映画「ゾンビ」レビュー「幾多のゾンビ映画が何故「ゾンビ」を超えられないのかを解くカギは「女海賊ビアンカ」にあると僕は思ってます」。
ジョージ・A・ロメロ監督は大資本に頼らない
「寄らば大樹の陰」とは真逆の生き方を貫かれていて
インディペンデント(独立系)な映画を作られてます。
ロメロ監督の映画「ナイトライダーズ」で
バイクの曲乗りで幾許かの金を稼ぐ一座に
TV番組のディレクターが目を付け自分達の番組に出そうとします。
派手な演出・派手な曲・プロモーションビデオの製作…。
確かにTVに出て良い暮らしが出来る様になった…。
…だが本当にコレが俺達の望みだったのだろうか…。
ロメロ監督は「ゾンビ」の大ヒットで時代の寵児となって
メジャーデビューしたときに作った映画がコレ。
「大資本に依存すると自分の好きな映画を作れなくなる」
ってのが監督の結論。
インディペンデントな映画は金がないが故に
出演者は縁故知人スタッフばかりとなり衣装にも金をかけられない。
家内制手工業と言うか自主製作映画と言うか…。
小中和哉監督は映画「Single8」の特典映像の中で次の様に語られています。
(引用開始)
コロナ禍で大きな映画が次々と延期になる状況を「閉塞」と捉える方は
多いけれど,映画監督は
「自分のフィルモグラフィ・原点を振り返る映画」
を撮りたいと願っていて時間が無くて出来ない事が多いのだけど,
幸か不幸かコロナ禍で,その「時間」が出来た。
自主製作映画なら予算は少なくて済むし
キャストもスタッフも少なくて済むから動員が容易で
「昔は金がないから自主製作映画を作る人が多かったけれど,
今はコロナ禍で制約を受けた新たな創作の場として見直されている。」
と監督は語る。
本作はメインキャスト4人とギュッとコンパクトとなっていて
監督は予算や人員の制約よりも
「やりたい事がやれる」喜びの方が大きい様に見受けられます。
「大きい映画」はああしろこうしろうるさいからね。
(引用終了)
ロメロ監督の畢竟の名作「ゾンビ」も金が無くてね。
当時の「サスペリア」で一躍時代の寵児となった
映画監督のダリオ・アルジェントにロメロは援助を要請し,
アルジェントは「ゾンビ」の非英語圏での編集権と上映権と引き換えに
資金援助されてます。
主演の4人の内ふたりはSWAT隊員でゾンビと日夜戦っていた設定。
衣装はどうみても作業服。
SWAT隊員の正規の制服じゃない。
でもさ。
映画にとって一番大切な事は「正しい考証に則る」事なのでしょうか。
美内すずえ先生の「ガラスの仮面」って漫画で北島マヤが体育倉庫で
「女海賊ビアンカ」を演じる事となるのですが舞台装置は跳び箱やマット
といった御粗末なのにマヤの演技に圧倒され観客には
見えない筈の船や大海原が見えマヤがビアンカに見える描写があります。
映画「ゾンビ」においても
「コレはSWAT隊員の制服だ」と断じて演ずればSWAT隊員に見えてくる。
演劇のマジックですね。
それって最高にクールだと思いませんか?
そもそも映画「ゾンビ」は低予算で主演4人の演技で
「世界の終わり」を描いて見せようと言う大望の化身の様な作品。
ハッタリと見立てが命の多分に演劇的な作品なのですよ。
よくさ。
「低予算で大ヒットしたのだから
大資本を投下すれば更なるヒットが見込めるに違いない」
とか
「昔ヒットしたアニメを
綺麗な作画でリメイクすれば大ヒットするに違いない」
とかの目論見が大爆死してるじゃないですか。
幾ら金を積んでも心意気は…魂は…大望は金じゃ買えねえんですよ。
幾多のゾンビ映画が何故「ゾンビ」を超えられないのか?
その謎を解くヒントは「女海賊ビアンカ」にあると僕は思ってます。