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密室にて屈原を想う

カミさんが間違えて買った業務用のバター。
かなり余ったまま賞味期限を大分越してしまった。
ついもったいない精神でモリモリ塗り付けたトーストを朝食にしたところ、
一時間ほどしてからだろうか、腹が洪水状態に。
箱舟のように軟禁されたトイレの中で、ひたすら読んだ本がこちら。

『中国の詩人① 憂国詩人 屈原』

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学校の教科書では「漁父の辞」あたりから入って、「融通の利かない官僚」みたいな感想で終わるところだが、彼がそうなるべき家系と情勢の中にいたことをこの書が教えてくれた。

明日は(書いているうちに今日か…)端午の節句。
今から2300年ほど前のこの日、既に左遷に等しい扱いを受けていた彼は、秦の将軍白起の活躍により故郷楚の地がもはや併呑される事を予期し、汨羅の淵に身を沈めた。
粽を食べる習慣は、沈んだ屈原の身体を魚が食べないように追い払うため、とか、ちょっと興味深いものとしては、後漢の時代になって屈原の霊が「水中に食物を投げて祭ってくれるのは嬉しいが、途中で蛟龍に食べられてしまって自分には届いていない。楝の葉で覆い五綵の紐で縛って欲しい」と訴えたという話。このあたり中国の食におけるリアルな想定に微笑を禁じえないところだが、こんな豊かな説話ができるのも、彼の剛毅を皆が愛したためであろう。

空に泳ぐ鯉のぼりは日本独特の習慣らしいが、どことなく粽を欲しがっているようにも見える。私も明日は粽とか柏餅を頬張りたいものだが、果たして下した腹が許してくれるか…。

乱に曰く、滄浪の水濁らば以て吾が足を濯うべし…。明日は天気も私の腹のごとく大荒れだそうで。粽の中身に触れられない蛟龍の気持ちで空しく淵に潜もうか…。

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