【前編】2024年個人的BEST30曲
去年からやり始めたその年の個人的BEST30曲を選ぶ遊びを2024年分もやっていきます。
すでに30曲は選び終わっているがレビューを書くのに時間がかかっているので10曲ずつ投稿していくことにしました。とりあえず今回は前編。
【ルール】
・1アーティスト1曲とする
・2023年以前の曲でも収録されているアルバムが2024年なら選んでもOK
番号がついてますが好きな曲ランクではないです。
あと筆者は基本的にHIPHOP好きなのでそれ系のレビューが多めです。
①『さびしくない』 - カネコアヤノ
普段HIPHOPを聴くことが多いので文字数とか情報量が多いことに慣れてしまっている。そのせいか反動で情報量少ない曲にガツンとくらってしまうことがある。この曲はそのパターン。
全てを語らないからこそ伝わるし、余白があるからこそ想像が膨らむ。
サビの終盤、「別に遠くに行けなくてもいい」の後に「最近は 最近は」と続く。過去に別れがあって最近やっと立ち直ったのだろうか。
最後に「さびしくない」の繰り返し。いやいや絶対さびしいでしょ。まだ消化できてないなら無理すんなよと言いたくなる。
「さびしくない」と歌うことでさびしさが伝わるこの表現の豊かさよ。素晴らしい。
②『Burning』 - 羊文学
呪術廻戦のEDだった『more than words』が好きで最初はこういうバンドの曲がアニメのEDに使われるのか、と驚いた。
世代的にはるろうに剣心のEDで初めてBONNIE PINKを聴いた時の感覚と多分一緒。
呪術廻戦のあと、さらに人気作のしかも2期という期待値が爆上がったところにこの曲。バランス感覚すごくね?
イントロからボワンボワン歪んだギターが懐かしい。90年代っぽい気怠くて退廃的なカッコ良さがたまらない。Youtubeのコメント欄見ていたらCoccoを感じるという人がいてとても共感した。
推しの子を読んでたらもっと解像度高く聴こえたのかもしれない。
最近触られていなかった自分の中のオルタナロックのツボが刺激された。全方向に隙のない曲だと思う。
③『ハリボテ』 - SHISHAMO
作業用BGMとしてなんとなくSHISHAMOの新しいアルバム『SHISHAMO 8』を聴いていたらとんでもない曲が流れてきたので作業の手が止まった。
冒頭の歌詞はスピードワゴンの小沢が言いそうな内容から始まる。
歌詞の内容からして、なるほどこれは恋で周りが見えなくなってるカップルの曲ね、はいはい理解しましたよと思ってたら
おっと、なんか雲行き怪しくなってきた。
フィクションとして妄想すると
この曲の中の『君』は無自覚に世界を変えられる力を持っていて、『私』はそのことを知った上で『君』の作った世界の中で生かされている。それでいて『君』を哀れんだ上でその茶番に付き合う事にしている。
涼宮ハルヒの憂鬱か?
現実的に考えると『君』と『私』は付き合っていて、『君』はおそらく『私』のことを含めた周りのことを全て自分でコントロール出来ていると思っているモラハラ気質な人。『私』はそれに気づいた上で茶番(表には出さないが水面下では終わっている関係性)に付きあってあげている。でも結局『私』は『君』に依存している部分があるので別れていない。そんな感じかなと思った。
いろいろ踏まえた上で最後に冒頭の歌詞が戻ってくる。
全然意味が違って聴こえる… 怖っ!
