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夫とうつ⑤

夫の服用していた薬のことや通院の様子を、私からはとくに聞くことはしませんでした。

症状には波があって、ときにどーんと落ち込むことがあった。

夫の場合それはいくつかあって。
ひとつは湿度が高いとき。
工事などの騒音、人の声がうるさいとき。
そして減薬のあとに起こることが多かったようです。

減薬するには、医師と相談しながら一年くらいかけて少しづつ薬を減らしていく。大丈夫そうだとなると試しにやめてみる。

そこでやめられた薬もあれば、やめたとたん症状が重くなることもあって、また薬を戻したり、変えたり。

夫は、症状が落ち込むとまず食欲がぱったりとなくなる。顔つきが険しくなる、涙もろくなる。
そして自分が不甲斐なくてたまらなくなるようで、私に「ごめんね、ごめんね」と言いながら涙をぽろぽろ、ぽろぽろこぼすのです。

なかなか治らないことへの不安。
薬が減らせないもどかしさ。
こんな自分と一緒にいてくれることが申し訳なくてしかたない、と。

私は(うつの症状がそうさせてるんだなぁ)と思いながら、うんうんと話を聞く。聞くけれどあまり感情移入はしないようにする。

とにかく共倒れになることは避けねば、と思っていたので、二人三脚でという支え方はしませんでした。

むしろ「私は楽しく生きるよ!っていうか、好きなように生きてるし」と夫には言っていたし、実際そうしていた。

よほど夫の症状がひどいとき以外は、出来るだけ普段通りの生活をするようにしていました。仕事もしていたし、友達とも出かけた。

彼が、自分のせいで妻が大変な思いをしていると思わずにすむように(思うな!と言っても思うんだけどね、だってうつだもの)

夫のつらさ、苦しさ。
それを目の前で毎日見ているのは、私にもとても苦しいことだったけれど、だからこそ引きずられないよう、感情移入しすぎないよう意識していた。

そして私が疲れた顔をしたり、ちょっとでも機嫌や体調が悪かったりすると、夫はすぐ不安定になり、落ち込んだり自分を責めてしまうので、そのあたりも私はものすごーく氣を張っていたと思う。

いつも出来るだけ明るく機嫌良くして。きつい言葉は使わないよう、話すときは慎重に選んで。

それはすごくしんどいことで、もうめんどくさーーーい!!と心の中で叫んでたよ。
でも落ち込まれるとさ、また私もしんどいんだもん。頑張った。

友だちのKちゃんには打ち明けていたから、ときどき会って話を聞いてもらえるだけで胸のつかえが降りて、とてもありがたかった。

Kちゃん自身も精神的に不安定になり、薬を服用していた時期があったそうなので、彼女の話は夫の病状のつらさを知る上でもとても参考になった。

そして弟にも打ち明けて、彼が「〇〇さん(夫)、頑張って生きてきたんだね」と、夫の辛さを受け止めてくれたこと。それでまた心がひとつ軽くなった。

私が大切に思ってる人たちは、みんな優しくて、だからこそ心に傷を負っていて。それでもひたむきに生きてる人たちだ。

うまく得をして、誰かを押しのけて、そんなふうに世の中を器用に生きるなんてことが苦手な人たち。

だからこの世では生きにくいのかもしれない。だけど、みんな一生懸命に生きてる。生きようとしてる。

そんな人たちとこの世で出会えたこと、いまを一緒に生きられること。それは私にとってなによりも大切な宝物だ。

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