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それでもあなたは記憶を無くしたクレイジー佐藤じゃないと言い切れるのでしょうか?
この前の話。
バスが来るまで、まだ少し時間があって。
バス停から近い公園で本を読んでた。
行く途中なのか帰る途中なのか、もう忘れたけど。
とても天気のよい日だった。
佐藤さんですよね?
気持ちよく読書をしている時、遠くで呼ばれたような気がした。旅先の街。人の少ない公園。知り合いなどいるはずもない。が、なんとなく聞こえた声に意識を向けた。
なるべく顔を見ないように、本からチラリと視線を向ける。膝下丈のスカートを履いた足が二人分見える。女性二人が、私のそばに立ってひそひそ話をしている。なにかの勧誘かな。こわい。
しばらくすると、女性二人は歩き出し、私の視界からいなくなった。
と、思ったら、すぐにまた引き返してきて、
「佐藤さんですよね?」
と、今度はハッキリと大きな声で、問いかけてきた。
え、よかった、ただの人違いだった。なにかの勧誘とかで、断るのが面倒になるかも、と思っていたので、内心すごくホッとした。
公園で砂埃が舞っていて不織布の白いマスクをしていたから、顔が見えなくて、背格好の似た誰かと間違えたのだろう。そう思った。
マスクを外し、女性達に顔を見せながら
「違います、えへへ、」
すみません。となぜか私は謝った。
が、想定外なことに、マスクを外した私の顔を見た女性二人は、
「きゃあ!!佐藤さんだ!!」
と、きゃあきゃあ喜び始めてしまった。
うそやん。
いや、いやいや、違います違いますと数回否定しても、なかなか信じてもらえず。
めっちゃ訝(いぶか)しげ!
なんかすごく怪しまれてる!!
そんな目で見ないで(泣)
そういう時って、否定するために、うっかり自分の本名や素性などの個人情報を言ってしまいそうになるものですね(笑)
最初はちょっと面白かったが、だんだんと怖くなってきて、
「いやいや、ホントに違うんです、そんなに似てます?てかそれ、誰なんですか?」
と質問すると、
「クレイジーの人ですよ」
ホントに知らないの?とまた、ジロジロと確かめるような視線をこちらに向けてくる。
クレイジー…..さとう….
誤解を解かなければ。
この女性二人も、私も、もやもやして気分が悪いし。
SNSに「クレイジー佐藤めっちゃ態度悪くて草」みたいな投稿をされてしまうと、クレイジー佐藤にまで迷惑をかけてしまうことになる。
俺がクレイジー佐藤に似ているばっかりに….。
俺はクレイジー佐藤だったのか?
いや。こんなに疑われるなら、もしかしたら俺はクレイジー佐藤なのか?
短い時間の中で、俺は自分に問いかけていた。
いやいや。そんな馬鹿なことはない。俺は俺の記憶がしっかりあるし。
それでも。
若い頃。そう。バンドをやっていた頃。俺はいろんなバンドに、名前を変えて参加していたことがある。そうだ。あの頃。適当に目に入った物の名前を名乗っていた。カーテン、スワンダイブ、スナイパー。
もしかすると、いつかの夜、俺はクレイジー佐藤として、この街で伝説を残したことがあるのかもしれない。そして、その衝撃的な夜の記憶を無くしたのかもしれない。
つまり、俺は昔、クレイジー佐藤だったことが、あるのかもしれない。
「ない」ことを証明するのは非常に難しく、悪魔の証明と呼ばれている。
すんませんすんません。
(クレイジー佐藤じゃなくて)すんません、(クレイジー佐藤時代を覚えてなくて)すんません、と、私は謝りっぱなしで。
「ほんとに似てますよ」
ちょっとキレ気味でそう言い残すと、女性たちは公園を去っていった。
私の中のタモさんが、この文章を読んでくれているあなたに、問いかける。
(世にも奇妙なミュージックを頭の中で流してね♪♪)
もしも、誰かに「あなたはクレイジー佐藤だ」と言い張られた時、はたしてあなたは「自分はクレイジー佐藤ではない」と、はっきり言い切ることが出来るのでしょうか?
お読みいただきありがとうございます。
てか、クレイジー佐藤ってだれなんですかーー?(笑)