見出し画像

いぬがしゃべりました ⑤【誰も信じない】

「ある日突然、イヌがしゃべった!なぜ?」
中2女子 桃々と犬のサトーさんのふしぎな3年間。「犬と話したい」と夢見る方々にお贈りする。素敵な冗談みたいなおはなしです。
(※第1話へ)


<第5話>「誰も信じない」



「しゃべった?サトーさんが?」

パパは、ジャムを塗りたくった朝食のトーストを齧って、ソファで丸まっているサトーさんの背中を眺めた。

「いつまでそんなこと言ってるの。顔洗ってきたら?」
ママはプチトマトをつまんで、ヘタをとりのぞく。昨日から何度言っても信じてくれない。サトーさんもあれから”モモ…”と言わなくなった。

「すごいじゃないか。」食いついた。
そう、パパは分かってくれるよね。子どもっぽいから。こういうときだけ役に立つ。

「そうなの!でねでね…、」

「早くしなよ。遅刻しちゃうでしょ。宿題入れたの?だから夜のうちに準備してって言ってるのに。」
ママはトマトとお小言を一緒にモグモグ。図書館の司書補っていう仕事は、開館よりずいぶんと早く行かなければならなくて、いつも朝はバタバタだ。

「ちょっと待って。」
パパはトーストの粉を指先で払いスマホ画面を小指でイジる。
「…あった。あらら。犬が話す夢って、あんまり良くないんだって。夢診断だと、お友だちとの関係が良くないことを表してるらしいよ。」

「夢じゃないよ。ホントに喋っ…」口を尖がらせる。ムキになるときの私のクセだ。
サトーさん、なに知らんぷりしてるの?あんたのことよ!恨めしく矛先を向けようとしても、無関心なサトーさんは鼻をお尻に潜らせて寝ている。朝の光に柔らかく細いふわふわの白い毛を輝かせ、茶色とベージュのまだらなブチが混ざった背中を無関心にこちらへ向けるだけ。

玄関を出ながら、ママにむりやりランドセルを背負わされ、

「早く準備してよ。今日夕方から寒いから厚い上着にして。ほらスカート前後ろ逆。なにしてんの。もう、置いてくわよ。」

外にすべり出た私のお尻にぶつかりそうなくらいギリギリで、

”バタン!”

風圧でホコリを舞い上がらせながらドアが閉まる。
ガチャリと鍵をかけたら、コツコツ先行くママ。その背中に向かって、私はチェックのスカートを回しながら口を尖らせた。

「もう、ホントなのに…。」




朝の冷たくて痛い空気。大勢の通勤通学の波にママと並んで流される。
スーツの大人や制服の女子高生、ランドセルの小学生たちが白い息を吐きながら一斉に同じ方向に向かって歩く。楽しそうには見えない。変な光景だ。いつまでたっても慣れない。
そんな私の心は、あのことでいっぱいだった。

サトーさんがしゃべった?

やっぱり私の気のせいだったのかな。
私しかいなかったし、聞き間違えってこともある。しゃべってくれたらいいなっていう私の願望が、ただの犬の鳴き声をそう聴こえさせたのかもしれない。
だけど、だけど、確かに聴こえたよ。
”モモ”って言ったよ。サトーさん、私のこと桃々って呼んでくれた。

モヤモヤ自問自答を繰り返していると、いきなり、急に背中が重たくなった。誰かがランドセルにまとわりついたのだ。

「モモノスケ、おっはよー。」
「あ、ダイフク。おはよ。」

甘えたように苺乃大福が私にぶら下がる。
私のことをナゾにモモノスケと呼ぶのは、幼稚園からずっと一緒の大福が絶好調なとき。早口でまくしたてて、

(以下、1.75倍速早送りくらいのイメージ)
「あ、お母さんもおはようございます。
な、桃々、グラフ用紙持ってない?オレ買うの忘れちゃった。
な、この靴かっこいいだろ。ネットだけの限定版。
でさ、さっき萌奈華ちゃんに会っちゃった。『おはよう』って。くー、萌えすぎて死んだ。」

