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映画「ラストマイル」が良かったので感想を綴りたい(ネタバレあり)

日本には数多くいるであろう脚本の野木亜紀子さんファンの一人で本作も楽しみにしていたのですが、「ラストマイル」はそうした期待を上回る良い作品でした。

一度しか観ていないですが、内容を忘れないうちにどんなところが良かったのかを書き記しておこうかと思います。(ネタバレあります)

「誰もが当事者になりうる社会問題」を扱っていたことが良かった

野木さんが書く脚本の魅力のひとつに、いまの社会問題をエンタメに内包するといったものがあります。
それは「アンナチュラル」や「MIU404」でも片鱗が垣間見えましたし、「フェイクニュース」はまさに社会問題を取り上げた作品でした。

「ラストマイル」でも社会問題として、気軽に商品の購入が可能になった「通販」と、そこから発生する「宅配」サービスが取り上げられています。
そこには切り詰められた人件費や過剰な労働時間といった社会問題が浮き上がってきます。
そして、この「通販」「宅配」は誰もが1度くらいは使ったことがあるサービスで、だからこそ「視聴者を当事者として壇上に立たせる」テーマだなと感じました。

「アンナチュラル」や「MIU404」でも、しばしば社会問題が取り上げられてきましたが、多くの人は当事者ではなく傍観者の立場として視聴していたと思います。
しかし「ラストマイル」はほとんどの視聴者を当事者とするテーマを扱っていたので、私は罪悪感にも似たような居心地の悪さを感じたんですよね。

普段の生活と作品がリンクするような感覚……上手く伝わるか分かりませんが「フィクションとノンフィクションの境界線に立っているような作品」として物語に没入させてくれました。

「奥行きのある脚本」であることが良かった

前項でも「作品の奥行き」を感じたことをお話しましたが、それは脚本(あるいは監督を含む演出)でも感じられました。
ここでいう奥行きというのは、世界を細部まで描写することでリアリティを際立たせるといったニュアンスですね。

「ラストマイル」では物流センターを中心に物語が進んでいきますが、様々な人に焦点を当てています。
センターで働く管理職(センター長など)や、作業をする派遣社員の人たち、配達会社の社員、実際に車で配達をする人たち、配達を受け取る消費者たち。
こういった人たちはどんな気持ちでどのように働いているのかを描くことで、今回の事件と社会問題がどんな人たちに影響しているのかが伝わってきて、すごくリアリティを感じたんですよね。そのリアリティが観ていて面白さにつながるんですよね。事件が余計にドキドキします。

爆破事件についてもニュース映像を眺める人たちを映したり、報道ヘリに乗ったレポーターの目線を入れたりしていましたし、物流が滞ることで病院やにも影響が出てくることなんかも、世界の広がりを感じました。

まるで勉強しているかのようですよね。
波及先の広さを解っているつもりでも、以外と瞬間的な想像力はそれほど大きくなく、改めて映像として見ると、配達が遅れると本当にいろんな人に影響が出るんだなと。

野木さんの脚本にはそうした世界を細部まで描写するシーンが多く出てくるので、奥行きを感じる作品になっているなと感じました。重厚な作品を観た満足感がありますよね。

安易に「死」を使って泣き落さないところが良かった

「ラストマイル」では死者が出てくるのですが、結構ドライに扱うんですよね。

爆発して亡くなった人たちもいますが死者数として取り扱うにとどめたり、名前の出てくる方々も、それほど過去を深堀しないので「こんな良い人が亡くなってしまったのか」という感情の上下をあまりしてきません(全くないわけではないですが)。

きっとよくある展開だったら、映画の冒頭から人間味を感じるシーンが多かった配送ドライバーの息子さんなんて、終盤の爆発で命を落としたり、大けがをさせたりしちゃいますよ。
でも、そうした分かりやすい泣き所を用いないんですよね。そこが好きです。

