この半年弱で読んだ本の短い感想たち(2024年8月)

本を読んだら、本当は感想文とか書評(と言うと偉そうだな…)とかコツコツ書いていかなきゃいけないと思いつつ、そのためのまとまった時間も取りづらいし、モノによっては実はそういう感想文が書けるほど深く読んでいるわけでもなかったりする。
この8月は本業がある意味で落ち着く(仕事自体は山積みなんだけど)時期で、いつもに比べると落ち着いて読書に時間を割けたので、それぞれ簡単にだけ振り返ってみる(そして、そのなかにここ半年くらいで読んだ本を混ぜてみたりもする)

関数型ドメインモデリング ドメイン駆動設計とF#でソフトウェアの複雑さに立ち向かう

ここ数ヶ月で一番楽しみにしてたかも。内容としては以前 naoya_ito さんが発表していた内容と、これまで自分が経験してきた Scala で組まれたキサゴナルアーキテクチャの経験からある程度の想像がついていたので、代数的データ型の駆使や副作用の明示など、個人的に大きな目新しさがあったわけではない。
そんな自分にとって印象深かったのは冒頭第1章の「ビジネスイベントによるドメインの理解」にあった以下の一節だ。

 本書で示す最初のガイドラインは、データ構造ではなく、ビジネスイベントやワークフローに焦点を当てる、です。なぜでしょうか?
 おsれは、ビジネスは単にデータを持っているだけではなく、何らかの方法でデータを変換するからです。

『関数型ドメインモデリング』p.9 より

言われてみれば当たり前なんだけど、僕はこれを読んでイベントストーミングという手法がドメイン駆動設計の中で重視されているのかや、その「変換」の処理に着目してファンクショナルにプログラムを組むということに腹落ちした。

ドメイン駆動設計を始めよう ―ソフトウェアの実装と事業戦略を結びつける実践技法

そのドメイン駆動設計も含めて、ドメイン駆動設計の原典であるEvans本と、現代の技術的事情やドメイン駆動設計の最近のベースラインとの橋渡しがとても良くできているなと思った。
ドメイン駆動設計に関する用語に、Evans本とは異なる訳語が割り当てられていることは既に話題になっている。賛否それぞれ意見はあるだろうし、「domain」を「事業」、「subdomain」を「業務」と訳したのはかなり大胆だとは思う。でも、個人的にはとてもわかりやすさの上がるアプローチだと思ったし、この書籍の大きな推しポイントの一つになった。
特に良かったのは「Ubiquitous Language」を「同じ言葉」と訳したところ。自分のこれまでの経験では、「ユビキタス言語」と銘打ちつつ、事業に直接関わっている者の声を聞かず、ソフトウェアの作り手の独りよがりなモデリング体系をを構築することを進めてしまったり、加担してしまったこともあったなぁとこの訳語を通じて思い出す。「同じ言葉」という素敵な訳語を通して、本来の意味であり基本に立ち返れる人が一人でもいるといいなと思ったし、個人的に「またモノづくりしてぇな!」という気持ちも湧き出るところとなった。

スタッフエンジニアの道 優れた技術専門職になるためのガイド

訳者の島田浩二さんとは、縁あってここ数作にわたって翻訳レビュアーとして関わらせてもらえるようになっており、この書籍のゲラも数ヶ月前に読み進めさせてもらっていた。島田さんのブログにもあるように、スタッフエンジニアの仕事をマネージャーやテクニカルエグゼクティブの視点から解説した Will Larson の『スタッフエンジニア』と対比して、自身がスタッフプラスのエンジニアとして働いた経験から書かれる、また違った良さがあるなと思う。
翻訳レビューはいつも読破しきれないまま期限を迎えてしまう(特に今回は本業の新卒研修が立ち上がりの時期で大変だった…)のだが、先日一足早く献本書籍を頂いたので、レビュー時に読めていなかった第Ⅲ部を読んでいるところだ。特に、8章「良い影響力を広げる」は、その影響力の広げ方の直接的なアプローチと間接的なアプローチを、その間にあるグラデーショナルなところも含めて多岐にわたって紹介してくれていて、今後の仕事での振る舞い方にも多分に参考になるだろうなと思った。

入門継続的デリバリー ―テストからリリースまでを安全に自動化するソフトウェアデリバリーのプロセス

自分が学ぶというより教育用途でどういうことが書かれているんだろうという興味で購入して流し読みしていたのだが良いこと書いてあった。
10年以上前に Jez Humble らが継続的デリバリーの概念を紹介した当時と比べれば、インフラ面でも圧倒的に良い環境にて継続的デリバリーの実践は簡単になったし、Four Keys や SPACE などを踏まえて継続的デリバリーにまつわるKPIを設定する際にもスターターキット的な考え方を手に入れる。だからこそ継続的デリバリーになぜ取り組むのかの理解して、カーゴカルトに陥らないことが重要だ。

ユニクロ

ここからはソフトウェア・エンジニアリングに関係ない本。大学時代にユニクロでアルバイトしていた当時は『ユニクロ帝国の光と影』が出版されたり、店長の労務問題が深刻化して「ブラック企業」がユニクロを形容する一番の言葉だった時代だ。
ユニクロの1号店となる「Unique Clothing Warehouse」を広島に出店したとき、柳井は35歳。原宿に関東1号店となる店舗を出店してフリースブームを起こしたのが48歳の時だということ。最近はスタートアップ企業の起業家も若い人が多いけれど、本当に大きい仕事・大きいビジネスは数年でチャチャッとできるわけでもないし、この長い戦いをひたすらコツコツ積み重ねていくっていうことの果てしなさ(小学生並みの語彙)が、本書を読んで一番の感想だし、自分がユニクロで働いていた3年弱も、そのほんの1ページに過ぎないんだよなというのを思う。

暗躍の球史 根本陸夫が動いた時代

前作『根本陸夫伝』の続編。前作が「根本陸夫という球界の影に光を当てた本」だとしたら、今作は「影に光を当てたときに新たに見えた影」みたいな話だなと思った。根本の更に奥にいた男の話、ダイエー時代の根本に関して補証言など。前作ほどの「痛快さ」こそないものの、一人の男の立体的な像が見えてくる感じで面白かった。

2004年のプロ野球 球界再編20年目の真実

自分自身は高校受験真っ盛りで野球観戦を少しお休みしていた2004年、球界は大変なことになっていた。当然ながら中学生だった当時の自分の理解が追いつくわけがなかった球界再編問題。今の球場の賑わい方を見れば「当時のパ・リーグ球団の経営努力が至っていなかっただけ」と評するのは簡単だが、球団を取り巻く環境もそう簡単に動かせるものでもないし、今のプロ野球全体の盛り上がりも、マスメディアのちからと巨人人気が絶対的でなくなったからこそであって、2004年は歴史の転換点でもあり、単なる過渡期だったからこそなのかな、とか。そこでギリギリのところで踏ん張って「2リーグ・12球団制」を守った人たちに感謝しかないな、という感想。
本書は中立な立場で描こうとされつつも、著者の山室さんも結局は読売の人なわけで、ん?そこはどうなの?という書き方がないわけではない。そこら辺はちょうど当時の選手サイドからのビューとして「フルタの方程式」の中で対談が公開される(前編が公開済み、本稿記述時点では後編は2日後に公開予定になっている)ので、2つ合わせて、両サイドから球界再編問題を振り返れるんじゃないのかなと思う。

そんなところで。

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