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現代妖怪奇譚

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僕には頼れる存在がいる。 ある山の中腹に立つ六つの地蔵だ。ひょんなことから僕はこの六地蔵と出会い、僕と六地蔵との不思議な関係のもとにこの話は始まる。 僕は十数年前に独立して小…
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現代妖怪奇譚  序章 あらすじ

現代妖怪奇譚  序章 あらすじ

「お地蔵さんはお地蔵さん。首がなくてもお地蔵さん……」

そんな奇妙な鼻歌を口ずさみながら、今日も僕はその広場の掃除をしている。

ある時、山歩きが趣味の僕は、見知らぬ山のふもと、山頂に寺があることを示す看板を見つけ、物見遊山でその山を登っていた。

寺の参拝を終え、山を下る中腹に小道を見つけ、好奇心でその道を進んでいた矢先のことだ。

そこで僕が見つけたのは一列に並ぶ六体の地蔵だった。

相当に

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都市伝説 さがり女 1

1 夢

それは夕暮れの小学校の校庭に現れる。

遠目から見ると鉄棒に布が絡まっているようにも見える。だが、それは全く別の恐るべきモノだ。

その正体は、腕を組むようにして、鉄棒にぶらさがる上半身だけの……女。

もしそれに出くわしても、決して背を向けてはいけない。もし背中を向けてしまったなら、それはおぶさるようにその背に憑りつき、寝ても覚めても耳元で呪いの言葉を呟かれ続けるのだ。

過去に生徒か

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都市伝説 さがり女 2

2 形を持った都市伝説

彼は放課後、友人たちと校庭で遊んでいたらしい。

ふと、誰かが蹴ったボールがあらぬ方向へ飛んで行き、彼はそれを追いかけて校庭の脇の草が繁る方へ走った。溝にはまっていたボールを回収し、友人たちの方を振り向くと、校庭で今まで共に遊んでいたはずの友人たちの姿が見えない。

(あれ……?)

と思って、周りを見回すと、砂場の脇にある鉄棒に何かが揺れているのが目に入った。

(何だ

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都市伝説 さがり女 3

3 御守り

その二日後、前述した『さがり女』に遭遇したと思われる生徒が、非常に興味深いことを言った。

「先生……なんか変な夢を見んねん。何回も……」

(夢……?)

「どんな……?」

「それがさ。学校の校庭で一人でいてさ、変な女の子が出てくんねん……。で、あんたは大丈夫ね!とか言われるんやけど……」

(これは『カナコ』の夢ではないのか!やはり『さがり女』と『カナコ』には関係性があるのか…

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都市伝説 さがり女 4

4 墓場が来る

案の定、僕はまた夢を見た。

夕暮れの校庭、見覚えのあるような景色からそれは始まる。

だがそれは、いつものそれとは異なっていた。日の傾く夕空は紅色ではなく黄色い、やけに黄色いのだ!

