【ショートショート】君にしか見えない【#完成された物語】
「お父さん、お母さん」
目の前の両親に声をかけた。
しかし二人から返ってくるのはすすり泣く声だけだった。
両親の前には黒縁の額に入った私の写真。
若くして病で命を失った私は、この世からもあの世からも弾かれた「幽霊」と呼ばれる存在になっていた。
両親だけではない。他の誰にも私の声は届かなかった。
そんな私の声が唯一届いたのは君だった。
なんで君なんだろうね?
もうかれこれ十数年の付き合いになるからかな。
「ごめんね。お父さん、お母さん」
私はもう一度両親に声をかけ、返事がないのを確認すると膝の上の君を抱えて立ち上がった。
「にゃ~」
君が声をあげる。
「大丈夫、わかってるよ。落ち込んでても仕方ないよね」
「んにゃぉ」
「……私と一緒に来てくれるの? ありがとう」
幽霊である私の姿が君にしか見えないのと同様に、
猫である君の言葉は私にしか理解できないらしい。
そして――
君の尻尾が二つに分かれているのも、たぶん私にしか見えていないようだ。
✒あとがき
読んで下さってありがとうございます!
今回はこちらの企画の作品です。
お題
・「君にしか見えない」という言葉を本文中のどこかで使用してください。
・使用の方法は自由です。
・それ以外の本文、タイトルも自由です。
自分でお題を出して自分で書いてみました。笑
上記記事から他の方々の作品も読めますが、皆さんお題の受け止め方やそこからの発想が様々で本当に面白いです。
よかったら是非読んで下さいね!