見出し画像

その7:万年筆は何処まで書ける?

人は一生の中でどれだけの文字を書くのだろうか。
そんな疑問をふと抱いたが、残念ながらさすがにそれには個体差があるし、まして言語や文化等の環境の差も左右するだろう。こればかりは統計の取りようがない話。
では、読み書きの“読み”ではどうだ。
文科省や民間機関の調査を組み合わせて数字を出すところでは、人の一生(10~80歳の期間で)の読書量は平均で約1,950冊ほどだそう。単行本一冊あたりの文字数が約10万文字と言うので、1,950冊✕10万文字は 19,500万文字。金か鉄かでだいぶ変わるものの、一般的な万年筆のニブ(ペン先)の耐久性が500万文字~600万文字と言われており、少なくとも39本分の万年筆が相当することになる。
これはあくまで平均中の平均の数に過ぎない。だが、単純に見れば人生は39本分の万年筆が紡ぐ叡智で賄われていると言うことだ。
その一方、万年筆一本で50冊もの本が書けるのかと感心もしてしまった。著名なところで池波正太郎や村上春樹のように(二人ともモンブランの愛用者だ!)一日10枚の原稿枚数をノルマとする作家を想定し、これも有り得ないが400字詰め原稿用紙びっちり埋める形を前提条件にすれば、一日4,000文字を500万文字で割って、1,250日で万年筆のニブかダメになるなんて換算に。これは約三年半だ。万年使えるという名付けの願いさえ、これでは虚しく砕けてしまう。
とは言え、500万文字なんて途方もない。50冊分の小説を書くには、年間3冊刊行出来る売れっ子作家でも16年以上、年2冊ペースで25年を要する。そう考えたら、やはり万年筆は万年の筆であった。
パソコン全盛のこの時代、手書きの作家も絶滅危惧視されている昨今ですけど、本を開いて文字を見る度にニブの磨耗に思いを馳せそうだ。
今回は、文字数をニブ基準に単純計算の上で話した。では、インクなら何リットル相当になるのかと更に話題を膨らますことも出来るでしょうが、そこは本なら印刷時の印字のインクもあることだし、これ以上の数字のがんじがらめはいささか踏み込み過ぎる嫌いもある。今日のところはひとまず筆を置いてみようと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?