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そっちはいいだろうけど、こっちは大変なのよ
宝来館、朝5時。
2Fにある「大黒の湯」、お風呂に入る。
こじんまりとした浴室。
大きくはないけど小さくもない、内湯。
身体を軽く洗って、まずはここであったまる。
しーん、っと無音。
外湯に移る。
直径1.5メートルぐらいの、丸いヒノキの湯船。
かすかなヒノキの香り。
ざざざざざっと波の音。
ライトアップされた松林。
津波に耐えて生き残った松たちだ。
全身、半身浴を繰り返す。
額には汗。
冷たい風が、その汗をなぞってひんやり心地いい。
この寒さで、一日中この温度を保つのに、
どのくらいコストがかかってるんだろう。
いよいよ宝来館が危ないらしい。
なので、応援宿泊にやってきた。
世の中はインバウンドで景気がいいらしいし、
釜石でも市内のホテルはビジネス客で賑わっている。
でも、ビジネスユースではない宝来館はそうではない。
今回の応援宿泊は6人。みんな地元の友だち。
わたしたち以外にお客さんはいない。
だから、フロント、食事のサービス、すべて一人でやるワンオペ。
従業員はみんな帰宅させ、義理の息子にワンオペさせ、
おかみさんはわたしたちの食事につきあっておしゃべり。
食事はいつものように美味しい。
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実は厨房もワンオペ。
若い調理人たちが辞めて、親方一人でやってる。
だから、料理を提供できる人数に限りがある。
一人で30人も40人ものコース料理を、温かいまま提供するのは難しい。
だから、宿泊客数をしぼるしかない。
ヘルプの職人が来るまで、ひと月ぐらい休館しようと思っていた。
ところが、資金がショートしそうだ、ということになった。
旅館を開けないと日銭が稼げない、
だけどお相手するお客さんは増やせない。
それでも、やっぱりたくましく営業しよう。
ということで、応援宿泊。
でないと、
「え! あのお店なくなっちゃったの?!」
になっちゃう。
宝来館ファンが呼びかけて、
少しずつ予約がもどってきている。
東京からも
「みんなで行こう! 行けない人はおカネだけでも!」
というキャンペーン。
お風呂からあがっても、汗がなかなかひかない。
ヘルスメーターに乗ったら、昨日の食事前から1キロ増えていた。
……なんてこった。