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リハ専門職の人材不足をマネジメントで乗り越えられるのか?
本noteは、2024年11月15日に開催された、全国病院経営管理学会 第59回大会のシンポジウムで筆者が講演した要旨です。
この内容は、全国病院経営管理学会リハ専門委員会の発足からこれまでの8年間の調査研究の結果に基づいています。われわれの活動の内容を多くの方々に知っていただき、業界を挙げてマネジメントの課題に取り組む契機になればと考え、事務局の許可を得て公開します。
外部環境の外観
医療・福祉産業における2040年の産業別就業者数は974万人と推計されています。これは、近い将来、医療・福祉産業は、わが国の第2位の産業に成長する可能性を示唆しています。
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また、医療・福祉産業における2040年と2025年の推計の差は66万人です。つまり、これからの約15年で、66万人の就業者数の増加が必要になります。
それでは、現在の医療関係職種の受給バランスはどうでしょうか。多くの医療関係職種の有効求人倍率は1を上回っており、人材の確保が困難な状況がうかがえます。さらに、その程度は緩徐に深刻化しているように見えます。
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それでは、リハ専門職のなり手の数はどうでしょうか。直近の数値は確認できませんが、少なくとも令和3年(2021年)以降、リハ専門職を育成する大学および短期大学の入学定員充足率は100%を切っています。つまり、リハ専門職のなり手も、すでに減少に転じています。
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それでは、リハ専門職の現場の不足感はどうでしょうか。以下に示す医療機関のデータはやや古いものですが、高度急性期と生活期で人材不足感が顕著であることがわかります。
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また、介護領域においては、令和5年(2023年)時点でも、リハ専門職の不足感は持続しています。
さて、われわれリハ専門委員会は、2017年に発足して以降、下記に示すビジョンに到達すべく、さまざまな調査研究を行ってきました。
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ここからは、われわれのこれまでの調査研究結果を基に、現場の人材不足感を緩和するための実現可能な手段について、マネジメントの視点で考えます。
リハ専門職における現実的な人材確保戦略
人的資源管理(Human Resource Management)の枠組みでは、ジョブ・マーケットから人材を採用した後、その人材を適所に配置し、評価に基づいて報酬および育成するというサイクルがあります。このサイクルから離れて人材がジョブ・マーケットに戻ることが退職です。
リハ専門職は、すでになり手が減少に転じているため、人材不足の緩和を採用に依存することは困難です。したがって、リハ専門職の人材不足緩和の現実的手段は、「如何に定着率を向上させて退職を抑制するか」になります。
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一方、職員満足、顧客満足および利益には、循環的な関係性が指摘されています。これは、サービス業で成功している企業を定性的に分析した結果として1994年に提唱されたものですが、これを病院に置き換えて考えてみます。
まず、職員満足が向上すると病院に対する職員のロイヤリティが高まり、患者に対して良質なサービスを提供するようになることで患者満足度が高まります。患者満足度が高まると、病院に対する患者のロイヤリティが高まるため、集患などの財政的なパフォーマンスが向上します。すると、病院の内部向けのサービスが向上し、再び職員満足が向上するといった関係です。この概念図の多くの構成要素は、われわれリハ専門委員会が過去に取り扱った調査研究内容です。
そこで、この概念図にある循環的な関係性を前提として、過去のわれわれの調査研究結果から、職員の定着率の向上に寄与するであろう、患者満足、職員満足、職員の生産性向上および人材活用の具体策を整理します。
患者満足を高めるための具体策
リハの患者満足度に影響を与える要因は、自覚する成果の有無、身だしなみ、リハ内容の納得度、得られた効果の説明の有無、表情、チームワーク、わかりやすい言葉であることが統計的分析により明らかになりました。
つまり、リハ専門職が患者満足度を高めるには、自覚できる成果の提供と得られた成果を具体的に説明することに加え、個別性の高いリハ計画を医療面接などで協創すること。そして、他職種間のチームワークとリハ専門職自身の接遇を向上することが有用と考えることができます。
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職員満足を高めるための具体策
それでは、リハ専門職が求める職場とはどのようなものでしょうか。多くのリハ専門職は、仕事に対するやりがいは高く、雰囲気や関係性といった組織風土の満足度は高いようです。しかし、人事評価や労働時間、待遇に対する満足度は比較的低く、職場の理念やビジョンに共感しつつも、帰属意識は比較的低いことが明らかになりました。また、報酬や評価、貢献実感が強い影響を与えるとされる職場の推奨度(eNPS)は、全業種平均より低い結果でした。
つまり、リハ専門職にとって魅力的な職場とするためには、人事評価の考課者に対する教育や、付帯業務の効率化による生産性の高い仕組みづくり、管理監督者とスタッフとの双方向的なコミュニケーションが有用と考えることができます。
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生産性向上のための具体策
それでは、生産性の向上について考えます。ピーター・ドラッカーは、リハ専門職を医療テクノロジストに区分しました。
テクノロジストには、肉体労働者と知識労働者の両面の特徴があります。われわれリハ専門職が、対象者と経営者に対して効率的に便益をもたらすには、知識労働者としての特徴を活かす必要があります。その鍵が間接的介入ではないかと考えています。間接的介入とは、個別療法に依存せずに、他者を介して成果を出すというマネジメントによる介入とリハ専門委員会では定義しています。
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それでは、個別療法による直接的介入であるハンズオンから、間接的介入であるハンズオフにシフトするには何が必要でしょうか。まずは、ハンズオンの内容と量の継時的変化を可視化することが必要と考えます。
