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ハヤカワ文庫 ロジャー・コーマン/ジム・ジェローム 著石上三登志,菅野彰子 訳「私はいかにしてハリウッドで100本の映画をつくり,しかも10セントも損をしなかったか」レビュー「一国一城の主…その波乱万丈の生涯を述懐す。」

本書はロジャー・コーマンの自伝で…
1991年1月に早川書房から出た…
「私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり,
しかも10セントも損をしなかったか~ロジャー・コーマン自伝~」
を改題し…フィルモグラフィを改訂し,吉田伊知郎氏の解説を付し…
文庫化したものです…。

2024年にコーマンが逝去され…
本書の文庫化の要望が高まっていたのだと愚考します…。

本日(1月27日月曜)発売予定の本が日曜に届いたのは僥倖でした…。
諸物価高騰の折…文庫本の値段についての愚痴は言うまい…。

購入の決め手は市川洋介さん装画,
桜井雄一郎さんカバーデザインによる表紙ですね。
「デスレース2000年」のフランケンシュタイン…
「恐怖の振り子」の振り子…
「金星人地球を征服」の金星人(金星ガニ)…
そして…コーマン御大…。

ホントにねえ…額に入れて飾っておきたいよ…。

巻頭の「謝辞」からもういけない…コーマン節大炸裂で…
コーマンが本書を執筆するに当たって世話になった
関係各位の名前を読み上げて行くのだが…
フランシス・フォード・コッポラ,ジャック・ニコルソン,
ジョナサン・デミ,ヴィンセント・プライス…
とおよそ1頁に渡って名前が挙げられ…
しかもワザワザ順不同=心に思い浮かんだ順と断り…
挙げられる名前がビッグネームばかり…。

僕はコーマンの本質は中小企業のオーナー…
日本で言ったら「大将」だと思っており…
その大将が祝いの酒を飲みながら…
「アイツはオレのダチなんだぜえ…」
と…赤ら顔で得意そうに
有名人の名前を挙げる絵面が思い浮かぶのである…。

本書は17章から成り…
コレはコーマンの自伝であるから…
コーマンの述懐がメインなのであるが…
コーマンがピーター・フォンダの話をすると…
サッと「ピーター・フォンダの証言」が挿入され…
コーマンがジョー・ダンテの話をすると…
サッと「ジョー・ダンテの証言」が挿入されると言った風の…
「ドキュメンタリー映画の手法」で構成されてるんです…。

ゲイル・アン・ハード「ロジャーは映画業界で働く女性にとって…」
「議論の余地なく100パーセント最高の人間…」
ジョー・ダンテ「とても熱心でひとつのことを一晩中考えて…」
「その為に死んでも気が触れても構わないと思ってる人間なら…」
「ロジャーとうまくやって行ける…」
ジャック・ボアラー「ロジャーは負けるのが嫌いです…」
「『諦める』など言うコトは決してしません…」
リチャード・シューブ「ロジャーは誰かの為に働くコトをしません…」
「ですが…自分の為なら…」
「ありとあらゆるコトを人にさせてしまいます…」
アラン・アーカッシュ
「ロジャーは『日本沈没』という映画を買い付けました…」
「尺が180分のかなり良く出来た映画…」
「けれどもロジャーはこう言いました…」
「この映画の尺を70分にしろ…」
「『大津波』って米国映画を錬成するにはソレで十分…」

コーマン自身よりも…コーマン周辺の人間の方が…
彼の「人となり」を的確に捉えていると…コーマン自身が自覚し…
自伝に積極的に「他者から見たコーマン像」を取り込み…
単なる自伝では生じ得ない「厚み」が出てるのが本書の特徴なんです…。

コーマンは…常に即断即決が求められる現場に於いて…
「オレ」が現場にいる必要性を誰よりも熟知していた…。
人の話は良く聞くけれど…
ソレは自分の決断を確かなものとする為で…
一度下した決断は…誰にも覆させない…

彼は「会議」を嫌い…「形式主義の極み」「時間の無駄」とさえ言う…
現場に「オレ」がいて…「オレ」が都度的確な判断を下しているのに…
長々と時間ばかりかかる挙句…
何も決められない「合議」なんぞに何の意味がある…?
い・ま・決断する絶対の必要のある火急の事案が山積しておるのだぞ…?

