そんなものをわざわざ養殖してどうする?
わたしがライターをやっていたころ、
東京羽田沖で潜水仕事をする人たちに取材をしたことがあった。
そのときにムール貝の話になって、
昔は東京湾でもたくさんムール貝が獲れてた。
あんまりたくさん獲れるから、売り物にならなかった。
今やムール貝は外国から輸入して食べるようになったけど、
時代が変わってこんなことになるなんて、と、
その潜水士のおじさんがいっていたのを思い出す。
ムール貝は地元では「しゅうり」と呼ばれ、
ホタテや牡蠣にくっついているもので、
ここでもやっぱり売るものではなかったし、
お金を出して食べるものでもなかった。
でも、「もしかして……」と唐丹漁港の漁師さんたちは思った。
輸入しているということは、需要があるということ。
でもムール貝なら目の前にもたくさんある。
なぜこれを使わないのか。
天然物なのに。
「いや待てよ……」
と漁師さんたちは思った。
魚なら天然物をありがたがるくせに、
ムール貝は天然物をありがたがらない。
なぜなら、粒の大きさが揃っていない。
ときには、中身が入ってないものすらある。
「もしこれを養殖して、大きさも味も統一したら……」
しかもムール貝は、
・水温の上昇に強い
・出荷できる時期が長い
・養殖にも手間がかからない
ということで、安定供給も可能。
「これは今後、主要な産物になるんじゃないか」
魚がとれなくなった。
と、ぼやいていても魚が増えるわけじゃない。
じゃあ魚に代わるメインのものを作るか!
ということで、失敗したり、「そんなもんんを」と理解されなかったり、
いろいろあって3年かかってようやく養殖に成功し、
地元の飲食店や関東圏のスーパーでも取り扱ってくれるようになった。
昨日はそのムール貝のことを語って、
ムール貝を美味しく料理して食べようじゃないか、という会だった。
参加した飲食店主のミヤカワさんは、
「漁師さんたちが陸(おか)に上がって売り込みに来るのは珍しい」
という。
「もっと話を聞きたい、しゃべって欲しいとずっと思ってた」
ともいう。
地域おこしの要諦は、「ないものねだり」ではなく「あるもの探し」。
ムール貝の養殖もこの一例。
自分たちがもともと持っているものに、自分たちで価値をつけた。
というか、まだ価値をつけつつある段階。
これから、この釜石産のムール貝に名前をつけ、ブランディングしていく。
「あるもの探し」を成功させたい。