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"ルックバック"観てきました

場面ごとの感想的なやつ

あまりにも衝撃を受けたので感想を書きたいと思いました。
もし原作を読んでいないなら、そのまま観に行ってください。私からのお願いです。
視聴日:令和6年7月1日(映画館にて)

井の中の蛙大海を知らず

主人公、藤野は学年新聞に四コマ漫画の連載を持つのですが周りの人からはとても上手だと持て囃され、自信に満ち溢れています。そこにひょんなことから、京本という引きこもりの子も連載を行うようになりました。圧倒的に画力の差があることを知った藤野は、周りからの評価が変わることが悔しくて、とにかく画力を上達させるべく絵の練習をたくさんするようになります。

井の中の蛙が大海を知って、己の力不足を解消するために努力する姿は美しいです。と同時にどのような場合でも、自分というのは井の中にいるのだと思い示される場面でもありました。私はお恥ずかしながら何かを産み出すことに精を出す生き方をしてこなかったので、このタイプの挫折は想像しかできないのですが、人生のターニングポイントになるんだろうなと思います。

努力しても埋まらない差

とにかく描きまくった藤野は確かに上達こそすれど、京本との差は大きく埋まりませんでした。ある時、配られた学年新聞を読んで、心が折れてしまったのか、藤野は絵を描くことをやめてしまいます。

努力は必ずしも報われるわけではない、そのことをありありと感じさせる場面でした。この挫折は私にも経験がありましたので、こっちの方が共感できました。
吹っ切れてしまい、手もつけなくなることは逃避行動のように見えますが、自分の心を守るための防衛行動なんだと思います。

運命の分かれ道

すっかり漫画も描かなくなってしまった藤野ですが、卒業式の日に先生から卒業証書を京本の家を届けに行くように言われてしまいます。
そこで初めて京本家へ勝手に入り、何を思ったのか京本の部屋の前で四コマ漫画を描くんですね。これがドアの隙間から部屋に入り、京本を外へと連れ出すきっかけになるんです。

外へ出てきた京本に大ファンであることを告げられると、あくまで平然を装って嬉しさを隠しながらも、これからは連載漫画を描くんだなんて大きなことを言ってしまうのも、子供ながらのプライドが見え隠れする場面ですね。また、京本と別れたあとに嬉しさが体から溢れて、スキップから走り出す画面は見ているこっちまで嬉しい気持ちになりました。
身近なところにいるファンの言葉をきっかけに創作の世界に戻るという場面なんですが、創作活動を支えるのはファンなんだということが、よくわかりますね。
そして、この出来事をきっかけに京本は外の世界に出てしまうのですが…。

共同制作期間

中学生になり、藤野と京本は二人で読み切り漫画を描き上げることに成功します。そして、週刊誌へ持ち込んだ結果、準入選の結果を残し、中学生としては大きなお金を得ます。

ここではっきりと公に認められた(狭い世界に留まらないの意)成果をあげることに成功するんですね。この成功体験は次への原動力になりますよね。
そして、子供ながらに大金を手にいて、豪遊しようとしますが、使えたのは一日で数千円程度というのも、藤野たちの幼さを描いているなと感じました。上手な描写ですね。ここで注目なのが、藤野が京本の手を引いて、外の世界を連れまわしているという構図だと思います。

決別の時

いくつかの読み切り漫画の掲載に成功し、月日が流れて高校生くらいになった二人に、連載の話が舞い込んでくるのですが、美術の大学に進学して絵の上達を目指したい京本は、ここで藤野と決別の時を迎えます。

ずっと手を引かれて藤野の後ろを追っていた京本が、まるで親元を離れるかのようなシーンです。藤野は引き止めたいけど、京本を下げる(悪く言う)言い方しかできないのも、若さゆえの不器用さが表れてますね。高校生くらいの年代だと、一度決意した人間を”説得”させることは難しいということが伝わってきます。

時間が流れ、残酷な結末が

藤野はその後、アシスタントを雇いながら連載漫画の締め切りに追われる日々です。そんな生活がしばらく続いた折に、テレビからショッキングなニュースが流れ、手が止まります。
京本が通っている大学で無差別的な暴力事件が発生したのです。急いで、京本へ連絡をするも電話には出ず、そして、間髪入れずに母からの着信。絶望の表情がリアルで何が起こったのか物語っていました。

ここで藤野は京本との今生の別れを知るのですが、この場面の少し前に、アシスタントへの不満を電話で口にする場面があり、京本が居てくれたらというような心情が読み取れる、まさに、そのすぐ後の出来事なので、緩急というか話の展開が上手だなと脱帽しました。

自責に駆られる

京本のお見送りを済ませたあと、京本家の部屋の前まで足が進んだ藤野は、そこで幼少期に自分が四コマ漫画をここで描いてしまったことが、結果的に京本を外の世界に連れ出してしまい、この世から去る原因を作ったのだと、自分を責め始めます。

漫画なんか描かなければよかったと感情を露わにする姿は、なかなか直視するのも憚られるような場面でした。自分自身にも似たような経験があり、物事をどうすることも出来ないやるせなさ、自分を責めたくなる気持ち、喪失感と罪悪感が入り混じったような心の大きな揺れ幅というのが、よく伝わりました。つらかったです。

もしもの世界

そんな場面から一転し、もし藤野があそこで四コマ漫画を描かなかったらという世界に場面は移ります。
結果的に、藤野が外に連れ出さなくても、京本は同じ大学へ進学し、正史と同様に逆恨みから大学生を襲った暴漢の凶刃に、京本が晒されるところで、たまたま通りかかった藤野(漫画家ではなく空手を習っている)に助けられるという話です。

一種の現実逃避を描いているのかなと思いましたし、作風を真似されたと逆恨みで大学生を襲う場面は、風化させてはならないけど忘れかけていた、現実で起きた悲惨な事件を思い出せてくれました。
この場面は、人によっては強い恐怖感を感じるかもしれないので、注意が必要ですね。特に原作を読んでいない方は。

話は現実の世界へ

そんなもしもの世界で生き残った京本が描いた四コマ漫画が、現実の世界で打ちひしがれている藤野のもとへ舞い込んできます。それを見た藤野は京本の部屋に入り、自分が初めてサインをした京本のちゃんちゃんこを目にします。そして、一通り泣いたあと、その不思議な四コマ漫画を手に、また、連載漫画を描き始めるという場面で物語は終わります。

一番身近に一番のファンがいてくれたこと、そして、そのファンが創作活動の原動力であるということを伝えたかったのかなと思いました。
また、現実はどれだけ悲しくても仕事を続けないと生きていけないんだという、嘆きに似た描写でもあるのかなと同時に思いました。

総じてこの作品に思ったこと

創作とはファン(見てくれる人)がいるからこそ成り立つし、継続できるものなのかなとか思いました。私は、何かを生み出すことが苦手なので、当事者意識は無いですが…。
そして、子供特有のプライドだったり見栄だったり、意思の伝え方の拙さだったりをよく描けているなと感じました。また、どれだけ悲しいことがあっても仕事(生活)は続けていかないといけないリアルのしんどさみたいなものも感じることが出来たと思います。

ぜひ原作をまだ読んだことが無い人もある人もどちらも楽しめますので、劇場に足を運んでみるのはいかがでしょうか?


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