コーマンの本質は…「中小企業のオーナー」…大将であり…
「ナニワ金融道」で青木雄二さんが言うところの「一国一城の主」なのだ。

「一国一城の主は決断も実行も自分でするもんや…」

コーマンの本質が「大将」であるから…
「決定権」を絶対に他の誰にも譲らない…。

大将は誰よりも早く出社すべし
大将は誰よりも働くべし
大将は誰よりも業務に詳しくあるべし
大将は家臣の模範足るべし
大将は誰よりも遅く退社すべし

「頼り甲斐」という点に於いて
コーマン程頼り甲斐のある人間などいないだろう…

とは言え…大変アクの強い…大変クセのある人間であり…
波長が合えば刎頚(ふんけい)の友…
波長が合わねば不俱戴天の仇…
そしてコーマン自身…
自分が毀誉褒貶ある人間だと強く自覚しているのである…
こういう人間と一緒に仕事する方の御苦労が慮られるのである…。

まさに「ボス」と呼ばれるに相応しい人間…。

コーマンがスタンフォード大学卒業前に…
10の職業分野に関する試験を受け…
9の職業分野で満点か99点を取り…
知性を必要とするどのような分野でも成功するとのお墨付きを得たが…
残るひとつの分野は100点満点で11点だったと言う…。
その落第分野が簿記と経理で…35年仕事を続け…
200以上の映画を作った後でもソレは変わらないと言う…。

海の向こうのヒトの「謙遜」の仕方を見ると…
僕は魔夜峰央さんの「パタリロ」を思い出します…。
山の様に作られた料理を…ハム2枚残して平らげ…
いけしゃあしゃあと「節制した」と抜かすパタリロをね…。
(勿論あとでそのハム2枚も食べようとします…)

本書に苦言を呈したいのは…
例えば「赤死病の仮面」に関する記述が参照したいトキ…
映画名から当該の記述を検索する…
「映画名による索引」の不在ですね…。
頭から読んで探すしかないのは…
「検索機能」が…余りにもアレ…。
WEBで最も重要なのは「検索能力」なのに…
天下のハヤカワさんらしからぬ手際…
21世紀版(本書)には「映画名による索引」を付けて欲しかったですね…。

目次もない…。
チャプター分割が「第1章」「第2章」…「第17章」と余りにもシンプルで…
何処に何が書いてあるかサッパリ分からない…。

「何ですか…コレ…」(ユーフォの滝先生)

小見出しくらい付けてもバチは当たらないと愚考します…。

21世紀が…早くもその4分の1が経過しようと言うのに…
斯くも検索が困難な本があっていいワケがない…。

「聖書」が何故ベストセラーなのか…
ソレは日曜学校で
神父さまが引用される聖書の言葉が…
誰でも容易に検索出来るからです…。

とは言え…石上三登志さんによる訳文は…
本当に分かり易く…アタマにスッスッと入ってくる…。
漢字で書けるコトを…ワザワザひらがなで書くところに…
「なるべく多くのヒトに伝えたい」
って「願い」が直に伝わってくるという…
奇跡みたいな翻訳なんだ…。

僕はそういう…「ヒトのまごころ」に弱いんだ…。
恐らく僕は…石上さんの翻訳読みたさに…
この本を何度も読むコトとなるだろう…
ナルホド…本書に「索引」など不要になるのかも知れぬ…。

早川書房の書籍は…僕のSFマインドが…
小学生の頃読んだアイザック・アシモフの…
子供向けに書かれた「鋼鉄都市」止まりで…
しかも石ノ森章太郎の
「ロボット刑事」関連で読んだに過ぎない体たらくで…
一番最後に読んだハヤカワくんの本は「ミクロの決死圏」…
勿論セブンのダリー絡みで…といった状況で…
大変御無沙汰していたが…

そう言えばCOCOさんの「早川さん」は読んでいたっけ…。
そんなに蜘蛛の巣が張るほど御無沙汰ではないのかも…。

でもね…ハヤカワくん…
キミが勇気を搔き集めてワタシに告白してくれたのは嬉しけれど…
ワタシのココロは…ずっとずっと前から…
創元推理くんに夢中なの…。

「モルグ街の殺人」「メールシュトロームの大渦巻」
「赤死病の仮面」「陥穽と振子」「黄金虫」「黒猫」…。

今から「タイムマシン」を履修するには…
ワタシは年を取り過ぎたの…。

Q.天下の早川書房から出たロジャー・コーマンの自伝を読むのに
SFマインドとかセンス・オブ・ワンダーとかが必要でしょうか?
A.デスレース2000年という…全米横断轢殺レースで…
フランケンシュタイン選手が 大統領をハネて次期大統領になる話に
胸躍らせる10歳の少年のココロがあれば他に何も資格は要りません♪



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