
戦略の本質をつかむ③事例から見る“実践”の威力
企業が生き残りをかけて競い合う現代のビジネス環境では、理論を学ぶだけでは成果に結びつけられません。先にも触れたとおり、戦略を組み立てる際は「顧客を起点に考えるマーケティング視点」「業界や競合を俯瞰する競争視点」「企業全体のリソースを最適配分する全社視点」という3つの視点を統合し、実際の企業活動に落とし込む“当てはめ”が欠かせません。本節では、その“当てはめ”がどれだけ大きな成果を生み出すのか、いわば実践戦略のインパクトを、いくつかの企業事例をもとに見ていきます。
(1)桃屋に見るターゲット・セグメンテーションの活用
「桃屋」は、古くから日本の家庭における“食卓の友”として定着してきた食品メーカーです。佃煮や漬物など、いわゆる「ご飯のお供」を中心に商品展開を続けてきましたが、ここ数年では新商品のヒットやブランド価値の再認識など、再び注目を集める動きが見られます。その背景には、顧客視点と市場変化を的確に捉えた戦略当てはめがありました。
まず、桃屋の施策が注目されるのは、ターゲット顧客の再定義です。以前は「日本の食卓に欠かせない定番ブランド」というイメージが強く、漬物・佃煮を好む中高年層を中心とした需要が多かったといえます。しかし、近年は単身世帯や共働き世帯の増加によって食生活が大きく変化しており、「簡単に食べられる」「調理の手間を省ける」「トレンド感のある味わい」といった新しいニーズが生まれました。桃屋は、この変化を見越して従来の顧客層に加え、若年層・忙しいビジネスパーソン・海外志向のある層など、幅広いターゲットを視野に入れ直したのです。
この発想の転換が具体的に形となったのが、薬味類や唐辛子系の調味料、「ご飯ですよ!」シリーズを活用したアレンジレシピなどの展開です。食卓に出せば馴染みやすく、しかも短時間で“ひと工夫した感じ”が出せる点を訴求することで、新たなファンを取り込むことに成功しています。ここに見られるのはまさに、セグメンテーションとマーケティング・ミックスを巧みに組み合わせた実践戦略です。顧客が何を求めているかを丹念に調べ、そこに合わせた商品設計やコミュニケーションを行う、それが同社のブランド力を維持・強化する大きな要因となりました。
また、桃屋は単なる製品の拡充だけでなく、SNSやレシピサイトを活用したプロモーション、コラボ企画を通じて若年層の認知度向上を図っています。これらの打ち手は理論上で語られるマーケティング・フレームワーク(4Pなど)を実際の市場と顧客動向に合わせて当てはめた結果といえるでしょう。
(2)セブンイレブンに見るサプライチェーンと差別化戦略
一方、コンビニエンスストアの代名詞ともいえる「セブンイレブン」は、急速な店舗拡大とともに徹底した在庫管理・物流システムで知られています。その成功要因としては、競争視点と全社視点を融合させた戦略当てはめが挙げられます。
コンビニ業界は市場の成熟化が進んでおり、大手チェーン同士の競合は激しさを増す一方です。さらに、ドラッグストアやスーパーマーケット、あるいはネット通販など、幅広い業態との間で顧客の取り合いが発生しています。セブンイレブンは、このような業界構造を的確に読み取ったうえで、品揃え・立地戦略・物流インフラに多額の投資を行い、競合他社が簡単には真似できない仕組みを築いてきました。
特にサプライチェーンの効率化はよく知られたポイントですが、それをさらに突き詰めたのが「顧客視点を反映させた商品開発」と「店舗オペレーションの徹底」という2本柱です。独自のPB(プライベートブランド)商品を充実させつつ、店内調理や宅配サービスなど新たなニーズに応える取り組みを積極的に導入することで、消費者が「コンビニなのに、思ったよりクオリティが高い」「スーパーや専門店に行かなくても用が足りる」と感じられるような価値提供を行っています。
ここで見逃せないのが、セブンイレブンの内部体制です。総合的な視点を持つ経営陣が「どの地域に、どの程度のペースで新規出店を進めるか」「物流センターはどこに配置すべきか」「PB商品のラインナップをどう設計し、どのサプライヤーと協力するか」といった全社最適の意思決定を下しているからこそ、現場レベルの施策が機能します。これはまさしく、全社戦略の視点とマーケティング・競争の視点を高い水準で統合した結果といえます。
