【本紹介】無名のピクサーが世界一のアニメーション映画会社になるまで
「PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」(ローレンス・レビー 著、 井口耕二訳 )
ビジネス書っぽい装丁ですが、著書ローレンス氏がピクサー、そしてスティーブ・ジョブズと出会い、無名のピクサーがディズニー映画の代名詞になって…そんな激動の約10年を、ピクサーの財務責任者として裏方目線で描くビジネス・ノンフィクションな一冊です。
読みごたえもあるし、あとトイストーリーが観たくなる本です。
▼本の構成
プロローグ
第Ⅰ部 夢の始まり
第Ⅱ部 熱狂的な成功
第Ⅲ部 高く飛び過ぎた
第Ⅳ部 新世界へ
▼ピクサー=ディズニー映画になるまで
この本を読むまで、スティーブ・ジョブズとピクサーの関係を全く知りませんでした…
そもそもピクサーの前身は、実はジョージルーカス設立の「ルーカスフィルム」のコンピュータ部門でした。
この1部門をジョブズが買収してスピンアウトしたのがピクサーなんです。
今となってはピクサー≒ディズニーみたいなイメージでしたが、元々は画像処理用コンピュータなどハードウェアの会社で、ジョブズもエンターテインメント会社というよりはIT企業・ハードウェア企業を買った感覚だったと思われます。
そんな経緯だからこそ、心を動かす物語を作りたいピクサー社員と、画像処理用コンピュータを広めたいジョブズとで価値観の溝があり、事業も伸びず時間が経過してしまったことが、この本の背景にあります。
▼読書メモ
▼出会いは一本の電話から
シリコンバレーの会社で働き弁護士資格も持つローレンスのもとにかかってきた電話が全ての始まり。
「もしもし。ローレンスさん?」
「はい、ローレンスです」
「スティーズ・ジョブズです」
ジョブズからいきなり電話かかってくるってどんなファンタジーなんだろ笑
そこでピクサーを何とかしてほしいと相談をされます。
当時のジョブズはアップルで失脚し、アップルに対抗したネクストを設立するも、業界的には厳しい立ち位置。
買収したピクサーもコンピュータ開発は中止しており、何してる会社かよく分からない…
そんな注目度・期待値の低いピクサーでしたが、生き残りをかけて全力を注いでいたのが、のちに大ヒットとなる「トイ・ストーリー」の第1作。
その試作に魅せられ入社を決め、激動のピクサー立て直しが始まります。
▼問題だらけのピクサー
ピクサーに加わったローレンスはいくつかの壁に直面します。
①ジョブズとピクサー社員が合わない
②ディズニーとの契約がなかなか鬼
③ジョブズの株式公開へのこだわりが止まらない
なかなかの無理難題…
特にディズニーとの契約内容がなかなかの鬼で、「契約期間は映画3本を作り終えるまで」「契約中はディズニー専属」「ピクサーへの収益は売上の10%」というもの。
当時の業界内では当たり前だったそうですが、無名とは字面だとかなり不平等な契約…
第Ⅲ部ではこの契約見直しに向けて奔走し、業界初の平等契約に至ります。
(映画の表示も"Disney presents"→"Disney & PIXAR" に変わってるそうな)
株式公開も難題。ローレンスが入社するまでにジョブズは私財60億近くを投資しており、一刻も早く利益を上げたい一心でローレンスにけしかけます。
あくまで当時無名だったピクサーなので、大手投資銀行からも断られプライドもずたずた。
私たちのジョブズ像はアップルの成功者としての印象が強いので、投げやりだったり悩んだり、次第に周りの意見をちゃんと聞いたり、カリスマじゃないジョブズが垣間見れるのもちょっと新鮮です。
▼株式公開から映画のクレジット記載まで
メインは会社として、事業としてピクサーを立て直すために財務面・事業計画・駆け引きや調整に奔走していきますが、それだけではありません。
本作ではどうしたら現場の意見を大切にできるか?映画のクレジットにピクサー社員1人1人の名前を残せないかなど、社員のことを思索する姿も描かれます。
一度アップルを失脚したジョブズが後に返り咲き大躍進を遂げた背景には、こうしたビジネスだけじゃない側面を見てきたことも影響されてるのかな。
ただのサクセスストーリーとして纏まっていないところも好感でした。
▼サブタイトル"TO PIXAR AND BEYOND"
トイ・ストーリーのバズライトイヤーの名セリフ"To infinity ...and beyond!"(無限の彼方へ、さあ行こう)からとってるところも好き。
300ページあるビジネス書だからGW期間に読みきろうと思ってたけど、物語のようなわくわく感も詰まっていて結構すんなり読めました。
どんなに華やかな事業でも、仕事は地道な作業と調整の繰り返しだし、それでも裏方が最高にかっこいい。
ピクサーなのに、ジョブズなのに、どこか親近感がわくのが可笑しくて楽しい読書タイムでした。
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