満島ひかりさんの演技が良かった

満島ひかりさん、本当に演技が上手いですよね。
本作には演技の上手い役者さんが多数出ているのですが、満島ひかりさんの演技はひと際輝いていたように思います。

特に私が好きなのは、爆弾のスイッチに触れて指が離せなくなる緊迫したシーンです。
物語としても転換点を迎え、大きな盛り上がりを見せるシーンですが、手が震えながらも会話していた舟渡エレナが、警察の爆発物処理班が到着してから子供のように泣きそうになる、そんなシーンです。

「警察の人たちが到着した瞬間、一気にいまの状況に現実感が出てきて恐怖がせりあがってくる」という内面を完璧に演じられていて、私も自分のことのように泣きそうになっちゃいました。
実際、私は爆弾の解除を待つ経験なんてないのですが、経験がないのにさも本当のように感じるというのは、一流の俳優さんだからこそ成せる演技なのだなと思います。
もちろん監督からの細かなディレクションが入っているとは思いますが、それにしても迫真の演技でした。心つかまれてしまいましたね。

劇伴(音楽)で登場を予感させる演出が良かった

「ラストマイル」が発表されたとき、「アンナチュラル」「MIU404」の登場人物も出演することにワクワクを感じた方も多いのではないのでしょうか。
私もその一人で、どういった形で登場するのか楽しみでした。ミコトや志摩はいつでるのかなって。

だから「ラストマイル」を観ているときに「MIU404」の劇伴(音楽)が流れてきたときのワクワク感、すごかったです。
あ、今から登場するんだ! という予感を演出してくれたので、いざ登場したときの格好良さったらもうなかったですよ。

「アンナチュラル」の登場人物が出てくるときも、あのコインの音が流れて鳥肌が立っちゃいました。
しびれる演出でしたよね。

ショッピングモールでの爆発シーンの映像が良かった

あれ、瞬間的な映像だったから良く覚えていないんですけれど、やたら迫力のあるダイナミックな映像になっていましたよね。逃げ惑う人々の主観視点は緊迫感がありました。

あとドローンですかね? 爆発の煙をかいくぐるような映像はいままで見たことがなかったので「どうやって撮影したんだろう?」と気になるくらい、格好良かったです。

総じて映像の格好良さが際立っていたカメラワーク、映像演出でした。

「死んでも止めるな」

物流センターのベルトコンベアは止めたくない偉い人から出た台詞です。

これを言った偉い人は、(その時点では)その言葉を伝えたい相手自身が飛び降りたことは分かっていないのですが、死んで止めようとした人に死んでも止めるなという言葉を伝えようとするシーンのあまりに皮肉めいた見せ方に、悪趣味に感じるほどです。

実際に「死んでも~するな」を使ったことはなくても、自分のことを振り返ってしまうかのようなシーンでした。

時差ぼけ

そういえば冒頭で舟渡エレナがあくびをして「時差ぼけ」と冗談を言ったシーン、実際には本当にアメリカから来ていたっていう伏線ですね。
これを書くときに思い返していて気が付きました。

頑丈な洗濯機など、分かりやすくてきちんと回収された伏線も多くありましたが、こういう振り返ってみると実はあれは……的な伏線も好きです。

社会問題をエンタメとして消費することの抵抗感

とても良かった本作ですが、唯一個人的に引っかかるのが、社会問題をエンタメとして消費することに抵抗感があるということでしょうか。

おススメしたい映画ではあるものの、実際にはいまも配送で苦しんでいる当事者がいると考えると、当事者にとってはつらいことをエンタメとして楽しんでしまって良いのだろうかと考えてしまいます。

もちろん、そんなことを気にし始めたら、この世界にあるエンタメの何割かは楽しめなくなってしまいますが、作品が良すぎた(リアリティがあった)ために、余計にそう感じてしまっているのだと思います。

おわりに

「アンナチュラル」「MIU404」を観たときに得た感情は、野木さんの脚本でしか味わえないのではないかと思っていましたが、まさにそんな感情を得られた良い作品でした。

脚本以外も映像、劇伴、演技、小道具など、関わった様々な方があってこその作品で、良い体験をさせてもらいました。

映画1本分の料金では足りないです、パンフレット買わせてください。
(売り切れてました)

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