シェア
むつき
2020年6月28日 20:15
夜、誰もいない銀行は不気味だった。非常灯の薄明かりが余計にそれを助長し、普段見えそうもないものが目の前に現れて自分をじっと見つめているような気さえした。 ごくり、と唾を飲む音さえ響いて聞こえる。紅林は臆病者ではないし、夜の学校で肝試しをしてもあんまり驚かない方だった。しかし今夜は訳が違う。 頭のなかに失敗したとき、自分がどうなるかという想像がひとり歩きをして紅林を不安の渦に陥れる。警備員に見
2020年6月15日 18:41
銀行にも当然ながら関係者専用の出入口がある。いわゆる裏口である。侵入するとすればこれほど好都合な道はないだろう。入館証さえあれば、そこを突破するのは容易い。金庫が破られることを想定していないせいか厳重な警備などは特にない。 柿崎はそのことについてひと言――馬鹿だねぇ、と感想を述べた。 こちらとしてはやりやすいが一般論で言うならば人様の金を預かっているというのに、その自覚と警戒心が足りないので
2020年6月10日 19:30
「強盗なんてできないよ」 放課後の準備室で柿崎は断言した。 紅林が柿崎と協定を結んでから一週間が過ぎていた。「はぁ? いまさら何言ってんですか」 逃げられないと言ったのは柿崎のほうだったはずだ。それが今後の指示を仰ぐために入室した生徒に向ける言葉なのか、と言いたい。しかし柿崎は紅林のそんな思いは露とも知らず答えた。「だって銀行強盗って、昼間に襲って金を出せぇって脅して金を盗むでしょ。そん