ランチェスター思考 目標管理制度による成果主義は、 組織の硬直化を生む!
目標管理制度による成果主義は、組織の硬直化を生む!
前回は成果主義: 仕事の結果や業績に基づいて給与や評価を決める制度が会社にも社員にもどちらにとっても“いかに危ういか”を取り上げました。
今回から次の3回は成果主義に加え、近年多くの企業で取り上げられる以下の人事制度、「目標管理制度」、「コンピテンシー」制度、「ジョブ型」の問題点について考察し、4回目で、それらを踏まえたうえで、環境変化に
対応し、企業の強みを活かす人事制度の在り方をご提言したい。
① 「目標管理制度」 (今回)
個人やチームが達成すべき目標を設定しその達成度で評価や報酬を
決める
② 「コンピテンシー」制度 (次回)
成果を出す行動特性やスキルを基準にして能力を評価する。
③ 「ジョブ型」 (次々回)
職務内容を明確にしてその仕事に必要なスキルや経験で人材を評価
する。
④ 提言:これからの人事制度
これらの制度の重大な問題点、それらを踏まえたうえで、企業を
取りまく環境変化に対応し、会社の強みを活かし、会社と社員を
伸ばす、これからの人事制度の在り方を提言したい。
ではまず、目標管理制度による成果主義について
1990年代後半から2000年代初頭に生まれてきた終身雇用制度の見直しが進む中で普及し始めた目標管理制度について考えてみましょう!
1. 目標管理制度による成果主義の弊害
①理念のすり替えと目標設定の歪み
目標管理による成果主義は、本来の目標管理の理念をすり替えています。
従来の目標管理は「自分で考え、自分で行動する」という従業員の主体性を大切にし、それによって仕事へのモチベーションを高めることを重視していたのです。これは、単に報酬で従業員を動かそうとする方法とは根本的に異なるアプローチでした。
しかし、成果主義と結びつけることで、この理念が変質してしまいました。
この結果、以下のような問題が生じています:
安定した賃金を求める従業員は、達成困難な高い目標を避け、低い目標を
設定しようとする。ラチェット効果により、目標を大きく上回る成果を意図的に抑制する傾向があります。
② ホワイトカラー業務への不適合
ホワイトカラーの業務は複雑で予測不可能な要素が多いため、固定的な目標
設定は以下のような問題を引き起こします。
- 活動目標を狭小化させるとともに変化への対応力の低下を招く
- 目標の前提条件が変化した際、迅速な対応ができず遅れるリスクがある
- 長期的なプロジェクトや新規企画の適切な評価が困難である
③ 組織の硬直化と官僚主義化
目標管理による成果主義は、組織の硬直化、長期的課題の軽視などの問題を抱えています。
- 組織の硬直化を助長する
- 官僚的発想の助長
- 長期的な取組みが必要な事項や成果が見えにくい課題を軽視する傾向
- セクショナリズムの発生を招く
<事例1>
富士通は、1993年頃に目標管理による成果主義を導入しましたが、達成度のみで評価が決定されることにより、社員が難易度の低い無難な目標ばかりを設定するようになりました。結果として、チャレンジ度の高い目標や新規性の高い目標、中長期的な企業成長につながる目標が生まれにくくなりました。その後、この評価制度は廃止されました。
④ 目標管理の評価システムの問題点
エドワード・ロウラー3世によると、「評価システムは、レートを高く
しすぎたり、虚偽の申請が行われたり、非現実的な目標設定が 行われたり、
評価自体のミスがあったりで、スクラップ&ビルドの繰り返しが生じる。
これらの問題により、目標管理による成果主義の評価システムは常に改変を
繰り返す運命にあります。
まとめ
目標管理による成果主義は、本来の目標管理の理念を歪め、組織に様々な
弊害をもたらします。特にホワイトカラーの業務環境では、固定的な目標
設定そのものが適さず、組織の柔軟性や創造性を損なう可能性があります。
また、常に改変を繰り返し続けなければならない目標管理の評価システムの問題点も無視できません。
これらの弊害を考慮すると、目標管理と成果主義を安易に結びつけることは避けるべきであり、より柔軟で長期的な視点に立った人事評価システムの構築が求められます。
次回は、コンピテンシー制度について考えましょう!