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映画 ラストマイル感想

映画、ラストマイルを観てきました!

以下、ネタバレありの感想です。



犯人の報い


アンナチュラルの中堂さんが大好き人間としては、彼の犯人に対する「見上げた根性だな」というセリフが最高でした。
安易に最高というべき場面では無いのですが、犯人が報われるとしたら、中堂さんのこのセリフだけのように私は思えました。

自分の犯行の結末を見届けることなく最初に爆破されるのは、余程の勇気や、それこそ根性が必要だったことでしょう。
彼女が復讐をする相手は個人ではなく社会やシステムでした。

この後の感想にも書きますが、今ある社会を変えることは1人では出来ないのが映画のメッセージの1つだと私は受け取っています。
たった1人で社会を変える方法はただ1つ。ルール違反だけです。今回であれば爆破テロとなります。
犯人はルール違反せずに真相に近づこうと模索していましたが、最終的にはこういう結果しかなかった、ということでしょう。
そして成し遂げる根性があった。
(2発目以降の爆破の威力からして、犯人は他人を確実に殺そうとまでは思っていなかった、とも思っています。)


結果的に亡くなったパートナー山崎の願い(=物流を止める)を叶えることになります。
ミコト(解剖医)が「そんな根性なら、いらない」と言いますが、全くその通りであり、一家心中の被害者である彼女のセリフだからこその重みでした。
犯人や当事者以外の人間にとって、人の生命を脅かす根性は不要でしかありません。

一方で、たった1人の罪を犯す覚悟は社会を変えてしまうほどの影響力になり得ます。
その覚悟をするまでの過程で止められなかったのか?というのもまたテーマの1つだと思いました。
社会問題の解決方法がルール違反であるテロであっていいわけがありません。


誰にも止められないベルトコンベア

1人では社会を変えられないことを暗示しているのが「ベルトコンベア」だと思いました。
というのも、センター長にはベルトコンベアを止める権限があるのかもしれませんが、こちらの作品に出てくるセンター長は誰一人として個人の判断でベルトコンベアを止めることはありません。(終盤のはストライキありきとする)
物理的な可能不可能の問題ではなく、1人で決断できる重みではないということでしょう。

物流センターには派遣社員が300人~400人が働き、さらにそれを運ぶ人達が大勢いる。そこには何億ものお金の動きが絡んでいる。
さて、誰ならこのベルトコンベアを止められるのでしょうか。
止めたとして、それは1人の責任で済むのでしょうか。

今回センター長は社会的立場が高い人として描かれています。
エレナはタクシーで出勤しますし、服装は自由でアクセサリーをたくさん付けて、自分の権限であらゆることが出来ます。
そんな人でさえベルトコンベアを止められない。

五十嵐さん(現、本部長)がセンター長のときに止まったベルトコンベアをすぐ稼働させ、飛び降りたヤマサキを絶望させますが、五十嵐さんのその判断も仕方がないとも思えます。
一人の人間のミスで大きな損害を出すわけにはいきません。
ベルトコンベアを動かして損害を少なくする決断は、おそらくヤマサキのためでもあります。事故ではない限り、損害賠償が発生する可能性がありますし、復活したらしたで損害が少なければ退職せずに済むかもしれません。
五十嵐本部長が他人に責任を押し付ける場面が作品中で描かれていたため、ヤマサキのためというのは可能性が低いですが……まあ1人で背負えない、倫理観より会社の利益を優先した瞬間ともいえます。

この辺りが、社会の下々として働く身としては、タクシーで出勤する人(上の方の人)ですら、どうしようもできないのか!と思ったんですよね。
結局、大企業の上の人も雇われの身なのか、みたいな。
アメリカの偉い人が最後に爆弾はお前にも行く(うろ覚え)と脅されていましたが、結局その人にもどうしようもないことがあるという意味にも感じました。
見過ごしている問題がお前にも回ってくるぞという意味も含め。
仕事の分散化や委託、責任の所在が不明瞭などの社会現象はもう、一人の力ではどうにもできないところまで来ているのかもしれません。
ストライキしても変わった配送料は数十円。
それでも1人ではなく大勢で戦えば前進できるというのは、私には前向きなメッセージに映りました。
もちろん大勢が決意することは難しいことですが、多くの人の意見でのみ変えられる社会というのは、本来人々が願っていた民主主義の形なのかもしれません。
ほんと簡単では無いですね~。


ラストマイル

私が映画で泣けた場面が、委託ドライバー親子の息子が爆弾の荷物を乾燥機に入れるシーンです。
まずタイトルのラストマイル(物流の最後の接点)である場面であり、あらゆる善意の結果が爆発に繋がってしまう場面でもあります。

配送で複数の荷物のうち、あれだけを置き配にしたのも、もしかするとドライバーの善意だったのでは?と思っています。(当たり前ですがドライバーも人間なので楽しみにしている姿や顔見知りの人を優先するでしょう、配送料金同じだし)

プレゼントが親への善意なのはもちろんですが、こういったささやかな善意の積み重ねが爆破なんてことになったら辛いですよね。
ハラハラと見慣れない人を家に入れない当然の母親の動きにヤキモキしつつ、ドライバー息子が爆弾を抱えて咄嗟に入れるのが乾燥機というのがもう……!
誇りある仕事の行く末だと思って泣けました。

乾燥機は忙しいお母さんの助けにもなっていたでしょうし、家族の危機も救う。
少し高い機械には、優れた性能がついている。
顧客にとっては無駄に思える機能は売上には繋がらなくても、きちんと機能としては残っている。
そもそも、誰かが困っている時に即座に手を差し伸べてしまうドライバー息子の窮地を救うのが、以前の自分の仕事だったのが泣けました。

また、弱い立場である委託ドライバー親子のお弁当が健康に気を使ったものであるのも胸が熱くなりました。お母さんが作ったのかな。
社会が見ようとしていない人も誰かに大切にされる大事な人だというメッセージだと思いました。
配送車にお守りもついていますし。息子に休憩をもっととれって言われたり。
それがオジサンとおじいちゃんで優先されにくい立場にある人への尊重が感じられました。たとえフィクションの中だけでも報われて良かったです。

あと、恐らくお父さんドライバーが1人の時は30分も休憩とってなかったと思います。
息子がいるから30分とっているのであって、10分とは言わなくても30分はとってないと思って観ていました。いや、独り言です。

最後に少しだけ

長くなったので終わりにします。
岡田将生は相変わらずかっこよかったし、エレナもブルドーザーのような仕事ぶりがかっこよくて憧れました。

また、結果的に犯人が宣言通り12個きっちり爆弾を用意していたのは、犯人なりの誠意というか皮肉にも感じました。
会社は隠したり嘘をついたりしますが、爆破テロを起こす犯人は嘘はつかない。
意地というかプライドを感じます。最後まで見ても犯人が嫌いになれません。

私がアンナチュラルの中で1番好きなセリフは、中堂さんの「罪のない人間なんているのか?」です。

荷物が不在で受け取れないことがドライバーを苦しめたり、早く確実に届く物流を前提に社会が構築されているあたり、やはり罪のない人間なんていないのだな、というのが最終的な私の映画の感想です。
なんとか地べたを這いながら生きていくしかないのかもしれませんね。

はぁ~映画面白かった~!

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