【ショートショート】スルメアナ
『……などと言っており、村崎官房長官は発言については言及を避けているもようでふ・……です』
カメラに映るポニーテールのアナウンサー。
彼女は今日も噛んでいる。
「また噛んだわね。これで今日何度目かしら」
スタジオの隅でディレクターの私が嫌味を込めて言う。
しかしプロデューサーはケラケラと笑い飛ばす。
「おお、良い噛みっぷりだな」
「アナウンサーがあんなことで良いのかしら?」
元アナウンサーの私はついムキになってしまう。
情報を正しく伝えるのがアナの仕事だ。
だがプロヂューサーはそんな私の気持ちを汲むこともなく言った。
「よくわからんがアイツが噛むと視聴率が上がるんだよ。噛めば噛むほど味が出るってか?」
「なによそれ」
しかしそのこと自体は私も知っている。
昔はアナウンサーが噛むのは恥と言われていたが、時代が求めているのは違うものなのかもしれない。
『CMのあとは今日のお天ぴ……お天気でしゅ』
しかし、さすがにあれは噛みすぎではないだろうか。
「おお、すごいぞ!視聴率がうなぎ登りだ!」
喜ぶプロデューサーを脇目に私は複雑な心境だった。
✒あとがき
読んでくださってありがとうございました!
電車で目にした「アナウンサー」と「乾物」の文字からお題を頂きました。
お仕事系の作品は一番書くの苦手かもしれない。