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どんよりと曇った暗い日曜日。フランドル地方の貧しい農村から美しい歌が聴こえてきた。 質素な服装の農夫や子供達が集まる。みな、手には日々働く為の道具を手にしたまま。その歌に聴き入った。 きらびやかでもなく、華やかでもない歌であったが、その旅人の歌は温かく優しく、貧しい生活ゆえ目の前も心も白黒だった農民達の視界が鮮やかに色づき、心が満たされる感覚になった。 その後、旅人は歌を人々に伝える旅を続け、村人たちに生きる希望を与えたという。
ひとりのプリンセスがおりました。 彼女はメデューサの血を 受け継いでおりましたので 彼女を見た者は次々と 石に姿を変えてしまいました。 その力はだんだん強くなり、 自分の姿を見ることすら できなくなってしまいました。 彼女は自分の身の回りに妖精や魔女や 人ならざる者を置き、暗い屋敷で 今もひっそり暮らしているそうです。
私はある夜に死んだ。 そして気づいたらここにいた。 いつも一人きりで地獄に建つ教会の中にいる。 たくさんの死者が、苦しみながらドアを叩くが 決してドアは開かない。 外は阿鼻叫喚の地獄で、身体がボロボロになった 可哀そうな人間が叫びながらドアを叩くのだ。 しかし私はなぜか外へ出られない。 決して助けることができないのだ。 この苦しみがわかるかい?
ひとりの男がおりました。 彼は優秀な医師で、 黒死病が村に蔓延した年に死にました。 彼は病気がうつらぬようにマスクをし、 村を歩き病気の人々の治療をしておりましたが、やはり自分も病にかかり死んだのです。 しかし彼の亡霊は、 黒死病がなくなった今でも村を彷徨い歩き、 病気の人々を探しているのです。
森の中のキノコの妖精は 絵を描くことが好きでした。 木の実や花びらや鉱石などを絵の具にして 毎日、絵を描いておりました。 しかし、森の仲間からは 怪しい奴だと罵られたのです。 ある日、遠い海の向こうから 小さな二人の使者がやってきました。 「どうか私たちの大切なプリンセスの絵を 描いていただけますか? 明日は大切な日なのです。」 キノコの妖精は悩みましたが、この森を離れ、 宮廷へ上がること
二人の小鬼は、森の木々の不思議な扉を使って 人間の世界へ遊びに来るのが大好きでした。 ある日、小鬼たちは悪い人間に捕まり 売り物にされてしまいました。 小鬼を買ったのはメデューサの王でした。 プリンセスの15歳のお祝いの 贈り物にされたのです。 小鬼たちは城から一歩も外へ出られない プリンセスを可哀そうに思い、 歌や踊りを覚え、いつまでも共にいることを 誓ったということです。
ある小さな村に貧しい画家がおりました。 その画家にはとても美しい妻がおりました。 画家は貧しいながらも妻に毛皮の付いた 黄金色のローブを買い与え それを着た妻をモデルに絵を描いておりました。 小さな美術展で妻の絵画はあまりに美しく 評判となり、ついには隣国のメデューサ国にも 知れ渡りました。 メデューサの王は画家へ使いを出し 妻を差し出すように告げられたのでした。 断り続けた画家はついに、 メデ
その魔女は森の入り口にある古い家に 住んでいましたので森を通り抜ける旅人達に たくさん会ってきたのでした。 ある年老いた旅人が魔女の家を訪ねました。 「この鳥をしばらく預かってほしい。」 と言うので 「その間、貴方はどちらへ行くのです?」 と、問うと旅人は渋い顔をして俯きました。 それでは旅が良いものとなるか 占ってあげましょう。 と魔女は言い、旅人の運命を占いました。 占いによると、旅
ある屋敷で夜の見回りをしている 2人の使用人がおりました。 屋敷の地下で白い幽霊が出るというウワサを聞き その夜、行ってみることにしたのです。 紅い絨毯の上をランプで照らしながら 進んでいくとフワリと白い花のようなものが 横切ったのです。 目を凝らすと、窓から入ってくる月明かりの中 美しい真っ白な傘がくるりくるりと 踊っているのです。 奇妙なことに傘には真っすぐに伸びた 美しいバレリーナのような足が 生
私が子供の頃、裏庭に面した薄暗い部屋に ひとりの少女が閉じ込められていた。 少女はいつも窓に額をくっつけて 裏庭で遊ぶ私の様子を眺めていたように思う。 その部屋の扉に近づくことは父親にきつく 禁止されていたので 私はこっそりと、薄くあいた窓から 少女がか細い声で歌う きれいな歌を聞いたり、 キラキラ光る包み紙にくるまれた 上等なキャンディーを窓の隙間から 少女へあげたりしていた。 ある夜、父と母がひどいケンカをした翌日 あの部屋の扉が開いており、 母と少女の首だけが姿
子供の頃、学校への通学路は薄暗い森の中だった。 不気味な程、背の高いモミの木たちが怖くて 友達と急いで走り抜けた。 ある日、森にオバケが出るという噂がたった。 紫色のドレスを着て森を彷徨う女で、 その顔は紫の花の形をしているという。 私と友達は更に怖くなり、全速力で森を駆け抜けた。 その時、私は木の根につまづいて転んでしまった。 「早く!」叫ぶ友達を見上げると、私の目の端に 紫色のオーガンジーの裾がヒラリと舞った。 はっと、そちらに顔を向けるともう誰も居なかった。
ある人形師がおりました。 その人形師が作る人形には 不思議な噂がありました。 時計の針が夜の12時をまわると、 テーブルに飾られた関節人形が ゆっくりと動き出すのです。 それはとても美しい輪舞(ロンド)。 優しい人形の小さなダンスが始まります。 この街の人たちは不思議なものが 大好きでしたので この不思議を街の秘密として 受け継ぐことにしたのです。 今でも、その街の古い家を訪れたな
深夜に目を覚ました私は、中庭に洗濯物が 干しっぱなしになっていることに気づいた。 奥様に気づかれないよう、 足音をたてずにそっと中庭へ出る。 見ると、ロープにかけられたベビードレスの傍に 大きな鳥が一羽とまっていた。 その不気味さはこの世のものとは 思えないものであった。 大きな紅い目玉と目が合った。 「この家に子供がいるな・・・よこせ」 喋った。驚き、動けないでいると 「いつか奪いに来るからな・・・」 と言い飛び立った。 家主へそのことを伝えると 数日のうちにこの
その夜、私たち夫婦は屋敷で飼われている 牝牛のお産のため 一晩、牛小屋で寝ずに付き添っていた。 夜が明けそうな時間についに牝牛は 一匹の仔牛を産んだ。 私たちは、疲労の中にも喜びを感じ 達成感を覚えた。 かわいい顔を見ようと妻が仔牛の顔を のぞき込むと突然、悲鳴を上げた。 仔牛はゆっくりと立ち上がった。 その顔はのっぺりとした人間の顔であった。 愕然としていると、仔牛は突然しゃべり出した。 「数日後この村は大火事で全滅するであろう。」 本当に短い予言であった。 その