6『次元間侵食体テスラ』


「過去、現在、未来において到来する異次元生命体の中でも、まさに最悪と言える生態を備えたものが……既に地球に到来しています。あの地軸更新の大災害時、ひっそりと出現し、次元の彼方へ消えていった、次元間を浸食する恐ろしい異次元生命体がいました。暴走した十六胞体のエネルギーに反応し、当時の赤道付近に発現した『テスラ』と後に命名されるその生命体は、その生体構成分子の中に、まさに多胞体を持っていることによって次元間の転移が可能です。彼らは低温に対して脆弱で、先の地軸更新の際に赤道地帯が極点へと変化したことで、他の次元へと去っていったはずでした。

あなたのいる時代から百年もしない内に、地球温暖化の影響で南極大陸の氷が解け、その下から凝縮ウランに似た高エネルギー物質が発見されます。この物質こそ、無生物ではなく細菌に似た異次元物質生命体……、変事において分厚い氷の下で、長期間に渡る活動の停止により変異した『テスラ変異種』……。この変異種は、次元間を浸食し、因果軸を破壊、再構築を繰り返します。この変異種の浸食により次元間にできる……いわゆる穴は、空間同士を点で結ぶのではなく、面で結ぶと言った表現が最も近い説明になるかと思います。また、その無差別的な因果軸の再構築は、あなた方の世界が、もともと無関係である無数の他の次元と接続されることを意味します。これは、もともと悠久の未来や、過去の地球に到来するはずであった異次元生命体を、その時代に限定し、無差別に集中させる要因となります。

その体に絶対零度を下回る超低温と、核熱を超える超高温を同時に有し、熱力学の概念を無視して百パーセントを超える熱交換から、無尽蔵のエネルギーを保ち続ける永久機関的な生命体や、存在するだけで磁場の転換を誘発するもの、呼吸をするように万有引力の反転を促すものなど……。ちなみに言うと、彼らには悪意などといった意図はないのです。しかし、その三次元宇宙の常軌を逸脱する異次元生命体の、突発、極大的な出現に対し、地球……もとい三次元宇宙の秩序は大きく狂い、異次元抽象的存在に対し、成す術のないあなたたちは……近未来においてほぼ絶滅し、それを最後に、あなた方人類が再び栄えることはないでしょう。

その後も彼らは次元間を侵食し続けます。この厄介な生態を持つテスラ変異種に対し、他の次元、外宇宙の高度知的生命体も手段を講じますが、宇宙の時間逆行作用を利用しても、次元間を浸食する彼らの行動を止めることはできず、どこかに幽閉しようとも、空間自体を侵食する彼らに対して、その効果はありません。彼らの唯一の弱点とも言えた低温も、長期間に渡り氷の下で眠り続け、変異した彼らにとって致命的なものにはなり得ませんでした。
あなた方は、彼らが目覚めてしまう前に、これに対抗する手段を講じなければなりません。そうでなければあなた方は……、今、あなたがいる時代から、ほんの三十年以内に滅亡することになるでしょう」 

(三十年!そんなに切迫しているのか……。しかし、計算がおかしくないか?南極の氷が解けてテスラの発見まで約百年と言っていた。なのになぜ、三十年以内に人類が滅びるんだ?)

まるで、そんな僕の考えに答えるかのように、彼は言葉を続ける。

 「あなたがたの文明の直接的な滅亡原因は、このテスラではありません。この事態を重く見た外宇宙高度知的生命体は、テスラの次元軸破壊が及んでいない他の次元時間軸を逆行し、南極の氷の下、テスラの活動停止中にそれを分析し、適切な措置を取ることが最善の手段であると判断しました。高度に発達した生命体であるがゆえに、進化の途中にある他種の生命体に対して干渉を好まない彼らは、地球上の動植物を消去対象から除外しますが、その生態系を浸食し、テスラを解放する地球温暖化の直接的原因となった、あなた方人類のみを消去対象として動き始めます。その手段はあくまでも穏やかであり、あなた方は何者かに干渉されていることすら気が付かないまま滅亡し、その後、太陽系第三惑星の地球は彼らの管理下に置かれることになります。しかし、彼らはもともと友好的で高度な知的生命体です。地球史上、最も有害な方向に進化を遂げてしまったあなた方であっても、改心し、今からでもその方向を変えさえすれば、彼らの消去対象から外れるかも知れません」

地球史上最も有害な存在と言われても、僕は何の反論も出せず、ただ、悲しいだけだった。ひょっとしたら、僕の頭の中に、そんな自覚があったのかも知れない……。そんな感情も、次に続く彼の言葉で吹き飛んでしまった。人類に対して無責任かもしれないが……。

7『浦島太郎伝説』|六幻 (note.com)

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