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テクノロジーは仕事を奪うのか?
de:code 2019
日本マイクロソフトが開催した年に一度のテクニカルカンファレンス「de:code 2019」に参加しました。
基調講演を含め、2日間で180を超えるセッションが開かれるのですが、私は12セッションに参加しました。
基調講演ではMR(Mixed Reality)ヘッドセット「Hololens」の生みの親であるアレックス・キップマン氏も登場し、これから公開される最新のテクノロジーや、これまでに公開されたテクノロジーの事例などをたくさん見ることができました。
テクノロジー、すげぇ!!
マイクロソフトが主催する開発者向けのイベントですので、当然といえば当然かもしれませんが、まず感じるのは「テクノロジーってすげぇ!」ということです。
人間は数々のテクノロジーを発明し、それらを利用して自分たちの力を拡張することで発展してきました。
ここ数年のホットなキーワードである「AI」、中でも「汎用AI」と呼ばれるものについては人類最後の発明になるともいわれています。
このようなコンピューターを中心としたテクノロジーが急速な勢いで発展していくのを見るのは、やはりエンジニアとしては心躍るものです。
そして、ITが大きく急速に社会を変えていこうとしている今、ITに関わる仕事、つまり「テクノロジーを使って社会を変える一翼を担える立場」にいることに面白さを感じます。
テクノロジー、怖え・・・
ITエンジニアという職業柄、自分の周りにいる人たちはテクノロジー大好きで、新しいデバイスやガジェットもいち早く入手して使いこなす人たちばかりです。
ところが、そこから少し離れて異なるコミュニティに入ってみると、そういったテクノロジーに苦手意識、時には嫌悪感すら持つ人も決して少なくないことが分かります。
息子が通っている保育園の保護者会会長をしていることもあり、先生や保護者の方たちとの接点も多いのですが、年代に関係なく、ITの利用に関しては消極的な方が多くいらっしゃいます。
そして、時には不必要なまでにIT利用を怖がることすらあるのです。
『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。』
「2001年宇宙の旅」の作者アーサー・C・クラークが残した言葉ですが、現在のITはまさに魔法に近くなってきている部分もあります。
前述のMRなどはまさに魔法のように見えますし、普段何気なく使っているスマホもほんの30年前の世界に持ち込むと魔法にしか見えないのではないでしょうか。
なぜ魔法に見えるのか。
それは技術があまりに高度になりすぎて、原理・原則が理解しづらい状況にあるからだと思います。
人間は「よくわからないもの」には恐れを感じるものです。
特にITに関しては「プライバシー」「個人情報」などといった自分に密接したものが脅かされるという心配も重なって、「テクノロジー怖い症候群」が発症しやすいのではないかと思います。
テクノロジーに仕事を奪われる?
AIやロボットの実用化が進むにしたがって、「仕事を奪われてしまうのではないか?」という話をよく耳にしますが、果たしてそうでしょうか?
スコップ vs ショベルカー
たとえば、あなたが「穴を掘る」ことを生業にしているとしましょう。
これまでスコップで穴を掘っていたところ、ショベルカーという画期的なテクノロジーが登場しました。
これまでスコップで1か月かかって掘っていた穴が、ショベルカーを使うと1日で掘ることができます。
あなたはどちらを選びますか?
答えは明白だと思います。
これまで1か月に1件の仕事しかこなせなかったものが、月に20件くらいはこなせるようになるのです。
月に1日だけ仕事をして、他の日は好きなことをするという生活もできるかもしれません。
当然、ショベルカーを選びますよね。
ところがIT利用の話になると、スコップを使い続けたがる人が多く出てくるのです。
「だってショベルカー怖いよ。突然暴走してケガするかもしれないよ。」とか、「便利かもしれないけど、掘りすぎちゃうかもしれないよ。」とか、「スコップの方があたたかみがあっていいじゃん。」なんて言う人も出てくるのです。
これは非エンジニアに限った話ではありません。
現場の生産性を高めるためにショベルカーの導入を提案しても、「じゃあスコップを追加で5本買ってあげるから、それで頑張りなさい。」と言われた経験を持つエンジニアの方もきっと多いことでしょう。
スコップが好きな人はスコップで掘り続ければいい。
でも、それでショベルカーに太刀打ちできますか?という話です。
スコップにこだわってると、たぶん仕事は激減しますよね。
そして、たどり着く先は失業・廃業ですよね。
でも、これって「ショベルカーが仕事を奪った」ことになるのでしょうか?
テクノロジーは仕事を奪わない
テクノロジーは仕事を奪いません。
なぜなら、テクノロジーそのものは意思を持たないからです。
AIやロボットが「仕事奪ってやろ~。」とか「人間滅ぼしてみようかな~」とは(少なくとも2019年6月の時点では)思ってないわけです。
テクノロジーの恩恵を受けるか、拒否するか。それは人間が決めることなのです。
テクノロジーの恩恵を受け入れるかどうか。
これができる人とできない人の間には大きな格差が生まれます。
それも、これまでにないスピードで。
「人」を「企業」と読み替えても同じです。
テクノロジーを武器にする私たちのような立場からすると、これは「勝ち組」になれるチャンスが大きくなるということになるのかもしれません。
でも、この格差がどんどん開いてしまうことは好ましいことではないと思います。
やはり、みんなで幸せになった方がいい。
そのためにはテクノロジーを利用するだけでなく、誰もがその恩恵にあずかれる仕組みや、それらが受け入れられやすくなるような土壌を作ることも必要です。
そして、それはテクノロジーを武器にする私たちの使命のひとつでもあるんだろうな、と改めて感じた2日間でした。