情報量多すぎ。
身長は小さいけど、勝気な雰囲気を漂わせる大福。いつもテンション高め。でも嫌いじゃない。私が悩んだときとか、コイツのリアクションで試してみることがある。リトマス試験紙みたく。大福は信じてくれるかも、って思ったけど、いざ話し始めるとどこかで予防線を張ってしまう。
だからちょっとママから離れて、こっそり水を向けてみる。

「あのね、大福。」

「うん?何?…あ、テレビだろ。桃々さあ『ラメ色のこむら返り』観た?『マシュマロさとし』面白かったなー。」相変わらず屈託ない。昨夜のバラエティー番組に夢中みたい。

「あ、えっと、そうじゃなくてね。」
「うん?」
「ウチにワンちゃん来たって言ったじゃない?」
「そうだよ、早く見せてくれよー。今日行っていい?写真持ってないの?いいなー、犬。桃々んちだけズルいなあー。」(1.75倍速)

体をくねらせる。

「そのワンちゃんがね。」
「うん。」

クネクネ。

「そのワンちゃんがしゃべった……」

「え?」クネったまま、ぴたり静止。

大福の表情にちょっと戸惑う。「え…あの…」

「え?」
「…ワンちゃんがしゃべった…」
「え?」
「…ように…聴こえたような…」
「しゃべった?言葉を?犬が?桃々んちの?」
「…んー…かな?」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

大声で大福が叫んだもんだから、道行くみんなの視線がわっと集中した。

「ちょ大福、声が大きい…」
「なんて?なんて?なぁ、なんて言ったの?な、なんて?」
大福の顔が紅潮して喜びにパンクしそうだった。
ママも怪訝な顔でこっちを見る。道行く同級生たちも「なになに?」「大福、どうしたんだよ?」

「桃々んちの犬が喋ったんだってよ~。」
「何言ってんだ、犬が喋るわけないよ。」「バッカじゃないの。」

ママをチラッと見たら怖い顔。
やば。これはやばい。そうだよね。こうなるよね、普通。ちょっと早かったかな。しかも他人に話してみると、現実の出来事だったのかどうかさえ自信がなくなってきた。『犬がしゃべった』なんて、誰にどう話すか、ちゃんと整理したほうがいいよね。大ごとになりかけたら、冷静になってしまった。

秒で思い直して、
「…って言ったら、どうする?」

「へ?…なに?」
「…喋った…みたいな、気がした、っていうか…そう聴こえるくらいカワイイって言うか…。」
「なにそれ。」一気に、大福の高テンション風船から空気がぷしゅーっってみるみる抜けていくみたい。微妙な雰囲気。

「…いや、あの…ごめんね…変なこと…。」
「…まあ、いいよ。…でさ、昨日の『ラメ色のこむら返り』だけどさ、超ウケたんだけど…」

切り替え早っ。
相変わらずの大福ショーが再開された。こういうところ、大福、扱いやすい。ま、これでいいか。まだ早いかもね。今は。

私はランドセルからノートを取り出して、大福に渡す。
「ダイフク、はいこれ、私の宿題。お願いね。」
「あいよ。がってんしょうちのすけーとりんく。じゃ、またなー。お母さんも失礼します。」
「大福くん、いつもありがとね。」ママもよそ行きの笑顔。
大福はノートを持った手を旗のように大きく振って人の流れに消えていった。

手を振る私にママは「あんまり変なこと言わないで。」とこぼした。
「さて。」とママと私は2人、人の波から外れる。
深川めし食堂の白い湯気が冬の空気に漂う中、テクテク歩き、その先にある大きな建物に吸い込まれるように入っていく。

近未来的なデザインだが、古い日本的な建築との融合を思わせる今どきな建造物。そこは、ママの働く図書館。『都立江戸資料図書館』と書いてある。
清澄白河駅にほど近い、江戸時代からの下町の文化を記録した資料博物館とそこに併設された図書館だ。