④『マイク持つ者よ 』- Mummy-D
RHYMESTERのMummy-Dよる初のソロアルバム『Bars of My Life』の2曲目。
ものすごく雑な説明だがHIPHOPには「俺はすごいんだぜ!」というテーマをあの手この手使って表現するboastingという文化がある。
なんだかんだでHIPHOPはユースカルチャーで、若くてイケイケなラッパーがやる分には反骨精神があって良いんだけど、ベテランがやるとどうしても老害っぽさが出てしまうと個人的に思っている。
老害っぽさが出て悪いわけではないが価値観がアップデートできてないことを晒してしまう危険性がある。そんなことを踏まえてキャリア35年のレジェンドラッパー、Mummy-Dが何を言うのか、聴く前の気持ちはワクワク70%のドキドキ30%くらいだった。
結論、愛に満ちた素晴らしいアルバムだった。その中で一番「背筋正してくれる曲」だと思ったのが『マイク持つ者よ』だ。
カレとかカノジョとかイマとかカタカナ表記にするあたりはちょっとおじさん感が出てる気もするが、やっぱり説得力あるなぁ。
Dさん、これからもついて行きます。
⑤『Represent Me 』- 餓鬼レンジャー
こちらも結成30年のベテランクルー、餓鬼レンジャーの新アルバム『Survival Attack』の3曲目。
これでもかと言わんばかりのサンプリング祭り。
「自分が自分であることを誇る」→K DUB SHINE
「ただそれだけ ただのB BOY」→ RHYMESTER
「たかがラップ されどMic check 1 2」→ BUDDHA BRAND
「日本語RAP改正開始」 → MICROPHONE PAGER
「調子はどうだい?イカれた兄弟」 →G.K.MARYAN
「フルスイングで重ねた打席の数」→ 餓鬼レンジャー
「ビートで飯何杯も喰らう」→ 餓鬼レンジャー
「これが俺たちのやり方」→ ラッパ我リヤ
「むちゃくちゃ踊って騒ごう騒ごう」→ Missy Elliott
「こっちゃ死ぬ気やっとる知っとる」→ TOKONA-X
「いかれてるいっちゃってる異ノーマル」→ BUDDHA BRAND
「生でオリジナルフレイバー!」→ECD
「誰にも流されぬ強い意志」→SHAKA ZOMBIE
流石にやり過ぎ…
でもこれを良い意味で軽率にやってしまえて、そのノリが許されるのって餓鬼レンぐらいだろうと思う。
あとは言うまでもなく韻踏まくりのふざけまくり。それでいてスキルフルなんだからやっぱすげーわこの人たち。
思わずニヤリとしてしまった韻はYOSHIの
本当にこういうの上手いよなー
↓追記
HIPHOPの考察動画をよくあげている199_ikukyuさんの動画見てびっくり。
ファッションブランドが隠されていたとは…
凄すぎる…
⑥『愛哀』 - chilldspot
で始まる歌詞でいきなりグッと引きつけられた。
Apple musicのおすすめでたまたま聴いたこの曲。バンドも全く知らない。それが年間Best30に入ってくるとは思いもしなかった。
情景をイメージしながら聴いて、歌舞伎町のホストにハマった家出少女の歌なのかな、と思ってPV見たらほぼ合っててびっくりした。
一言も街の名前を出さずにイメージを伝えるって凄い表現力だと思う。
調べると結構若いバンドみたいで今後も注目して聴いてみようと思う。
⑦『Ocean』 - SPARTA
正直、SPARTAはたまに客演で名前を見るラッパーっていう印象ぐらいしかなかった。でもこの『Ocean』とカップリングの『Only you』はかなり好き。
オートチューンを使うラッパーに対して否定的な意見をよく聞く。自分もどちらかというと否定派だ。でも条件が揃うと寧ろ効果的だと思っている。
条件①内省的なリリック
条件②nerdな雰囲気がある
条件③HIPHOPに縛られていない表現
上の条件のどれかに当てはまるとオートチューンは武器になると個人的に思っている。端的に表している代表的なリリックとしてはtofubeatsの『ひとり』の「機械を使わなきゃ ろくに人前で歌も歌えない」だ。
HIPHOPにおけるマッチョな側面に対して全乗っかり出来ない、HIPHOP界隈にモヤモヤした感情がある人がそれでも表現したいと思って作った曲に自分は特に共感する。非常にめんどくさいし視野の狭い価値観なのは自覚している。
