【13日目】「心配」のメカニズムを知って感情と向き合おう(ニンゲンのトリセツ・改)
◆「勝手に出てくる気持ち」にも『仕組み』がある
前回紹介した『ABC理論』というのは、この『モトの話』がとなえる【三つのパーツ】という考え方、すなわち
この三つが“シームレスに連動して動作”した結果を、ストレートに表しています。どういうことかというと、
カラダ → 「A:出来事」を知覚する
アタマ → 「B:信念」で出来事を判定し、ココロに送る
ココロ → 「C:結果(感情)」好き嫌いゲージで感情を出す
実は『ABC理論』のウラでこういう“メカニズム”が働いていたと考えられます。これはつまり『モトの話』で考えられる【三つのパーツ】がどのように共同作業をしているかを、実に端的に表しているのです。
もちろん『モトの話』はまだまだ知名度が低く、ゆえにこの【三つのパーツ】という知識もまったく知られていませんが、にも関わらず臨床心理学の現場で古くから『ABC理論』としてこの手法が利用されていたことは、大変興味深いことです……ある意味、心理学の世界にも僕が言うように「ココロとアタマは別の器官である」という考え方が“うすうす”あったのかもしれません。
それはともかく……前回の最後に書いたとおり
「自分の感情が『なぜ』出るのか理解して、できればそれをコントロールしたい」
と考えているならば、この『ABC理論』と『モトの話』独自の【三つのパーツ】という考え方を上手に活用することで、より早く、よりラクに『自分の知らない自分』に気づくことができるのではないかと思います。ぜひチャレンジしてみてください。
とはいえ、やっぱり『無意識の習慣』から勝手に出てしまう「感情」を、アタマで意識的にコントロールするのはなかなか難しいものです。その中でも特にやっかいな感情が「怒り」「恐怖」そして「心配」というものだと思うのですが、どうでしょうか。
こういった「勝手に出てくるような気持ち」についても、やはり前回のあいさつの例にあったように『無意識の習慣』、いいかえると
あなたにとっての『当たり前』
がアタマからココロに送られた結果として発生します。というわけで、こういう“やっかいな感情”とうまくやっていくために、僕たちにできることは“たったひとつ”……「アタマ」を上手に使って『当たり前』を変えよう、ということだけだということになります。
そのように『自分のアタマを上手に使う練習』の第一歩として、先ほどのやっかいな気持ちの一つである
について、モトから見た“メカニズム”をここでかんたんにご紹介します。この「心配な気持ち」の“メカニズム”を知っているだけで『今自分の中で何が起こっているのか?』をアタマでつかむのがグッと楽になるはずです……ハラハラしづらくなる、ということです。
(怒り・恐怖については、次巻の初級編でガッツリ取り上げます。お楽しみに)
◆「心配」という感情のメカニズム
心配な気持ち、というのはイヤなものです。イヤな気持ちなのですから、ココロの「モトの量」が減っているときの感情です。モトが減っているのですから、【好き嫌いゲージ】の針は半分より『嫌い』寄りのどこかを指しているはずです。
(こんなふうに、モトというものを通して感情を分析するときは、まず【好き嫌いゲージ】の針が「どっち」にあるか、そして動いたのなら「どう」動いたかを考えます)
【好き嫌いゲージ】が下がっている、いいかえると「モトの量」が減っているのですから、それは僕たちが何かに「注目」した結果、そちらにモトが飛んでいって消費された、ということを表しています(【3日目】で書いたことを思い出してください)。
では、何に「注目」した結果、モトを消費してしまったんでしょうか……これを書くと、人によってはびっくりしてしまうかもしれません。というのも、この「心配」という気持ちが出ているときに、僕たちが「注目しているもの」はなんと
ここではないどこか
今ではないいつか
のどちらかだからです。
これらはもちろん、目で見たり匂いを嗅いだりできるものではありませんよね? もしかしたら現実に存在しないことなのかもしれません。そういった「自分の感覚器官(カラダ)では計り知れない何か」について考えたときに、悪く考えた結果として出る感情が「心配」なんです。
たとえば……子供の帰りが遅い、塾はとっくに終わっているのに……心配だわ……と考えているお母さん。お子さんが「心配」ですね。
このお母さんが“どこに向かって”モトを飛ばしているかというと「帰ってこない子供が事故や事件に巻き込まれているかもしれない」という『自分の想像』に向かってモトを飛ばしているんです。もちろん『自分の想像』なんてものは、現実世界には存在しません。ですが僕たちはこのように、実在するわけでもない『自分の想像』した何かに対して「モトを飛ばして消費する」ことが、割とよくあるんです。
そしてその結果として「良くないこと」があるかもしれないという「B:信念」をアタマがココロに送り、ココロでは【好き嫌いゲージ】が低下し、マイナスの感情「心配」が発生する……こういう“メカニズム”でこの「心配」という感情が発生しているのです。
心配な感情が出てくると、どう“したく”なるのか……「確かめたく」なりますよね。先の例だと「子供の安否」を確認したくなります。塾に電話しようか、子供の見守り装置をGPSでチェックしようか、近くを探しに行こうか……こういうことを“したく”なるものです。こうした「自分自身の良くない考え」の真偽を「確かめたく」なるような『ココロのモトあつめの命令』(【6日目】参照)が「心配」という感情の正体なんです。マイナスの【好き嫌いゲージ】を、安心することでアゲたいという衝動なんです。
◆感情に「メカニズム」があることを知ろう
この例のように僕たちは「何かを想像する」ことで、そちらに向かってモトを飛ばして消費することがあります。なんて、『モトの話』を初めてお聞きになる方は「ちょっと何言ってるか分からない」という感想をお持ちになってしまうかもしれませんが……でも、このことはつまり、僕たちは自分の周辺で起こっていることをカラダでとらえた結果として発生する感情だけでなく、自分の「内側」で発生した『考え』に対しての「感想」から発生する感情も抱えているということです。
こんなふうに、自分の「内側」から出てきたとしか言いようがない気持ちを感じること、みなさんにもよくあると思うんです。先ほどの「心配」もそうですし、他には「後悔」なんてのもあります。これらはどちらも「ここではないどこか、今ではないいつか」のことを「考えた」ときの感情です。
『モトの話』が解き明かすのは、こういった感情にもちゃんと“メカニズム”があるということです。メカニズムがあることを知ることができたら、自分と向き合うときに「なぜなのか」を理解しやすくなるはずです。自分の内側から出てきた感情、その根本原因である「B:信念」は何か? 自分自身が持っている『当たり前』(=無意識の習慣)は一体何なのか? ……そして、それがちゃんと「分かる」のは、実際に感情を出している「ココロ」の持ち主……そう、あなた自身だけなのです。
心配の話に戻しますと、なにか「ハラハラする気持ち」があるときは、『ABC理論』の「B:信念」が何かを自分でちゃんと把握することで、他人にも相談しやすくなりますし、寄り添ってもらいやすくなります。先ほどのお母さんの例だと、ちゃんと「何を心配しているのか」が分かっていれば
「あなた、〇〇ちゃんの帰りが遅いのよ、事故に巻き込まれてないかしら」
と夫に相談できます。このとき自分自身が心配していることが何なのかをはっきりつかんでいないと、このお母さんは夫に相談できませんよね。まずは自分が「何を」「どう」心配しているのかつかむことが大事だということなのです……そしてそのためには「心配」のメカニズム
このことを「知って」いることが、おおいにあなたの助けになるはずです。
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)