自分の気持ちと母の気持ち
早速、「あのときの自分」の感情に答えを出していこうと思う。
つい先日のこと。母から夜に突然LINEが来た。私はまだ、返信ができていない。
以下、原文ママ。
「こんばんは。夜分にごめんなさい。マンションを見学に行ってきました。とても良かったです。駅の目の前に立つマンションは、本当に少ないそうです。一度、一緒に見に行きませんか?〇ちゃん(娘の名前)の将来も考えて良い物件だと思います。それでは、お休みなさい。」23:29
私は困惑した。なんて返信すれば良いか、分からない。マンションなんて買うつもりはないと言ったら、きっと母を不機嫌にさせるだろう。
私の仕事復帰を見据え、私たち夫婦は私の実家近くへの引越しを検討している。復職すれば親の手伝いがあった方が、何かと安心できるだろうという夫の考えから始まった。私としては、転勤族の両親の近くに住める機会なんてもうないかもしれないと思い、有難く感じていた。
先日、引越先の家を探していると母に話したところ、母は自分のことのようにiPadで検索しだし、いくつか賃貸物件を提案してくれた。それだけでもだいぶ重荷に感じていたのだが、今度は「分譲マンションを購入した方が、十数万の家賃を掛け捨てするより良いんじゃない?」という提案だった。
思い出してみれば、私の母はいつもこうだった。
私の選択なのに、私の先回りをして色々提案してくる。
自分のことなのに私の方が追いつくのがやっとで、「自分で考えたい」や「それは嫌だ」と伝えると、母は不機嫌になった。「一生懸命考えてやっているのに」「ママの言うことを聞いておけば間違いないのよ」「こっちの方が絶対いいと思うよ」そう言われるのが分かってきてから、母に面と向かって反論しなくなっていった。母の不機嫌な顔を見たくなくて、色んな事を母に伝えるのを避けるようになっていた。
今回の件についても、何もお願いしていないので、放っておいてほしかった。まして、分譲マンションを買うなんて、夫婦でも話していないセンシティブな話を無遠慮に持ち出して欲しくなかった。娘の将来のために、なんて軽々しく口にして欲しくなかった。私のペースで探していくから、それをそっと見守っていて欲しかった。「さいあく、実家に住んでもいいからね」と部屋を空けてくれれば、安心できた。母は、私を全然信頼してくれていないのだなと感じた。こういうことがあると、毎回、感じていた。母よりも動きは遅いかもしれないが、私も自分なりに考えられるんだ、ということを母は全然信じてくれていないと感じた。
賃貸物件の家賃を払うより、分譲マンションを買う方が、不動産が手元に残るし、不動産投資にもなる、という母の意見に一定の理解はできる。しかし、借金をしてリスクを取るのは私たちだ。そんなことを言うのであれば、「半分出すから」とか甲斐性のあることを言ってほしいものだ。そんなことが実家の家計的に無理なのは、私にもわかっている。だとすれば、そんな無責任な提案はしないでほしい。
借金は奨学金と父が運営している学生アパートの借金で十分だ。私は大学の奨学金を背負っている。あと350万円ほど残っているだろうか。
私が奨学金を借りた理由は、当時、私の実家の家計がひっ迫していたからだろう。大きな理由の一つに、母方の祖母の自宅介護があったと思う。私が中学生頃だろうか、実家での祖母の介護が始まった。私学理系への入学が決まった際、奨学金の借入を父からお願いされ、申請書には理由として母の介護による家計のひっ迫と書き、介護費用の領収書を整理して添付した。年間の介護費は、私の一年間学費相当だった気がする。あの時の私は、国公立大学に受からなかった申し訳なさと、家計を助けたい一心で、奨学金の申請書や作文を一生懸命書いていた。
今思い返すと、祖母を自宅介護するという選択は母の長女としての使命感を示すためのものだったように思う。つまり、私たち家族はそれを一丸となって支えたのだ。けれど、それに対してお礼を言われたことは一度もない。「おばあちゃんの介護をしてくれて、〇ちゃんには苦労かけたね」とはたまに言われるが、感謝をされたことはない。祖母にいたっては、汲んだお茶に少し触れて「熱い!こんな熱いの飲めないわ。冷まして。」と言ったり、介護されて当たり前という態度だったように感じた。何度、お茶に洗剤を混ぜてやろうかと思ったか分からない。私が就職して実家を出るまで介護が続いただろうか。もう記憶が曖昧だ。
ああ。私は、怖くて、悲しくて、怒っているんだな。
私は、こうやって母の意見を押し付けられるのが嫌だ。昔から嫌だった。せめてNoを言わせてもらいたかった。私の人生の選択を横取りされているようで、すごく嫌だ。自分の人生を飲み込まれそうな、恐怖にも似た気持ちがある。
また、私のことを信じて待っていてくれないことが、悲しい。今まで、母の知らないところで、自分なりに色んな挑戦と決断をしてきたのに、そんなこと知らんぷりで、私を信じてくれないことがとても悲しい。
そして、軽々しく無責任な提案をしてきたことに、私は怒っている。私の人生の責任をとるのは私だ。それなのに、奨学金の返済みたいに、どうせ母は最後まで守ってくれるつもりなんかないのに、無責任な選択を押し付けないでほしい。
さあ、私の気持ちが少し浮彫になったところで、母になんて返信しよう。
母に返信するのが怖い。
きっと、「あなた達のことを考えて一生懸命見つけてきたのに」「私だったらこうするのになあ」と、不機嫌な顔で責められるのが目に見えているから。
不思議だ、自分の気持ちより、母の気持ちのほうが鮮明に浮かんでくる。
自分の気持ちを大切にしなよ、と言う人がいる。どうやって?と思う。
私は母からすれば親不孝な娘なのだろう。母を悲しませたくないと思って、一生懸命生きてきたのにな。
でも、申し訳ないけれど、今回、母の意向に沿うことができないことは明確なのだ。
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乱文をここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
母と私の状況を客観視することが難しく、もしよろしければ、一言でもコメントをいただけると嬉しいです。