私たちは慣れた様子でいつものように通用口で入構カードをかざして入っていく。子どもの私にも入構カードを特別に作ってくれた。

「あらー、桃々ちゃん、千巻さん。おはようさん。ええやん、そのスカートかわいいやん。」

ママの先輩司書の八ツ橋さんだ。

ママより年上の、勢い強めだけどとってもやさしいおばさん。小太りなのにエプロンの下のいつもお気に入りのカーディガンがワンサイズ小さい。横に引っ張られてワンポイント刺繍の犬の模様がちょっと苦しそう。

「おはようございます。」ママの後ろに隠れて小さな声で挨拶すると、
「桃々ちゃん、ワンちゃん飼い始めはったんやて?」
「あ、はい。」
「ええなぁ。おばちゃんも犬好きどすねん。実家でいっぱい飼ってるさかい詳しいで。写真見るか?あ、ええか?」
「え、あ…。」
「犬は飼い主の気持ちわかってるんどす。大事にしてあげてな。わからんことあったら何でも聞いてや。また会わせてな。な、な。」

人前で話すのが苦手な私は、いつも勢いに押され気味。八ツ橋さんにサトーさんを会わせて、もしも目の前でしゃべったりしたら大変なことになっちゃうかも。なんてことを考えていたら、ママに向き直り、
「千巻さん、ちょっとええ?新書コーナーのPOPなんやけど…」とこれまた勢いよく大声で話しながら二人消えていった。

静まり返った誰もいない図書館。
ずらりと並ぶテーブルたちは、静かに開館を待ちわびているよう。空気を胸いっぱい吸ってみた。本のインクと紙の匂いがした。この匂い好き。ホッとする。
一番端っこにランドセルを置いて、いつものように教科書を出す。


なぜかって?

“ 私は、学校に行っていない。”


ありきたりな言葉にしたくないけど、いわゆる不登校。ここ数か月のことだ。
”あの事”があってから、時々お腹が痛くなったり熱が出たりして、学校を休みがちになった。最初は1週間に1度くらいだったのが、3日に一度休むようになって、やがて学校に行く日の方が少なくなった。完全に学校へ行けなくなったのは、今年の夏前ごろかな。

なぜかは、自分が一番分かっている。パパもママも分かっている。あんまり言いたくないけど。

友だちと会いたくなくなった。どうやって人と接すればいいか分からなくて。人前で話すのが苦手になって。そのうちみんなも私を敬遠し始めて…。だけど大福だけはなぜか大丈夫で、やさしくおせっかいでいてくれた。

学校の先生も騒いだし、ママはこんな私をなんとかしようと、最初のころはいろんな所へ相談したり、お医者さんに連れて行ったりしてたけど、今は何も言わなくなった。
だから毎日、ママの図書館へ通って自習させてもらっている。ここなら家でひとりでいなくていいし、勉強も教えてもらえる。図書館の人たちも学校の先生にも公認だ。
同じマンションの大福が学校の帰りにプリントや宿題を図書館まで届けてくれるし、朝には毎日の宿題を先生に提出してくれている。

慣れてみると、結構居心地いいのだ。
いつものようにぬいぐるみ犬の " タル兄ちゃん " をとり出す私。ノートを開くと、その前に座らせた。
タル兄ちゃんは、縫い目だらけの頬と黒いボタンの瞳で、私を見守るように教科書を見下ろす。そうすることで私は安心して集中できるのだ。

まだ開いていない平日の朝の図書館には、人は誰もいない。
ノートにこすれるエンピツの音が、静かな本棚の列に響く。

ふと私はひとりスマホを出して、こっそりと眺める。
パパにもらった小さい頃の動画だ。

手のひらサイズの画面の中には、広い公園の緑鮮やかな芝生で私と遊ぶママ。小さなスピーカーから私たちの笑い声と、動画を撮るパパの笑いながら話しかける声が聞こえる。
幼い私はワンちゃんのぬいぐるみを抱えながら、カメラに向かって「ずるい、私も撮る」と手を伸ばそうとして、転ぶ。

