見出し画像

ビュッフェでは「何を食べるか」ではなく、「何を食べないか」

本を読んでいたら「ミモザサラダ」っていうのがでてきて、
ミモザサラダってなんだろう、と検索してみた。

チーズ、じゃがいも、缶詰や水煮の魚、米、たまねき、ニンジン、ゆで卵などを、マヨネーズをつなぎとして重ねてつくるサラダ。それぞれの素材が層になるように美しく積み上げてつくり、ケーキのようにカットして取り分ける。
(略)
日本では単に刻んだゆで卵をちらしたサラダのことをミモザサラダと称することもある。

wikipedia

『キッチンが呼んでいる!』という本で、
主人公の女性が友人と久しぶりに会ってランチをする。

この店は、サラダバーとアメリカンスタイルのグリル料理が売りだけど、サラダバーには各種前菜やスープ、ちょっとした温かい料理にデザートまで並んでいるから、今日は二人ともメイン料理はパスしてサラダバーに集中することに最初から決めていた。

『キッチンが呼んでいる!』p24

サラダバーからとってきたサラダの皿を前にして、その友人はいう。
「ビュッフェは、『何を食べるか』じゃなくて、『何を食べないか』なのよ」

たしかに、ホテルの朝ごはんはたいていビュッフェスタイル(いわゆるバイキング)で、
朝からそんなに食べるのか〜? と他人の皿を見て思ったりする一方で、
朝からその土地の名物料理かなんかあったりして、
たとえば長崎だと皿うどんが小分けされて提供してあったり、
肉が美味しい地域、魚が美味しい地域、山菜の美味しい季節、
なんて並んでるから、
せっかくだからみんな食べたい、食べなきゃ損、で、
ちょこっとずつ取ってもすぐにお皿は満杯になる。

わたしの場合、主食はごはんにして、パンは食べない、と決めている。
そのごはんは一膳だけ。おかわりはしない、とも。
なので、おかずはそのごはんは一膳だけで収まる分だけしか取らない。
なので、おかずは小さい魚がひと切れ、お肉ものを一点、
副菜が3種類ほど、野菜のサラダ、おみそ汁、となる。

サラダバーから戻ってきたふたりのお皿には、
何がのっているか。
主人公の女性のは、

わたしのお皿には、コブサラダを中心に、クスクスサラダやキャロットラペなど厳選五種のデリが並んでいる。サラダバーのデリコーナーには全部で一〇種類ぐらいの料理が並んでいた。昔ならわたしも全種類一口ずつのせて満足した気になっていたはずだ。でも今はそこからシビアに取捨選択すること学習済み。キャロットラペは一口分でもいいかもしれないけど、コブサラダやクスクスはガバっと食べてこそ、その美味しさに到達できる。この店のポテトサラダは確かにおいしいかもしれないけど、あえてここで食べなくても良い。

『キッチンが呼んでいる!』p27

その友だちのお皿には、どんな料理がのっていたか。

彼女の皿は更に潔く、トレビスが少し混ざったロメインレタスを敷き詰めたところにドレッシングがかけられ、そこに刻んだゆで卵だけがこんもりのっていた。つまり「ミモザサラダ」というわけだ。調味料コーナーに置かれていた「トリュフオイル」も少しふりかけてあると言う。なんて素敵な!

『キッチンが呼んでいる!』p28

トレビスもロメインレタスも知らないけれども、
それはそれで「葉っぱだな」でスルーできるが、
「ミモザサラダ」がなんだかを知らないとこの文章の味がわからない。

ので調べたら、日本ではゆで卵サラダのことだ、と。
10種類の小洒落たおかずたちが並んでいるサラダバーで、
あえてレタスとゆで卵という「素材」をつかって、
自分なりの料理をつくる。

これはブリコラージュだ。設計図を描き、予定を組んで仕事を進めていくのではなく、
その場で手にいられるものを寄せ集めて、
その場で何が作れるか試行錯誤しながら、新しいものをつくっていく。
組織経営で最近良く使われる用語が「ブリコラージュ」。
不確実性が高まっていて、成功の方程式も崩れているいま、
それまでの成功体験に則って時間をかけてやっている場合じゃないだろう、
ということで、「ブリコラージュ」がもてはやされている。

友だちさんの「ミモザサラダ」も、ブリコラージュの一種で、
ビュッフェでそんな楽しみ方があるんだなあ、
と教えてもらって、さっそくどこかで試したくなった。


『キッチンが呼んでいる!』稲田俊輔 小学館 2022年