斜め射す黄色い太陽の光の中、僕はゆっくりと歩き始める。夢の中の僕は、この夢と、今まで見てきた夢との違いを認識できてはいない。

だがすぐに実感させられることとなる、この夢がいつものそれと異なってい

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都市伝説 さがり女 5

5 光

夢の中なのに、なぜにこれほど疲れるのだろう。

また恐怖からくる緊張感は、文字通り僕の足をすくませるには十分で、その時の僕は何よりも、物陰や、曲がり角が恐ろしかった。

しんとした校舎の中、寿命をすり減らしながら自分の足に鞭打って、途中からアスファルトに変わった坂道を登り、あの時、少女と共に見た校舎の二階の部屋を視認した……。

はぁはぁと息づく僕は、坂の下方、今、自分が来た方向から

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都市伝説 さがり女 6

6 カナコ

「あの夕日が落ちるまでの時間、お話ししましょ。で、あれは……」

アレは、僕らが幽霊と認識するものとは全く別の、いつ生まれたのか、どこから来たのかわからない悪意を持った化物としか表現できないものらしい。

正確にはわからないが、いつの頃からか校庭の隅に罠を張り、子どもを狙い、本体は図工室の、今しがた僕が砕いた何かに潜み様子を伺っていたのだという。

こいつに同種の存在がいるのかはわか

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都市伝説 さがり女 最終

7 守り神

幾つかの後日談がある。

僕がこの恐ろしい夢を見てから数日後、その小学校に通う生徒から興味深い話が聞けた。朝の全校朝礼の校長の話の中、誰かの悪戯で図工室にあった修復中の石膏像が、台から落とされ修復不可能な程に粉々に打ち砕かれていたという話があった。

(図工室?台から落ちて……?)

その話に興味を持った僕は、生徒たちにその像について詳しく尋ねてみた。

それは普段、黒い布が被されて

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異界電話 1

1 奇妙な電話

塾を始めてからまだ数年しか経っていない、初期の頃の話だ。

「プルルルル」

ある金曜日の夜、最終枠の授業の終盤に奇妙な電話があった。

「先生!やっと誰かに繋がった!先生!!」

それは非常に切羽詰まった若い女性の声で、むしろ送話口の向こうで泣いているような声色だった。

「どうした?」

その緊急性を思わせる震えた声に、僕は相手が誰かもわからないまま、その安否を確認しようとし

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異界電話 2

2 死霊

(何を優先し、何を後回しにする……?)

とにかく冷静に、と努めた僕は、とりあえず彼女の話を……真面目に聞くべきだと考えた。

「おい、君はここにはいないんだ……」

「でも、私は……!」

僕は彼女の金切り声を制し、

「わかってる。奇妙だが、君はここにいるけど、いないんだ」

「どういうこと!?」

「いや……わからん……。だが……矛盾しているが、そういうことだ」

「……」

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異界電話 3

3 もう一人の彼女

暗い階段には、何者かの侵入を示すコンビニ袋を初めとした菓子袋、空缶、弁当の容器などが散乱していた。

(汚い。まぁ、それが当たり前か……)

汚れた弁当に記載された賞味期限を確認すると前年の春頃、つまり、このビルが閉鎖されてから、少なくとも一年以上は経っているのだろう。

僕は黙って階段を登った。二階には、奥に続く廊下、その脇に四つの鉄製の扉、最奥にはトイレと思われる入口があ

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異界電話 4

4 パラレルワールド

僕は夢を見ているかのように、視線をゆっくりと周りに移す。

(知らない町だ……。カラオケやパチンコ屋、馴染みのない居酒屋のネオンまで見える。お……あれは駅か……?)

僕の放心状態を打ち砕くかのように、信じられない光景が僕の目に飛び込んでくる。

『○○駅』

(ここは最寄り駅の○○駅!?まるで違う町じゃないか!?)

そのショックで放心状態から立ち直った僕だが、それでもま

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異界電話 5

5 多胞体 テトラグラマトン

そこには何か……圧倒的に異様な雰囲気を示す、不思議な……記号のような、図形とも思われるようなものが描かれてあった。

古ぼけた円の中に五芒星が描かれていて、その中心に立方体をいくつも組み合わせたかのような、一見美しくも思えるそれを前に、

「これは……何?」

と、尋ねざるを得なかった。

「え!?ああ……それは……何かの本に描かれてた、魔除けって言うか、魔方陣って

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異界電話 最終

6 時の旅人

それから数年後、そんなことがあったことすら記憶から薄くなった今、全くの予想外のことから、今更ながらにこの話に関する新しい仮説が立ったのだ。

それはこの話を書くきっかけともなった出来事、ある夜、久し振りの卒業生、この山本一華が塾の扉を開いたことから始まる。

『ガチャ』

塾の扉が開く音と共に、

「先生!大丈夫やった!?」

そんな声が教室内に響いた。

(何だ……!?)

驚い

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