風が通るといろいろかわる
時間軸を未来に伸ばしてみるといいですよ。
淡路島に移住して農業をしているヒロキ(柏木大樹)さんと、
そんな話になった。
自然農でコメやたくさんの野菜を育てているヒロキさんは、
農作業を「野良」、自分のことを「百姓」という。
「みんなを楽しませるから野良作業」
わたしに時間軸のアドバイスをしてくれたのは、
わたしが育て始めたばかりのバジルに元気がなくなったこと。
栄養剤を注入しようかと考えていること。
自然農とかオーガニックとかいろいろ知ってるけど、
いざ自分のこととなると、ホントに小さなバジルにさえ、
化学を与えようとして笑ったこと、
などのお恥ずかしいエピソードを開陳したとき、
前を歩いていたヒロキさんは振り返って、
「時間軸を未来に伸ばしてみるといいですよ」
といった。
畑にしゃがんでホーリーバジルの匂いをかぎ、
綿花の育て方、里芋の育て方、カボチャの育て方、菊芋の育て方、
いろんな話を聞いていて共通するのは、
水と風だった。
朝は山から降りてくる風、夕方は海から上がってくる風、
表面を流れる水、浅い地面下に流れる水、深い地層に流れる水。
一枚の同じ畑で乾燥した作付部分と、水が溜まっている作付部分がある。
里芋はインドネシア原産だからたっぷりの水が必要で、
カボチャは中央アメリカの高地の産なので水はいらない。
「調べればわかることですよね」
水のある部分と水のない部分が、ひとつの畑に共存する。
そんな手品みたいなことができるんだ。
「自然って、水平じゃない。高いところと低いところがあって、
水は低いところにたまっていくでしょ」
もともと農家の生まれではない。
農業を専門にしたわけでもない。
観察、想像、試行錯誤。
よく観ること、これからどうなっていくのか想像すること、
やってみて、ダメならまた違う方法で試してみること。
そうやってひとつひとつ、自分で切り開いていく。
「for you じゃなくて for me。自分のためにやってるんです」
しばらく畑とたんぼにいて、
「じゃあ次は山に行ってみましょう」
ということで、山の中にクルマでいって、
クルマからおりて林道に入って、
林道からおりて沢に入って、
水路の整備をした。
草を刈り、ツルを切り、枝を落とす。
倒れている木をどかし、塞いでいる石を動かす。
「風が通るようになった」
風が通るようになったら、
水の通りも良くなった。
稲と稲の間に風が通る。
綿花と綿花の間に風が通る。
ホーリーバジルにも風が。
光が差し込み、風が通る。
時間軸を未来に延ばす、ということが、
ぼんやりとだけれどもわかった気がする。