そういう意味でSPARTAは好きなタイプのラッパーだ。内省的だが複雑ではない素直なリリック。verseとhookの境目を感じない流れる様な歌唱法が心地良い。
タイトルが『Ocean』なのにジャケットが冬の田舎の田んぼ道を歩いてる背中というギャップも良かった。SPARTAの前に進んでいく覚悟を感じた。
⑧『Kids Return 』- JJJ
多分一番早くBest30入りした曲。
まあ出す曲出す曲本当に良い仕事するな。
イントロからグッと掴まれる。勝利確定。
この曲に限らずJJJのリリックは断片的な情景や感情の連続でストーリーを読み解くのが難しく、聴く人によって受け取り方が全然違ってくる。
ただ何度か聴いていくうちにぼんやりと輪郭が見えてきて気づいたら不思議な魅力にはまっている。
サンプリングのネタとしては今回は映画が多く、曲名はそのまま北野武映画の『キッズリターン』で、「重なる俺はあの日のシンジ」のシンジは映画の登場人物。
スティーブン・キングの小説原作の映画『ミスト』のこと。
『千と千尋の神隠し』の千尋のこと。
そのまんま映画の『スタンド・バイ・ミー』のこと。書きながら気づいたけどこれもスティーブン・キングが原作。何か意味があるのだろうか。
映画ではないがフェニックスの流れで
というリリックがある。言わずもがな漫画の『火の鳥』のこと。
ネタがわかったからなんなんだって話だが、こういうリリックもトラックも継ぎはぎして作られた過程を辿るのがHIPHOPを聴く醍醐味だと個人的には思う。
⑨ 『See, Saw (feat. GAGLE)』 - Sweet William
トラックメーカーとラッパーの相性があると思っていて、ハマった時の心地良さはアハ体験をした感覚に似ていると思う。
GAGLE と Sweet Williamを同じ並びて見た時、脳内でドーパミンがドバドバ出ていたと思う。
待っていたんだ!この組み合わせを!
ドバドバーって。
Sweet Williamの包み込むような優しくジャジーなトラックに変則的でボキャブラリーに富んだラップを乗せるHUNGERの相性の良さよ。
改めてHUNGERの韻の置き所のバリエーションの多さを感じる。
冒頭からHUNGER節が炸裂している。
「視線上へ」は「しせん、うえへ」ではなくその後の語感の繋がりを意識して「しせんうぇえん」と発音。その後に「炎天で」が続き、enenの流れができた。続けて「燦々さ」ananを入れてnの語感の良さを残す。「振るう大手」はその後にくる「OK?」「ALL DAY」の布石。「明暗は」と「アンバーランス」は前の「燦々さ」のananaの流れで踏んでる。「峠」は「ALL DAY」とoueで踏んでいる。
MVもめちゃくちゃ雰囲気が良いので気になった人はぜひ観てほしい。
⑩『破魔矢 -Hamaya-feat.Jinmenusagi 』- DJ KRUSH
日本のHIPHOPの黎明期から活動し、現在は海外でも高い評価を受けている62歳の超ベテランDJ、プロデューサーの DJ KRUSHと、数多くの客演こなす多才なラッパーJinmenusagiの曲。
まずこのドロっとして湿度の高い複雑なリズムを擁するトラックを乗りこなせるラッパーがどれだけいるのだろうか。Jinmenusagiの適応能力の高さを感じる。
リリックの内容に関して個人的にはストーリーやメッセージ性はあまり感じず、オーソドックスに小節のケツで踏む脚韻を基本軸として、お経の様な耳障りの良いスムーズなラップだなあという印象だった。
ところどころクスッと笑える様な表現があり、格式高くしすぎない遊び心を感じる。
面白いのは早口言葉の「坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた」と同じリズムで「娼婦が上手に陰部に頬擦り」のところ。なんじゃそりゃ。
あと人名でアブドーラ・ザ・ブッチャーやドス・カラスなどの往年のプロレスラーが出てきたり、元K-1ファイターのジェロム・レ・バンナが出てきたりとJinmenusagiって格闘技好きなのだろうか。
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こんな感じで【中編】、【後編】と書いていく予定です。
次回もよろしくお願いします。