2023年6月の記事一覧
エンドバースデー【140字小説】
「大人になんかなりたくない。」
君の口癖。大人は汚い。平気で嘘を吐き、君を傷つけ搾取した。
「私もそんな風になっちゃうのかな。」
傷だらけを心を抱きかかえ、怯える君。でも大丈夫。君を汚い大人になんかさせない。大人になる前の綺麗なままの君を、僕が。ハッピーバースデー。さよなら。
流れる【140字小説】
「え、お前また知らない男としたの?」
「そういう流れだったからね。」
「お前流されすぎだよ。」
「流されてるんじゃなくて、自分から流れにいってるの。」
「…俺には流れてくれないくせに。」
「流れて終わりにしたくないからね。」
「どういうこと?」
「そういうとこだよ。」
姫鏡台【140字小説】
幾度鏡を覗き込めど映るのは醜い女の顔貌。これではいけない。こんな姿ではいけないのだ。繰り返し顔に筆を走らせ、目尻を描き足し紅を挿す。何れ顔を見るのが怖くなり、金魚鉢を投げつけ鏡を割り、その破片を頬に当てる。ここを切れば、美しくなれるかしら。誰かから愛されるかしら。私が美しい者なら。
焦燥天秤【140字小説】
「僕のこと好きになれそうですか。」
今日で会うのは3回目。初めての夜のデートの帰り際、彼は顔を真っ赤にしながらそう言った。優しくて温厚、だけど正直決め手に欠ける。選り好みしてる場合じゃないのはわかってる。わかってるけど、心が揺らぐ。結婚したい。幸せになりたい。私の出した答えは…。