「あっ、桃々、大丈夫か?」

男の子の声。
どこからか穏やかな性格を感じさせる男の子の声だ。

俊敏な少年がフレームインし私に駆け寄る後ろ姿が映った。
泣いている私をさっと起こしてやさしく砂を払い、脱げた靴を両手で丁寧に履かせてくれる。ぬいぐるみを拾って、「ほいっ。」軽々と私をおんぶする、勝気な笑顔がまぶしい。

ママが笑って「樽斗(たると)、ありがと。桃々ちゃんたら、慌てすぎ。ふふ。」
「桃々ちゃんは、お兄ちゃんっ子だな。」パパも笑う。

優しかった”タル兄ちゃん”。「ほら。」と肩越しの私に四つ葉のクローバーを差し出した。
私はクローバーを太陽に透かし、つまんだ指先でクルクル回す。ハートの形をした葉がキラキラ光って眺める私。温かな幸せに包まれていた…。
「桃々が泣いてたら、いつでも兄ちゃんが助けてやるからな。」
タル兄ちゃん、4つ離れていただけで、すごく年上のような気がしていた。


私の誕生日には、このワンちゃんのぬいぐるみを見せて、
「これ、やるよ。桃々のために授業で作ったんだ。」
ちょっと曲がったヘタっぴな縫い目さえ愛おしい。
だからいつも一緒。見守ってくれてる気がして。



タル兄ちゃん。

楽しかったな。会いたい…な。





夕方、ママと一緒に家に帰ってきた。

「サトーさんに会いたいって?八ツ橋さんが?そんなこと言ってたかしら?」

ママはキッチンで赤いエコバックから野菜を取り出す。
「なら今度、お散歩で図書館まで行って見せてあげたら。」と興味なさそうにビニール袋のジャガイモを台に置いた。

「でもサトーさんがしゃべったらビックリしちゃうよね。」
同調して欲しくて、ママのあとを追いかけながら食い下がる。

「まだそんなこと言ってるの。」
「ね、サトーさん。あんた私に話しかけたよね。ね。」

サトーさんにふっても知らんぷり。テーブルの脚や、床に落ちたほこり、部屋の匂いを嗅ぐのに一所懸命だ。なんだよ。気楽なもんだな。

「ね、ママぁ。」
「はいはい。」まともにとり合ってくれない。
「ねえ、ママ…聞いてよ、ねえ。ねえ。」

私がしつこく追いかけるからキッとにらんで、
「どうしちゃったの?サトーさんがしゃべったとかワケわかんないことを…いい加減にしてよ。変なことばかり言ってないで、漢字の書き取り今日まででしょ。早くやんなさい。」
「やるよ。だから聞いてって…。」
「いつも言うまでやらないじゃん。」
「やるって。」
「早くやんなさい!」

珍しく早く帰っていたパパは相変わらずお気楽だ。
「サトーさんがしゃべったか、そりゃいいな。じゃあ今日のニオイで晩御飯当ててみろって言ってごらん。」またふざける。
「パパ、うるさい!」
なのに買ってきた犬用ビーフジャーキーをつまんでサトーさんに見せびらかすパパ。
「ほら。」

”ワンワン”

「ほら、食べたいだろ。ほら、ほら。」ジャーキーをサトーさんの目の前でチラチラ。

”ワン…おゥ…おゥ…” 切なそうに吠える。

「欲しけりゃしゃべってみな。ほら、ほら。」
「ちょっとぉ、サトーさんかわいそうでしょ。」いくら私が言っても、
「わかってるって。」と気にしない。

ママはまだ私を逃がさない。
「早く宿題しなさい。ご飯の前にやらないといつまでたってもやらないでしょ。」もお、始まった。パパが早いとなぜか機嫌が良くない。
「ご飯のあとでやるって。」
「やった試しないでしょ!」冷蔵庫の野菜室にニンジンを入れながら、「困るのは自分なのよ。」
「やるよ!」

