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映画を観たよの記録 #2

映画でも小説でも、ネタバレにはできるだけ触れたくない系の人間です。

まっさらな状態で作品の世界に飛び込んでゆく高揚感は、初回にしか得ることができない貴重なものだと思っています。

ゆえに、配信サイトなどで「今日観る映画」を探す時、あらすじについてはあまり読まないままに作品を決めることが多いです。何となくのキーワードと雰囲気で、自分が好きそうだなって思ったら再生ボタンを押します。もちろん、観始めてから「最初に思っていた内容となんか違うな…」ということもよくあります。

今回は、前情報を入れずに観た「思ってたのと違う(でも面白い)」な作品をご紹介します。ネタバレには配慮してみました。


『ノマドランド』

<あらすじ>
アメリカの荒野町に暮らしていたファーンは、町が経済崩壊を起こしたことによりその土地を離れざるを得なくなる。家を失った彼女は、死別した夫との思い出を抱えながら、車一台で放浪の旅に出ることに。

広大なアメリカ大陸を巡るロードムービー……のようでいて、ロードムービーと表現するのは何だか違うような気持ちになる。そんな作品でした。放浪の旅、というと響きがいいし、のびのびと自由な旅路が待ち受けているのかと思いきや、少し違いました。

なにせ、旅を始めた理由が理由なだけに、ずっと物悲しい孤独が付き纏っているのです。主人公が決して若くはない人間というのが、なおのこと心を抉りにくる。彩度の低い映像と静かで美しい音楽が、物悲しさをより加速させていきます。

作中には、ファーンと同じく放浪の旅人(ノマド)を続けている人がたくさん出てきます。ノマド同士で支え合い、「またね」と言って別れてはまた別の土地で再会し、また支え合う。その適度な距離感を保った関係性は素敵だなと思う一方で、彼らは皆、「最後は結局一人だ」と割り切っているようであり、そう結論づけるに至った価値観の形成の過程などに思いを馳せると、何だかやるせない気持ちになりました。

一つ一つはあまり関連性のない、何気ない会話ややり取りだけで物語が進んでゆくのですが、その中にぽつり、さらりと名言が落とされていたりします。ほんの数十秒しか出てこない脇役の台詞が、妙に心に残ったり。

一般的なロードムービーにあって、この作品にないもの、それは「終着地」かなと思いました。終わりなき旅ほど、帰るべき場所のない旅ほど、孤独なものはない。けれども、その孤独を愛する人もいる。そんなことを感じました。

『グラントリノ<字幕版>』

<あらすじ>
頑固一筋で生きてきたウォルトは、妻の死後、自身の家族との考え方が合わずにイライラした日々を過ごしていた。そんな時、隣に住むアジア人の少年に愛車のグラントリノを盗難されかけ、そのことをきっかけに少年たち家族との関係を深めていく。

タイトルからして痛快カーアクションかと思いきや、頑固おじいと少年のハートフルウォーミングの後に復讐劇が始まるという、感情をあちこちに揺さぶられる作品でした。

主人公のウォルトは、言葉選びが逐一攻撃的なせいでゴリゴリの差別主義者にも見えますが、実はそういうわけではなく。たぶん、自分が気に入らないと思ったらすぐに否定するタイプの人間なのかなと。わりと全方位に対して喧嘩を売りまくりながらも、彼なりに事の本質を見抜いている姿は、さすが長く生きているおじいだなぁと思いました。

悪態を吐きながらも、自身に対して友好的なアジア人家族に心を許している姿は、とても微笑ましかったです。異なる文化や習慣、価値観であったとしても、それが自分にとって不快でなければ相手の懐に飛び込んでゆき、順応してゆく。悪態はともかく、とても理想的な歳の重ね方だなと、羨ましくなりました。

物語と直接関係はありませんが、ウォルトが飼い犬にだけは優しい眼差しで話しかけている姿がとても好きです。終盤、ウォルトがその愛犬を預けるシーンがあるのですが、自分自身が犬を飼っているからか、あのくだりでもうダメでした。耐えていた涙腺が崩壊しました。いやもぅ、それさぁ!って感じで。

ウォルトは、どのような形で少年たちの「復讐」に手を貸すことになるのか。淡々としたラストは、グラントリノが走り去る姿も含めて観る側に余韻を残してくれます。

『オットーという男<字幕版>』

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8JW5V51/ref=atv_dp_share_cu_r

<あらすじ>
オットーは、定められたルールに従わない人間のことが大嫌い。周りから煙たがられようが、ルールの遵守が地域を守ることだと信じて疑わない。そんな彼は、亡き妻への愛ゆえに、とある決断をすることとなる。

トム・ハンクス、大好きなんですよ……(突然の告白)

アマプラのジャンル表記が「コメディ」となっていたので、地域の名物頑固おじいとご近所さんによるドタバタコメディかと思ったら、全く違いました。死別した妻のことが好きすぎて、彼女に会いたくて会いたくて世界に絶望している男の話でした。

さすがトム・ハンクスだなぁと思ったのが、冒頭部分。開始5分で、オットーがいかにめんどくさい、いわゆる「老害」と呼ばれてしまう人物なのかが分かり、次の10分で、彼がいかに妻を愛していて、彼女のいない世界に絶望しているが分かる。そのギャップの素晴らしさたるや。観始めてからわずか15分で、オットーというキャラクターが大好きになってしまいました。

随所に挟まれる、妻と過ごした日々の回想が本当に愛にあふれていて。それを見ているだけで泣いてしまう。いやほんとに。本編が彩度低めの寒々しい映像であるのに対し、回想シーンだけは、鮮やかな色彩に彩られているのですよ。きっとオットーにとって、妻と一緒にいた頃は世界が輝いて見えていたんだろうな。

彼の世界には妻しかいないんじゃないかと思われたオットーでしたが、実は近隣の、彼をよく知る人たちからは信頼され愛されています。それはやはり、オットーが彼なりに地域を守ってきたから。そんな近隣住民たちとの軽快なやり取りには、時折クスリと笑わされました。そのあたり、確かにコメディと言えなくもないかもしれない……かもしれません。

オットーの妻への愛が尊すぎて泣いてしまい、オットーを気にかける近隣住民たちの優しさに泣いてしまい、そして「君に会いに行けるのはまだ先になりそうだ」と思えるようになっていくオットーの姿に泣いてしまいます。つまり、観ている間ずっと、泣いてしまうポイントだらけでした。決して悲しい作品ではなく、人の心の美しさに泣ける作品でした。


以上、最近観た「なんか思ってたのと違う(でも面白い)」作品たちでした。
たまたまですが、3作品とも、人生のパートナーに先立たれた高齢者が主人公ですね。次はどんな映画を観ようかな。

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