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中学生の被災地見学、ボランティア、ラグビー合宿(釜石までの道 2011年〜2020年⑨)
バスの冷房が壊れた。
外は真夏のうだるような暑さだった。
バスの運転手は、「まもなくエアコン効いてきます」
といったが、みんなは「まもなく」の「ま」も待てなかった。
窓を全開に、勢いよく開けた。
そして、大きな声で歌い出した。
山あいを走る長めのいい高速道路。
窓という窓からひんやりとした風がぶわ〜っと入ってきて、
歌を歌うみんなはこの上なくごきげんになった。
もしかすると夢かもしれない、
と思えるくらい気持ちよく、楽しかった。
青山学院中等部のラグビー部は、
2011年7月29日早朝、東京駅を新幹線で出発し、
北上駅で降りて、バスで釜石に向かっていた。
そのバスのエアコンが壊れ、
運転手が運転しながら四苦八苦している間に、
選手たちは窓を開け、歌を歌い、弁当を食べ、
まるでピクニック気分だった。
いや、遊び盛りの中学生だから、
親しい友だちとの泊りがけの遠征は、
たとえそれがきつくて苦しいラグビーの合宿であろうと、
こんなに楽しい行事はほかにないだろう。
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だがそんなハイテンションも、釜石市内、
大津波に襲われた地域に入ってくると変わってしまった。
窓から外をじっとみて、
声にならないような様子だった。
宝来館に到着し、おかみさんの話を聞いて、
避難道に登って、いざというときの避難の仕方を確認する。
根浜地域、鵜住居あたりを現地見学。
ガイド役は今回の遠征を実施に向かわせた立役者、
はまちゃん(浜登寿雄さん)だ。
旅疲れのある中学生を眠らせないように、
軽妙な口調で冗談を交えながら被災当時のことを語る。
しかし、
はまちゃんも被災者。津波で家族を亡くしている。
「朝仕事に出ていって、夕方にただいまをいう人がいなくなった」
「けんかできる家族がいるって、いいことだよ」
ほろっとくるしゃべりを挟んで、
人生の苦味を教えていた。
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翌日は朝から新生釜石教会へいって礼拝、
そのあと、横浜ラグビースクール、岩手県代表チーム、滝沢南中学校の4チームで「復興育成中学生ラグビー大会」。
翌31日は午前中はボランティア活動、午後は単独でラグビーの練習、
8月1日に東京へ戻った。
新花巻駅へ向かって釜石を出発したバスで、
また選手たちはごきげんで歌を歌っていた。
そして誰かが、歩道で手を振っているオトナ2人に気がついた。
今回の世話役のはまちゃんと、シーウェイブス事務局長の増田久士さんだった。
みんあ窓を開け、手を振り返した。
「ますださ〜ん!はまとさ〜ん!ありがと〜ございました〜〜!」
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