人生の卒業式。
テルちゃんが、逝った。
むくがオープンした時から、いつ迎えが来てもおかしくないと話してきた。
もしかしたら、数カ月も持たないかもと言われながら、気が付けば1年過ぎていた。
けいこさん(長女)は、初めから覚悟を決めていた。
「家で看取るから。その時が来たら、必ず家に連れて帰るから」
何度話をしても、そう言って、本当にそれをやってのけた。
すごい。
あんな風に迷わず、想いを貫けるなんて。
かっこよすぎる。
テルちゃんは、本や新聞を読むのが好きだった。
いや、本を読んでる自分でいたかったんだと思う。
朝は、新聞を片手にご飯を食べて、夜、寝る時も何かしらの本をもって寝室に行ってた。
児童書の「ルドルフと~」だったり「つどい場さくらちゃん」だったり丹野さんの「認知症と言われて」だったり。
時々、おどけて歌ってみたり、踊ってみたり。
時々、子どもに笑いかけたり、「うるさい!!」って怒鳴ってみたり。
トイレでお手伝いをすると、いつも「ごめんね~」と私たちに手を合わせてくれてた。
ご飯を食べる時は、いつも「わー、頂いていいの?ありがとう~」と手を合わせてくれてた。
死を迎えるその日まで、テルちゃんは、テルちゃんらしく生きていた。
他の誰でもない、テルちゃんが、毎日、生きていた。
そんなテルちゃんが選んだ最後の日は、スタッフがほぼ全員が集まるイベントの日。
みんなが外で、中でと、バタバタと動いていた日。
テルちゃんは、普段嫌いなはずのお風呂にゆっくりとつかり、ひじきご飯のおにぎりを食べた。
手を引かれながらも自分の足でしっかり歩いて、ベッドへ行った。
最近、足のむくみが強くなったね、とか、よく休みたいっていうようになったよねって申し送りがあってたから、その日は近いのかもしれないって、みんな薄々感じてたんだよね。
でもみんなは、その日、その日のテルちゃんをみてた。
今、この時を生きているテルちゃんと一緒にいた。
「血圧が下がってきてます」
バーベキューの真っ最中に、ナースが私に耳打ちしてきた。
「今日、明日かもしれない。いや、今夜持たないかも」
すぐにけいこさん(長女)に連絡。
けいこさんが来るまでは、スタッフが代わる代わる手を握り、身体をさする。
「テルちゃん、何か言いたいことある?」
と聞くと
「さよなら。さよなら」
と、わかっているように口を開く。
子ども達には、ニヤッと笑う。
気丈なテルちゃんが、手を握ろうと手を伸ばし、時々私たちに抱き着くように腕を絡めてくる。
外では、バーベキュー。
子ども達も、入れ替わりでテルちゃんに会いに来る。
夜になって、いよいよ、その時が近づく。
呼吸が変わる。
けいこさんが来た。
「どうしたいね?」と、けいこさんがテルちゃんに聞く。
「帰る」「あんたと一緒におる」
はっきりと、そう言った。
すぐに車を準備し、家に向かう。
車の中で、息が止まってしまうかも!そう思ったけど、最初からの約束。
「最後は、家で・・・。」
家に着くまで、どうにか持ちこたえたテルちゃん。
ベッドに横になり、私たちもベッドを囲む。
「あんた、幸せ者やね~。一番お世話になった人たちをこうして集めて」
「よかったね。ほんとよかったね」
死に行く人を目の前にしながら、誰もが笑顔だった。
テルちゃんが、そうさせてた。
髪を撫で、ほほを撫で、それぞれが手や足をさする。
また、呼吸が変わった。
今度は、ゆっくりと、静かに、回数が少なくなっていく。
そうして、、、止まった。
「止まったね」「うん」「逝っちゃったね」
けいこさんが、ありがとうと、私たちに頭を下げる。
私たちも、頭を下げる。
静かに時が流れ、最後の別れをする為の準備をする。
私たちも最後の関りとして、身体の中に残っている老廃物を出し、身体を拭き、化粧を施させてもらう。
元々、うんこが詰まりやすかったテルちゃんに、ずっとお腹のマッサージをしてきたけいこさん。
「どれ!最後の一押しを私がしてやろうかね!!」
と、私たちに混じって参加される。
マッサージが効いたのか、安心したのか、亡くなったはずのテルちゃんの顔色がよくなってくる。
「あれ、また生き返るんやない?笑ってるよね!」
と、みんなで笑う。
悲しいのに、寂しいのに、みんな、笑う。
「テルちゃんは、最後の最後までテルちゃんらしかったね」
と誰かが言う。
そうか。
だから、誰も悔やんでない。
テルちゃんらしく生き抜いた。
テルちゃんのこの世での人生の「卒業式」なんだ、これは。
人は、いつか必ず死を迎える。
こんな風に逝けたら、幸せだね。
「あ、ちゃーん、チャン!」
テルちゃんの、いつもの口癖が聞こえる気がする。
最後もきっと、そう言いたかったんだろな。
テルちゃん、今までたくさん、ありがとう。
あ、ちゃーん、チャン!