
道徳科 研究論文 シリーズ9
9. 具体的な事例 その6:
1年生研究授業
1. 授業概要
教材名:「わすれていること,なあい」
教科書:光村図書 道徳 1年
徳目:礼儀
この授業では、挨拶が良好な人間関係を築くための基盤であることを1年生に伝えることを目的とした。単なる言葉のやり取りではなく、相手を敬い、心を込めた挨拶の重要性を理解させることを目指した。さらに、はきはきと気持ちのよい挨拶を行うことで、自分も相手もすがすがしい気持ちになることに気づかせることを目的とした。
2. 研究協議での成果と課題
(1) 「書く活動」の効果と課題
今回の授業では、1年生ながら自分の考えを「書く」という作業を取り入れた。授業の中で、児童が発言をためらう様子が見られたため、事前に用意していたプリントに考えを書かせたところ、次のような成果が見られた:
成果:
書きながら考えを整理する児童の様子が見られた。
書く活動を経て、全員が発言することができた。
書くことが児童の思考を深め、発言を促進する効果があることが確認された。
具体的な工夫:
挨拶をする際の表情を描かせる活動を通じて、児童の理解を深める工夫を行った。児童が「ごめんね」など異なる挨拶の場面を思い浮かべながら表情を描き分けることで、挨拶の意味を具体的に捉えていることが確認された。
課題:
書く活動の時間配分を適切に調整する必要がある。
書くことが苦手な児童に配慮し、別の方法で思考を促す工夫も検討する必要がある。
(2) 発問の工夫と児童の反応
授業では、登場人物にアドバイスをする方法から、登場人物の気持ちを想像して考える方法に変更した。しかし、教師が一部で言い間違い、再びアドバイスを促す発問をしてしまった場面があった。
成果:
発問の変更が児童の発言を活発化させ、授業全体で徳目に迫る話し合いを展開できた。
教師の発問の意図と異なる場合でも、児童が主体的に考えを述べることができた。
課題:
発問の形式や内容を学級の実態に応じて柔軟に工夫する必要がある。特に1年生では、児童が共感しやすい発問を心掛けるべきである。
発問の言葉遣いや形式について、事前に十分な検討を行うことで、一貫性を持たせる工夫が求められる。
(3) 道徳科と他教科の違いを明確にする重要性
今回の研究協議では、道徳科の授業の本質についての議論も深まった。道徳科では、児童が自分の思いや友達の思いを出し合い、人間の行為が内面的な意思から生まれるものであることを認識させる役割がある。
提言:
道徳科と国語科の授業の違いを明確にすることが重要である。国語科が「物語の内容理解に関する工夫や表現」を重視するのに対し、道徳科は「物語を通じて価値観や人間の行動の在り方を深く考える」ことを重視すべきである。
授業では、児童が価値観を主体的に捉えられるよう、資料の内容や発問の工夫を行い、道徳の本質に迫る取り組みが求められる。
3. 今後の展望
今回の研究授業を通じて、以下のような次の課題と取り組みが提案された:
書く活動の充実
書く時間を確保する授業構成を工夫する。
書く活動が苦手な児童への配慮として、絵や簡単な記述を認めることで意欲を維持する。
発問の工夫と準備
発問を学級の実態に応じて設計し、児童が考えやすい言葉遣いを心掛ける。
発問の一貫性を保ち、教師間で共有することで質を向上させる。
道徳科授業の研究深化
道徳の本質に迫る授業を設計するため、児童の思考を引き出す資料や授業構成を検討する。
他教科との違いを意識し、道徳科独自の教育価値を追求する。
4. 振り返りとまとめ
今回の授業と研究協議を通じて、道徳科の授業が持つ教育的な可能性と課題が明らかになった。特に、1年生という発達段階に合わせた工夫や道徳科の独自性に基づく授業づくりの重要性が確認された。この研究を礎に、児童がより深く価値観を考え、主体的に行動できる力を育む授業をさらに発展させていきたい。