読書感想文#2「レーエンデ国物語」
「革命の話をしよう──」
この冒頭に心臓を鷲掴みされた人は少なくないでしょう。
これからどんな物語が始まるのだろう?
これからどんなキャラクター達が出てくるのだろう?
そんな期待に胸を躍らせながら、レーエンデへの旅は始まります。
(多少ネタバレありますのでご了承下さい)
この作品との出会いはまさしく広告でした。
出版社様の打ち出し方と言えばいいのでしょうか?
宣伝力の賜物と言えばいいでしょうか?
ものの見事に「これ読みたいっ!」という気持ちにさせられ、広告側も「お前こういうの好きだろ〜?頼むから読んでみてくれよ」と私のもとへわざわざ宣伝しにきてくれたのだと思います。
私はこの作品を丸二日ほどかけてじっくり読みました。
読むのが遅いというのは重々承知の上です。
作中の言葉や文章の表現が綺麗であるがゆえに、知らない、わからない言語も多々あり、作家を目指す者としてまだまだ修行が足りないな〜なんてことが頭の片隅でよぎったりもしながらゆっくり読み進めました。
まさしくこれなのです。
この文があればもう何も説明はいらない。読者はみんな共感し合う仲間になれる。
レーエンデという呪われた地で、主人公のユリアが一人の青年、トリスタンと出会うのですが、私にとっては彼が本物の主役でした。
なのでトリスタン重視でトリスタンへの思いの丈を綴らせていただきます……
これはネタバレになってしまいますが、最初の序盤でトリスタンは、ユリアの父である英雄ヘクトルを、自分の理想から違えたと解釈しそのショックから殺そうと目論みます。
いやなんじゃそりゃと、ちゃんと話も聞かずに自分勝手だなと思いましたよ。最初の印象はそんな感じでした。
しかしこれがトリスタンのヘクトルへ向ける溺愛の証明、それがユリアとヘクトルを守る同志になるという流れへと繋がっていったわけです。
キャラの動向とストーリーの流れの同時進行が完璧すぎるじゃないか……
そこから中盤になっていくと、明かされる真実を喰らいます。
まじか、と。
しかしそれすらトリスタンだと美しく、今風に言えばエモい、と感じてしまうのです。
それに、いうてもファンタジーですから運命は変わるのではないかという希望や期待もありました。
まだここでは……
その後の七章で自分の想像していたものとはまるでかけ離れた展開が起こり、そして人間不信になるような、激しく打ちのめされる出来事が起こったのです。
もう、涙が溢れて溢れて止まりませんでした。
心が優しく温まるような感動の涙じゃない。
苦しくて辛くて助けたいと願う涙、です。
偏った考えで罵倒する人間たち。
しかも謝罪もなしに悪びれもせず痛ぶるだけ痛ぶって、自分が正しいと信じきり、その醜さに気づいていない図々しさと横暴さ。率直に言うと最悪です。
よくぞそんな環境の中、自由を求めて周りに染まらずに生きてこられたな、と。トリスタンへの芯の強さに愛おしさがまた増すわけです。
トリスタンってただ強いだけじゃなく、ものすごく不憫な存在で。
彼自身はそうは思わないだろうけれど、哀れで不憫で大切な人を守るためなら自己犠牲は当たり前。
それがこんなにも愛おしいという感情につながってしまう。
彼のことを考えれば考えるほど、切なくて苦しくなります。
そしてラストにかけてトリスタンは守るべきもののため、愛する人のために走り続けるのです。
本当に個人的主観で申し訳ないのですが、読み始める前に魅力的に思えた泡虫や、銀色の動物たち、古代樹の森……
何もかも全てトリスタンの前では劣ってしまう。
……いえ、間違えました。
これらはトリスタンと共に存在しないと、魅力が半減してしまうのです。
トリスタンの住む古代樹、トリスタンがいるレーエンデじゃないと惹かれないと思ってしまう自分がいるのです。
こう感じてしまうのはなぜでしょう?
それだけ彼はひとりの人間としての生き様が美しく魅力的だからでしょうか?
作中でもトリスタンがレーエンデそのものだと表現されていましたが、まんまと伏線回収された気がしています。
トリスタン……