【料理本のはなし】たすかる料理 / 按田優子

私にとって料理は学問でも道でもないのです。しいて言えば台所で個人的な神話を紡ぐようなものです。

たすかる料理

按田優子さんといえば、ビブグルマンに連続で掲載されている代々木上原の餃子店「按田餃子」の店主。

2012年に共同経営者である鈴木陽介さんと一緒に開いた「按田餃子」の開店秘話(?)や込められた想い、メニュー開発者でもある按田優子さんの食事や料理、食材についての考え方、按田餃子のメニュー紹介などが記載されている本です。

按田優子さんと共同経営者の鈴木陽介さんが按田餃子という店で実現したいことや表現したいことはなにか。
なぜそのような考えに至ったのか。
実現・表現するにあたって、その手段である料理との向き合い方や食材をどのように考え、捉えているのか。
そして按田餃子のメニューに託された想いはどんなもので、今後どのように店を運営していきたいと思っているのか。
そんな、按田優子さん(と鈴木陽介さん)の頭の中にあることを文章に落とし込んだエッセイのような本ですね。

ちなみに、この本はレシピ本ではないです。
具体的な食材の扱い方や、レシピは「食べつなぐレシピ」という本にまとめられています。

両著は同じようなコンセプトで、理論・哲学(頭の中)編が「たすかる料理」、実践編が「食べつなぐレシピ」といったところでしょうか。

この本の最大の魅力は、按田さんがまとう素直で独特な雰囲気がしっかり表現されていることです。
コンテンツのみでなく、1つ1つの文章も、構成や表紙、目次、写真なども非常に特徴的かつ個性的です。フォントサイズの扱い方すら個性的。

按田さんの言葉を借りれば「頓珍漢でカオス」で「気取らない」感じの本です。

そして、1つの確固たる世界観を表現しているなかなかにすごい本だなぁと読み返すたびに一層強く感じます。
ホント、一見するとダイブ頓珍漢な本なのですが、それは按田さんの独特な雰囲気を表現しているからなんだな、ということが読了後に伝わってくる本なんです。

コンテンツも笑っちゃうくらい個性的で、例えば、
「結婚していた時期もありました。」
という文章から結婚生活の話が展開されると思いきや、その5行後には
「ある日離婚をして」
という文章が入り、その後結婚生活の話には全く触れないとか面白すぎます。
按田さんにとっての大事なことや些細なことに対する表現の強弱なんかも伝わってきてすごく面白い。

按田さんの自炊・料理の仕方や食材の捉え方の紹介もメッチャ面白いです。

例えば、料理については、「チチャロン」という南米のゆで豚を例にしながら、作り置いた"料理の素"を使いまわしながら食べつないでいくサマを垣間見れます。

また、食材については、

  • 主食

  • 肉と魚介

  • おかず

  • 調味料

  • スパイス

というふうに分類して、さらに主食であれば

芋、乾麺、小麦粉、デンプン、米

と1つずつの食材について向き合い方を紹介しています。

「ご飯と味噌汁の献立は捨ててしまった」
などと按田さんは本書でつづっていますが、食材の紹介の仕方を見て分かる通り、「ご飯と味噌汁の献立」はおろか「フツーの料理」も捨てています。
主食についての解説をするときに、「小麦粉」「デンプン」て。笑
最初の項目が「芋」て。笑

自身にとって最適で気持ちいい料理や食材との向き合い方について、どのような経験を通じてそれらを体得していったかの過程を踏まえながら紹介されています。

とにかく、"普通だったらこうする" といった固定概念には囚われず、色々試しながら自分の料理を自由に確立していっているその様子がすごく参考になるんですよね。
そして、確立されたものが独特だからこそ、面白いし魅力的。もちろん、「ちょっと合わないな」と思う人もすごく多いだろうと思うけど、それは逆に言えばそれだけ自由に料理しているということ。

そんでね、自由に料理して体得したものを「按田餃子」という店で、いろんな制約の中で表現して、多くの人に受け入れられている、という事実が、なんというか、なんとなくほんのり勇気づけられるんですよね。

そんなほんのり勇気づけてくれるちょっと不思議で独特でメッチャ面白い料理本?です。

あ、そうそう、スパイスについての記述はめちゃくちゃ参考になりました。


按田餃子、行きたいんだけど、いっつも並んでて、結局まだ行けず終いなんですよね〜〜



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