パパが尻馬に乗って余計な一言。
「あーあ、サトーさん、騒がしいねぇ。サトーさんも桃々ちゃんにちゃんと宿題してほしいよねえ。」

カチン。思わず「パパうるさい!」と私が言おうとした瞬間、

「あなたは黙ってて!」

ママが冷蔵庫をドン!と閉めた。

「…………。」

ピンと張り詰めた空気がリビングを凍らす。パパは明らかに焦って、
「ちょ、ちょっと、どうしたのさ。そんな…。」

ママはさえぎって、
「いつもそうやって、自分だけ関係ないような顔して!」
「おいおい千巻、桃々の前だから…さ、」こわばった笑顔で、パパはその場を取り繕おうとする。
「聞かせればいいじゃない。」スイッチが入ったのか、いつものママと違う。

「あ、ごめんね。そうだよね。悪かったら謝るよ。」
立ち上がって「はあ?そんなの頼んでないわよ。」
「もうさ、こういうのやめにしようよ。俺たちが言い合ったって”樽斗”は帰ってこないんだから。」
「そんなことわかってる!」
「わかってるならさ…」
「だけどもっと早く、早く病気に気づいてあげてたら…」
「今さら言ってもしょうがないだろ。前を見ないと。」
「はあ?前を見る!?私はいつも、このイスだって、お皿だって、コップだって、見るたび樽斗を思い出すのよ。もういないのなんてわかってる。でも、気持ちを整理できるわけないじゃない。」
「俺だってそうだよ。辛いよ。だけど前に進まないと…」
「私が苦しくて、息ができなくて…、そんな時にあなたは…。」
「仕事でどうしようもなかったんだろ…。」
「仕事、仕事って、そんなベタな言い訳して、結婚式ひとつ挙げられなかった。」
「それ今は関係ないだろ。」

「桃々だって同じはず。学校に行けなくなったのも、樽斗が死んでからじゃない。」
「それは…。」
「この子だって、樽斗と同じように心臓が弱いんだから。もしものことがあったら私…。」
「千巻………。」

「ママ、パパやめて。タル兄ちゃんも悲しむよ。」
「もうこんなの我慢できない!」ママが叫んだその時、

”…おゥ…おゥ…モんモ”

「え?」

その時、私だけが気付いた。
打ちひしがれたパパの手にぶら下がったビーフジャーキーに向かって、サトーさんが何か変な声で吠え始めたのを。

”モんモぉ…モんモ…”

次にパパもサトーさんに気づいて、「お、おい…」
私は思わずママの腕をつかむ。
「ねえ!見て!ママ…ママ!」
「もう、桃々は黙っててよ…」ママが私の手を振り払おうとしたとき、私たちに興奮したサトーさんが飛びついて、

”モぉモ…モぉ…モ…モモ”

「えっ!?」
固まるママ。手に持ったジャガイモをごとんと落とす。

モモ…モモ…モぉモ…”

サトーさんが小さな尻尾を大きく振って、私たちに飛びつきながら懸命に発声し続ける。パパもママも口をあんぐり。大きな音を立ててはいけない気がして、誰も体を動かせない。

”モモ…モモ…モモ…”

おそるおそる覗き込むと、柔らかな毛で包まれたその小さな雑種犬は何度も口を開き、小さな喉元からハアハアという呼吸と共に声を絞り出していた。まるで何かを訴えるかのように。
私たちのリビングには、その声がいつまでも響き続けた。

「しゃべってる…?」パパとママは顔を見合わせ、私を見る。

そうだよ、そうそう、これだよ。ママ、パパ、聞こえてる?これだよ、私が言いたかったのは。いや、あの時より、ハッキリした発音で、確かに言っている。

そう、”モモ”って。

”モモ…モモ…モモ…モモ…モぉモ…”



(つづく…)


第1話へ  前へ  次へ  







いいなと思ったら応援しよう!

シオツマ ユタカ
シオツマのnoteはすべて無料です。お代は頂戴しません。 少しでも多くの方に楽しんでいただけたなら…それだけで幸せです。