2022年6月の記事一覧
絶望的なくらいに絶望的
ぼくらは抱き合っていた。ただ、抱き合っていた。
それは愛とか恋とかとは無縁の抱擁だった。情愛も友愛も無し。人類愛でもなければ、隣人愛でも、無償の愛でもない。ただの抱擁。あるいは、なにかにしがみつく仕草に近かったかもしれない。
深夜のオフィス街には人影はなかった。明かりのついている建物はあったけれど、歩いている人はいなかった。ビル風が耳元でごうと鳴った。冷たい風だ。車がタイヤを軋ませながら駆け
純粋無垢で完全無欠の恋
これはぼくの初恋についての話だ。
それは純粋無垢で完全無欠の恋だった。初恋なのだからそれはそうだろう。初恋は純粋無垢で完全無欠なものだ。そうでしょう
?
「君」と、ぼくの恋した相手は言った。「わたしのこと好きでしょう?」
「え?」と、ぼくは頬が熱くなるのを感じた。「なにを言っているの?」
「君はわたしのことが好きなんでしょう?」と、彼女は言った。はっきりと、すべての音を明瞭に発音しながら。そこ