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『源氏物語』と本歌取り(1)

 『源氏物語』には795首の和歌(注1)が記載されていますが、そのうち222首が光源氏が詠んだ和歌(注1)とされています。これらの和歌は、後の時代に詠まれた和歌に影響を与え、「本歌取り」の本歌として盛んに用いられるようになりました。
 本歌取り(ほんかどり)とは、有名な古歌(注2)の1句もしくは数句を自作に取り入れて作歌を行う技法ですが、『古今和歌集』の和歌にも見られるように、平安時代中頃には既に確立されていた技法のようです。
注1 作者は無論、紫式部。
注2 引用した古歌を「本歌」というので、「本歌取り」という技法の名がある。

 それでは、『源氏物語』の和歌が実際にどのように本歌として利用されたのか、見てみましょう。

  千五百番歌合に
1126 身にそへるその面影も消えななむ夢なりけりと忘るばかりに(『新古今和歌集』巻第十二 恋歌二(注3) 摂政太政大臣)
[現代語訳](注3)私の身に寄り添っている、恋しいあの人の面影も消えてしまってほしい。あの人との恋は夢だったのだと忘れてしまうほどに。
[語釈](注4)◎「千五百番歌合」(せんごひゃくばんうたあわせ) 「仙洞百首歌合」とも呼ばれ、鎌倉時代に後鳥羽院が主催した歌合。歌合(うたあわせ)とは、歌人を左右二組に分け、その詠んだ和歌を一番ごとに比べて優劣を争う遊び・文芸批評の会。
◎そへる 「そへ」は「そふ」の命令形。「そふ」は「寄り添う」こと。「る」は、動作の継続を表す助動詞「り」の連体形。~ている。
◎面影 「面影」と「影」の掛詞。「そへ」と「消え」は「影」の縁語。
◎消えななむ 「な」は完了する意を表す助動詞「ぬ」の未然形。〜てしまう。「なむ」は他への願望を表す終助詞で、活用語の未然形に接続する。〜てほしい。よって「消えてしまってほしい」と訳され、ここでは三句切れ。
◎けり 詠嘆の意を表す助動詞。~たことだなあ。
◎ばかり 程度を表す副助詞。~くらい。~ほど。
◎摂政太政大臣 九条良経。本姓は藤原氏で五摂家の人。
注3 出典︰新潮日本古典集成『新古今和歌集 下』。
注4 新版『角川古語辞典』、ウィキペディアによる(以降、同)

【本歌】あけぐれの空に憂き身は消えななむ夢なりけりと見てもやむべく(『源氏物語』若菜下 女三宮)
[現代語訳]明けぐれの空に辛いこの身は消えてしまってほしいです。夢であったんだと思って済まされるように。
[語釈]◎あけぐれ(明け暗れ) 夜明け前の薄暗い時。
◎憂き身 辛いことの多い身。「憂き」は、形容詞「憂し」(「辛い」の意)の連体形。
◎と見ても 「と見る」の形で、判断・感想の内容を受ける。~と思う。~と考える。「も」は強めの意を表す係助詞。
◎やむ 終わりにする。
◎べく 可能の意を表す助動詞「べし」の連用形。 ある事柄について、それが可能となるように、あるいは実現されるように、といった意味合いで用いられる。

※タイトル上の写真は、『源氏物語絵巻』若菜下
写真出典︰https://www.dh-jac.net/db1/books/results1280.php?f1=bunko30_b0422&f12=1&enter=portal&lang=ja&skip=7&-max=1&enter=portal&lang=ja

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