下の図の左側は、藤田医科大学のリハ部門で開発したデータベースシステムで、5分おきの訓練内容をlogとして記録・収集し可視化した例です。このように、ハンズオンの内容を可視化し、何をいつからどのようにハンズオフとするかをデザインする必要があります。
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一方、上の図の右側は、具体的な間接的介入内容の実施状況とその有効性の実感度の調査結果の散布図です。すでに多くの病院で実施されている間接的介入のうち、一部の間接的介入は、有効性の実感が低いまま継続されている現状があります。
このことから、限られた資源を効果的に活かす間接的介入を実現するためには、間接的介入の評価指標の明確化と有効性の検証が必要と考えます。
それでは、間接的介入の実現に必要な内部環境はどうあるべきでしょうか。下の図の左側は、間接的介入の実施に必要と考える要素と病床区分のクロス集計表です。
この結果から、間接的介入を実施するには、スタッフの対応力と他職種の協力が重要と考えられていることがわかります。
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それでは、スタッフの対応力とは何でしょうか。上の図の右側は、リハ専門職の業務遂行能力と習得年数との関係の箱ひげ図です。熟達①および②は、直接的介入である個別療法を、指示または指導下あるいは単独で行うことができるようになる年数を示しています。一方、習熟③から⑤は、患者自身が行う自主トレーニングと、他のリハ専門職あるいは、他職種や他部門を介してリハの成果を得る間接的介入が行えるようになる年数を示しています。
つまり、間接的介入が実施できるスタッフの対応力とは、リハの成果を得るためのマネジメント力と考えることができます。
それでは、間接的介入が行えないボトルネックは何でしょうか。下の図の左側は、間接的介入が行えない理由と病床区分のクロス集計表です。
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この結果から、間接的介入が行えない理由は、収益性の問題と人員および時間の不足によるものが大きいことがわかります。収益性の問題の解決には公的医療保険の適用となる必要があります。また、人員の不足も、すぐに解決できません。しかし、時間の不足は、DXや運用の工夫で捻出できる可能性があります。
上の図の右側は、演者が当時在籍していたリハ部門のスタッフを対象に行ったタイムスタディを基にして、主体業務と付帯業務の理想的な割合をデザインしたものです。これを見る限り、DXや運用の工夫で時間を捻出するには、診療録の記載と情報収集にターゲティングする必要があります。
人材活用の具体策
これまでは、人材不足を緩和するために、如何に定着率を向上させて退職を抑制するかの具体策を解説しました。ここからは、それによりリハ専門職が余剰となった場合の人材活用策を考えます。
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上の図は、左から、外来患者数が最大となる年、入院患者数が最大となる年、訪問診療を受ける患者数が最大となる年の二次医療圏ごとのカラースケールです。わが国の状況を概観すると、外来患者数はすでに2015年以前にピークアウトしており、入院患者数は2035年、訪問診療を受ける患者数は2040年以降にピークを迎えるところが多いことがわかります。
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それでは、リハ専門職が従事している領域とその割合を見てみます。上の図の左側は、医療施設、介護サービス施設または事業所に従事するPT数とOT数の推移です。やや古いデータですが、介護サービス領域に比べて医療施設に従事するリハ専門職が圧倒的に多いことがわかります。
一方、上の図の右側は、PTとOTの領域別の従事者割合です。これもやや古いデータですが、PTの約6割、OTの約7割は病院に勤務しています。つまり、リハ専門職の多くは、医療領域に偏在していることがわかります。
長期的視点で考えるリハ専門職の戦略人事
リハ専門職の多くが偏在している医療領域の医療需要は、外来患者数はすでにピークアウトし、入院患者数も2035年にはピークアウトすることはすでに述べました。したがって、医療領域に従事しているリハ専門職は、今から約10年後の2035年以降に余剰となる可能性が考えられます。
おそらく、約10年後も多くの病院で雇用しているリハ専門職は、依然として若年と中堅の割合が多く、定年退職による減員は期待できない状況と推測します。このことから、リハ専門職の戦略人事の推進が必要になると考えます。具体的には、リハ専門職としての従事する領域を計画的に医療領域から介護領域に移行すること。そして、リハ専門職としてではなく、病院経営および管理業務に計画的に移行することです。
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上の図の左側は、病院の経営あるいは管理に参画しているリハ専門職の現状を示しています。注目すべきは、リハ専門職が法人内の地域連携、経営企画、人事、総務および財務に参画している点です。
リハビリテーションとは、再び適した状態にすることを意味しています。そのために求められるリハ専門職の仕事の特性は、対人影響力を基盤として、状況分析および課題解決を行うことが求められることです。したがって、リハ専門職は、病院経営との親和性が比較的高い医療従事者ではないかと考えられます。
上の図の右側は、リハ専門職が病院経営および管理に参画するステップの一例です。診療報酬の枠組みの中で活躍できるようになったリハ専門職に、診療報酬の枠組みの外でのマネジメントの機会を提供する。そして、将来的には職種の特性を活かして、病院経営や管理業務に参画できるようにする。それが可能な医療従事者がリハ専門職であると私は考えています。
まとめ
リハ専門職の人材不足は、マネジメントで乗り越えられると考えます。
採用が困難な今は、職員定着率の向上に投資することが有用です。具体的には、成果の共有、医療面接、チームワークと接遇力の高い、「求められるリハ専門職を育成すること」。納得感のある人事評価、業務の効率化および心理的安全性の高い、「リハ専門職が求める職場をつくること」。そして、プログラムの可視化、間接的介入の有効性の検証、対応力の育成による、「生産性の高い間接的介入などの医療提供価値を高めること」の3つです。
そして、今後は、リハ専門職による地域連携や人事、経営部門への参画も期待できると考えます。また、こうしたマネジメントを行うことにより、冒頭で困難と考えた採用に対しても、高い優位性を得る可能性が高まるかもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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