靴
なぜだか、ある人の靴がとても寂しげに見えた。
思い過ごしだと言われたらそれまでのことで、我ながら取るに足りない、些末な気づき。
その人は靴を脱いで、芝の上をひとり裸足で走っていった。
靴は、ただ、置かれたそのままの形を崩すことなく、そこに鎮座している。
グラウンドを傾いた夕日が照らし、季節にしては涼しい風が一筋の波を立てて通り過ぎていった。
しっかりと結ばれた靴紐、少しだけくたびれたシルエットが薄く影を伸ばす。
飾らないシンプルなデザインと素朴な色味の靴。
それはどことなく持ち主に似ていて、秋冬の侘しさを連想させた。季節に取り残されて置いていかれたような、諦観にも似たさみしさ。寂寥、郷愁。
時折ふざけてみせながら、それでいて本質を真っ直ぐに生きている。
日沈、薄暗い残り日。
グラウンドの端、ベンチの横にそっと並べられた靴が、持ち主の帰りを静かに待っている。