私たちのビジョンを市場に出すタイミングはいつか?
全国病院経営管理学会リハ専門委員会のビジョン及び事業計画が、先日の委員会で再審議の末に承認されました。承認された2024年度までのビジョン及び事業計画は、以下の通りです。
一方、リハ専門職を対象とした意識調査をTwitterで実施しました。質問は、”リハの対象者に対し、診療報酬や介護報酬に繋がらない間接的介入に労力を割く価値をあなたは感じますか?”という問いです。調査期間は、2022年2月22日から5日間でした。インプレッション数は22,031、エンゲージメントは820、回答数は692、リツイートは56でした。
そこで、本noteでは、全国病院経営管理学会リハ専門委員会の3年後のビジョンを解説すると共に、私がなぜこのような意識調査を行ったのかの理由を記します。
リハ専門委員会が3年後に目指すところ
前述のとおり、リハ専門委員会の2024年度までのビジョンは、”リハ専門職の包括化を見据えた、効果的・効率的な介入のあり方を創造し具現化する”です。
近い将来、「リハ専門職は、直接的介入に限らず、間接的介入においても成果が求められるようになる」と私たちは考えています。間接的介入とは、直接的介入以外の介入を指します。例えば、対象者の家族などといった他者による介入やセルフエクササイズ、対象者を取り巻く環境や空間の利活用などを指します。
リハ専門職が間接的介入においても成果が求められるようになると私たちが考えるのは、近年の診療報酬改定が「効率化・最適化を求める傾向」にあるためです。具体的には、過剰なリハビリテーションを抑制しつつ、一定のアウトカムを求める「包括化」の推進です。例えば、地域包括ケア病棟入院料におけるリハビリテーションの包括化や、ADL維持向上等体制加算でリハ専門職に求められる間接的介入がそれです。つまり、「リハビリテーションを包括化(提供量に比例する出来高払いから、提供量に比例しない包括払いに移行)することで、過剰な量は抑制し、必要量はアウトカムを求めて担保する」といった仕組みで、全体の効率化・最適化を図ろうとしているのです。
他方、現在の疾患別リハビリテーション料は、患者に対して 20 分以上個別療法を行った場合に算定する出来高払いです。しかし、このような時間単位の報酬体系では、効率化・最適化に対する経営的なインセンティブは働きにくくなります。
これらの理由で、診療報酬改定が今後も効率化・最適化を求め続けた先には、疾患別リハビリテーション料が包括化されることは不思議ではないと私たちは考えているのです。
疾患別リハビリテーション料が包括化されると、リハ専門職の増員は経営判断として今より困難になることが推測されます。すると、限られた人員数で常に一定のアウトカムが求められるという状況になります。つまり、少なくとも疾患別リハビリテーション量が包括化されるまでに、リハ専門職が効果的・効率的な間接的介入で成果を示せる状況にしたいというのが私たちの目指すところです。
市場に出すタイミングの重要性
”冷凍で食を豊かに”を目指すニチレイフーズ”は、2002年に「日本の味おむすび」を販売しました。このおむすびは冷凍食品でありながらも、外はしっかり中はふっくらとした握り加減で一口目で具にたどり着くことができ、海苔も有明産を採用していました。つまり、発売から20年後の2022年現在の市場に並ぶおむすびと比較しても、全く遜色の無い商品でした。しかし、この「日本の味おむすび」は、わずか2年ほどで店頭から姿を消したそうです。
ではなぜ、「日本の味おむすび」は市場から姿を消したのか。それは、市場に出すタイミングが早すぎたからです。
現在は、当時の「日本の味おむすび」と同品質の冷凍食品はとても売れています。しかし、20年前の発売当時は、「おにぎりは家で握るもの」というイメージが強く、家で握った方が安いと考える人が多かったために売れなかったのです。つまり、どんなに良いものであっても、市場に出すタイミングが早ければ求められないのです。
リハ専門職に対する意識調査を行った理由と結果
私がリハ専門職に対する意識調査をTwitterで行ったのは、”私たちリハ専門委員会の2024年度までのビジョンを世に出すタイミングは、早すぎていないのか?”を確かめるためでした。
私がそのように考えたのは、「一部のリハ部門のマネジャーが、収入につながらない間接的介入には、価値を感じないという意味の発言をしていた」という事実を聞いたためでした。たしかに、ある側面から考えると合理的な考え方かもしれません。したがって、「間接的介入に価値がない」という考え方を否定するつもりはありません。しかし、少なくとも私たちが考える「間接的介入の価値に焦点を当てたビジョン」に共感いただく方が少なければ、活動自体に意味が生じなくなってしまうのです。
冒頭でお示ししたように、Twitterによる調査の結果は、”リハの対象者に対して、診療報酬や介護報酬に繋がらない間接的介入に労力を割く価値を感じているリハ専門職は72.1%”、”感じていないリハ専門職は15.3%”、”どちらでもないリハ専門職は12.6%”でした。このことから、「いわゆる算定につながらない間接的介入に70%以上のリハ専門職は価値を感じている一方、15%強のリハ専門職は価値を感じていない」ことがわかりました。
この結果を受けて、私たちは自信をもってリハ専門委員会の新たなビジョンに即した活動を行っていこうと決意しました。
結語
どんなに良い製品も、市場に出すタイミングが早すぎると求められません。私たちが目指すビジョンは、一部のリハ専門職には求められないかもしれません。しかし、7割以上のリハ専門職には求められていることがわかりました。
『機は熟した!』
全国病院経営管理学会リハ専門委員会は新たなビジョンを掲げ、全国のリハ部門の課題解決に少しでもお役に立ちたいと考えております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考
・ニチレイフーズホームページ:時代が早すぎた!? 美味しいのにブームにならなかったニチレイの隠れた名品.https://www.nichireifoods.co.jp/media/16102/?amp=1(参照2022.2.25)
・PT-OT-ST.NET:ADL維持向上等体制加算.https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/2506(参照2022.3.2)
・PT-OT-ST.NET:地域包括ケア病棟入院料.https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1789(参照2022.3.2)