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地域に新たな産業を。ニット職人を育成しながら事業として成り立たせるためにやったこと

ファッションデザイナーの村松です。ファッションブランドの『muuc』や、ニット文化を広げるプロジェクト『AND WOOL』を運営したり、サスティナブルブランド『CARL VON LINNÉ』のデザイナーをしたりしています。

私が運営しているブランドのひとつである「AND WOOL」は、商品を販売するだけではなく「ニット職人を育てる活動」に力を入れているのが大きな特徴です。ニットカルチャーを広げたい想いから始めましたが、新しい取り組みは多くの課題もあり、多くの気づきも得られると改めて感じています。今回はそんなお話です。

ニット文化を普及させるには「共感」が必要

現在AND WOOLでは、毛糸やニット商品の販売を中心としながら、編み方を教えるワークショップの開催や、手仕事をするニット職人の育成、また就労支援事業所さんと一緒にニット製品を作る取り組みなどをしています。

AND WOOLは2016年から始まったニットブランドですが、このような活動の構想は、実は私が学生のころからイメージしていたことでもありました。

私は、2004年に自身のファッションブランドを立ち上げてから、デザイナーとしてお洋服を作ったり、プロジェクトをディレクションすることを主な仕事としてやってきました。

ただ、文化を伝え広げていくという側面で考えると、ファッションの難しい話や、前衛的なアート表現を生み出すことよりも、もっと作り手の顔が見えるものを発信していくことだったり、一緒に手を動かして楽しんでもらうことの方がきっと重要になってくるはずだと思い、多くの人の共感を得られるような活動をしたいとずっと考えていたんです。

一般的に、ファッションデザイナーの仕事は、トレンドに沿った商品や、ブランドのコンセプトに合ったお洋服をデザインすることにとどまります。ですが私の場合は、製造工程を踏まえた作り方や、そもそもその商品を作る意味や目的、そして流通の仕方まで、すべて一貫してデザインできる点が自分の強みだと思っています。

デザイナーとして経験を積み、そろそろ自分の思い描いていたことが実現できそうだと思ったタイミングで、静岡県島田市に店舗兼アトリエを作りました。


地域の公民館で募集!ニット職人を育てながら事業を成り立たせるには?

AND WOOLは、まさにゼロから考えて始まったプロジェクトでした。拠点を構えた地域は、もともとニット製造が盛んな場所ではありません。なので、まずは一緒にニットを作ってくれる仲間を集め、職人さんとして育てていくことが必要です。

具体的には、私たちが持っている手編み機を使って商品を作ってくれる人を探そうというところから始まりました。

最初は、地域の方たちのご協力もあって、公民館に人を集めて、「手編み機でニット製品を作る職人さんになってくれる方を探しています。参加してくれる方はいませんか」とお声掛けをし、やってみたいと言ってくれた数人の方に1からニットをお教えしていきました。当時はもちろん未経験から始めた方ばかりでしたが、皆さん今も第一線で活躍してくださっています。

こうして始まったニット職人育成プロジェクト、立ち上げ時にはいくつもの課題がありました。

職人を育てると言っても、一人前になるまで10年20年かかっていたら意味がないし、妥協せずにお客様に喜んでいただけるクオリティの商品を作れるようになってもらわないといけない。また、手編みでお洋服を作るとなると、1着仕上げるのに少なくても2、3日かかってしまう。それを作った方に正当な対価を払おうとすると、小売価格が10万円、20万円はくだらない。

こういった問題を解決するために、


  • 経験が少ない方もベテランの方も安定した品質で商品が作れる方法

  • お客様に欲しいと思ってもらえるデザイン

  • 作り手の皆さんにしっかり対価を払える価格設定

などを、ひとつひとつ考えていきました。

そして、考えた末にたどり着いたのが、今も一番人気の商品となっている「ストール」です。

このストール、シンプルな作り方ですが、実は秘密がいっぱいあって、大量生産の機械で同じようなものを作ろうとしても、決して同じ質感は表現できないんです。手仕事だからこそ作れるものを、お客様にもじっくり味わっていただける商品になりました。

職人の皆さんには、最初はこのストールを作っていただくところから初めてもらいました。ストール作りに慣れてきて、さらにもっとニットを極めたいと思っていただけた方には、難易度の高い編み方も覚えてもらっていき、次第にセーターやベスト、カーディガンなど、幅広い商品を作れる職人さんが増えていきました。


就労継続支援事業所との出会い

そんなある日、静岡県の静岡市にある「ライク」という就労継続支援B型事業所の責任者をされていた方が、私たちのお店に訪ねてきてくれたんです。就労継続支援事業所は、何らかの事情で一般的なお仕事がしづらい方のための訓練所のような場所です。例えば、ライクさんでは脳に障害がある方や精神疾患を抱える方が多いようでした。

詳しくお話を聞くと、彼女の事業所でも手編み機を使ってニットを作っているとのこと。実際に商品も見せてもらったんですけれども、これがすごく丁寧に教えられていることが伺える、本当に素敵なニット製品だったんです。

ただ、作ることはできても、なかなか売ることができないというお話だったんですね。

また、就労継続支援事業所で働く方の給与は全国的にも下がってきているという問題があることも知りました。話し合いを重ねる中で、私たちにも協力できることがあるかもしれないと思い、一緒にニット商品を作りましょうと、AND WOOLの一部の商品製造をお願いすることにしたんです。

そして、障害があろうがなかろうが、制作にかかる工賃は、他の職人さんたちと同じ金額お支払いすることにしました。

ライクさんは、私たちの要望にも丁寧に応えてくださり、そこで働く皆さんもすごく頑張ってくれています。スタッフの皆さん、ボランティアの方々など、たくさんの協力を得ながら、今もずっと取り組みを続けさせてもらっています。

ライクさんからも、AND WOOLに関わってから、働く方々へお支払いする金額が増えているというお声をいただき、良い関係性を築けてよかったなと感じています。

もちろん、人を育てる、人を雇うって、いろいろな問題が次から次へと出てくるし、物が売れない今の時代において、商品を作って継続的に売れるようにするのは決して一筋縄ではいきません。だからこそ、常に挑戦を続けること、広い視野で考えていくことが大切だと日々実感しながら、今も活動を続けています。

AND WOOLでは、他にも本当にいろいろな挑戦をしてきたので、今後またその辺りもお話ししていこうと思います。

それでは、本日はここまで。


〜サイトリニューアルのお知らせ〜

私が運営しているオンラインショップが新しくリニューアルしました。今後はこちらのショップにて、【muuc】【AND WOOL】の商品や、素敵な作家さんやブランドの商品を販売していこうと思っています。人が集まるサイトになることを夢見て頑張ります!! 是非のぞいてみてください。🙇

https://wool-studio.com/


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