で映画の2/3なのだ。
フィル・ティペット監督はダンテの神曲からは
地獄巡りの旅の只ひたすらに
地下最深部を目指す強い強い方向性を学び,
監督が自分の夢を逐一書き留め,
無意識の領域を旅する案内人にはユングを選んだと言う。
「ユングは自分を掘り下げて狂気の世界に到達したけど,
正気の世界に戻って来たじゃないか」
「自分を掘り下げるに当たって彼以上のガイドはいないよ」
「僕は「神曲」を片手にユングをツアーガイドにして
精神世界って地獄の最深部を目指したんだ」
「本当にルシファーが氷漬けになってるか,この眼で確かめたかったのさ」
確かに個人の想像力の限界は出生かも知れないが
監督はダンテとユングの助けを借りて,
個人の想像力の限界を超え
「その先」を目指した試みが残りの1/3で描かれている。
本作は最初6分程の作品で,その後20年お蔵入りになっていたという。
撮影再開の切っ掛けは
学生達(監督は彼等を「子供たち」と呼んでいる)の協力にあったと言う。
「子供たちは「スターウォーズ」や「ロボコップ」の後に生まれて来て
「手作りの特撮」を知らずに育ったんだ」
「少なくとも「手作りの特撮」を伝聞や伝承でしか知らない」
「だから自分達が
「手作りの特撮」に関われる機会を逃したくなかったんだ」
「僕はとんだ「生ける伝説」に祭り上げられたって訳さ」
と監督は語る。
僕は今日初めて本作を観たけど,
全然眠たくもならなかったし退屈もしなかったな。
話に強い強い方向性があって
「自分を掘り下げる」って行為は極めて個人的行為でありながら,
同時にその行為には多くの先達が試みて来たって
極めて強い普遍性があるからね。
普遍性があるって事は
世界中何処の誰が観ても共感を得られる可能性があるって事じゃん。
だから僕は本作を決して難解とは思わなかった。
我が事の様に体験出来るからね。
「マッドゴッド」はあ~ちっとも「難解」じゃありませえェェェん。
「難解」って言うのはあ~
初代バイオハザードを~
ノーヒントでえ~
カトンボみたいな体力しかないジルでプレイしてえ~
バリーとクリスのヘタレを救出してえ~
タイラントのクソを
ロケットランチャーで吹っ飛ばして帰るコトを言うんですう~
初見じゃまあ無理ですね!
「本作をハリウッドの大資本は見向きもしなかった」
「興行収益が見込めないってんでね」
と監督は全然悔しくなさそうに語る。
僕はGWに東京・池袋に行って
映画「D&D」「マリオ」「食人族」(リバイバル上映)を観て来たよ。
映画館で「リトルマーメイド」と
「スパイダーマン」の新作の予告も見たよ。
「D&D」「マリオ」「リトルマーメイド」の予告,
「スパイダーマン」の予告で共通してたのが皆揃いも揃って
「現実ではイマイチパっとしない主人公が
「剣と魔法の世界」とか「ゲームの世界」とか「人間界」とか
「仮想の世界」といった「異世界」で活躍して
皆から称賛され受け入れられる話」だって所。
バカじゃねえの?
しばらく「最近の映画」を観ない間に映画がラノベになっちまった。
「ラノベ映画」の何が問題かって
「ボンクラは異世界に行こうと月面に行こうとボンクラのまま」
って現実から目を背け,
「キミになら(自己実現)出来るさ!」
って無責任に声援を送って嘘に嘘を重ねてる点で
「嘘吐きは地獄に落ちて閻魔に舌を抜かれる」
って犯罪を犯してるって事。
大体!東京でダメな奴が北海道や沖縄に転居したからと言って
優秀になったりモテモテになったりする訳ないじゃん!
どの映画を観ても似たり寄ったりの何処を切っても金太郎飴の
ラノベ映画が量産される中にあって,
オリジナリティの塊なのが40年前に本邦で公開された
「食人族」だってのがおかしくね?と僕は思うのだ。
「リトルマーメイド」や「スパイダーマン」の新作の主人公が
黒人である事など「全てがラノベになる」現象に比べれば些末事である。
ラノベの隆盛は本邦だけの問題かと思ってたら
海外にまで蔓延していやがった。
本作はねラノベ映画ばかり量産するハリウッドの大資本が忘れた
「等身大の自分の内面を見詰める映画」
なんです。
ハンク(仮)は僕や貴方がそうである様に何の特殊能力もないまま
「記憶の世界」って異世界を旅してます。
決して異世界無双しません。
決して状況をベラベラ「説明」しません。
そもそも喋らず観客の思考を妨げません。
だからこそ感情移入が可能なのですよ。
TVゲームの主人公が皆「寡黙」なのはプレイヤー自身だからなんです。
本作の様な映画に投資せず「映画のラノベ化」に加担するばかりの
イマドキの映画界に何も期待出来ない…が僕が上京した感想となります。
本商品にはキングレコードにしては珍しく
特典が総計54分も収録されてます。
本レビュー執筆に当たって大いに助けとなりました。