(3)実践戦略のインパクトと最新動向
「桃屋」や「セブンイレブン」のように、自社の置かれた環境を正確に捉え、理論を実行可能な形に落とし込んで成果を出す企業は、他にも数多く存在します。たとえば、海外進出に成功している製造業の企業は、単純に現地マーケットに製品を持ち込むだけでなく、その国特有の文化や規制、競合の状況を徹底分析しながら事業ポートフォリオを組み替えています。また、スタートアップ企業でも、独自のオンラインプラットフォームを構築して新市場を創出することで、大手企業にはできない迅速な動きを武器にしている事例も増えてきました。
こうした事例を俯瞰してみると、どの企業も“マーケティング視点(顧客)” × “競争視点(業界・プレーヤー)” × “全社視点(経営資源)”の3つを状況に応じて組み合わせ、最適な打ち手を生み出していることがわかります。そして何より、“当てはめ”の巧拙が企業活動の結果を大きく左右します。どれほど優れた理論を学んでいても、桃屋やセブンイレブンのように実際の打ち手にまで落とし込まなければ、その価値は極めて限定的です。
また、ここ数年の動向としては、デジタル技術やDXの活用が、実践戦略のインパクトを加速度的に高める要因になっています。SNSやオンラインショップの急激な普及により、従来型の流通チャネルや広告メディアだけでは顧客へリーチできなくなってきました。さらに、AIやビッグデータ解析が身近になったことで、顧客動向をリアルタイムに把握し、それに合わせて製品の改良や価格設定を短サイクルで行う企業も登場しています。こうした環境変化に素早く対応できる企業は、さらなる競争優位を築きやすいといえます。
まとめ:事例が示す「理論×実行」の力
本節で取り上げた「桃屋」と「セブンイレブン」の事例は、それぞれの商品戦略や競争戦略、さらには全社戦略まで、さまざまなフレームワークの“当てはめ”が行われている好例といえます。両社は、決して理論を鵜呑みにするのではなく、“現実の消費者ニーズ”や“自社の組織能力”、そして“競合状況”を丁寧に分析しながら、自分たちが勝負すべき領域と具体的なやり方を見極めてきました。その結果、市場からの支持を得てブランド力を高め、さらに新たな事業領域へ進出する足場を築くなど、大きなインパクトを獲得し続けています。このように、理論と実践が結びついたときに初めて生まれる革新力と競争優位こそ、企業戦略の醍醐味です。
【問い合わせ】
お問い合わせは、以下のお問い合わせフォームからお願いいたします。
https://forms.gle/kRLofj2uUzhZEGjy7
【主な活動実績】
これまでに200社以上の企業で業務改革を手がけ、その全てで大幅な収益アップとコストダウンを実現しています。また、直接指導した1500名を超える人材が職場で飛躍し、多くのスタープレイヤーを輩出しています。常に革新的な手法で企業の生産性を飛躍的に向上させています。
◆企業改革
データに基づいた経営戦略と実践的なノウハウを駆使し、業務プロセスの最適化により収益向上とコスト削減を同時に実現。多くの企業から高い評価を得ています。
◆組織開発・人材育成
組織の力を「人が活躍できる場」と「能力の発揮」に分け、それぞれを強化することで常に高いパフォーマンスを発揮する組織づくりを実践。どのような人材でも活躍できる職場文化を根付かせ、多くの企業で導入されています。また、全従業員が最大限に能力を発揮できる職場環境の劇的な改善を実現させ、独自のメソッドで社員満足度の向上と生産性アップを両立させています。
◆マーケティング
20年以上にわたりデータサイエンスを駆使したマーケティング戦略を実践し、業界をリード。データに基づくマーケティングの体系化により、あらゆる状況で高い成功率を誇る戦略を提供しています。
◆データサイエンス
企業経営にデータサイエンスを導入し、定量的な分析に基づく精度の高い経営判断を支援。同時に難解なデータ分析を分かりやすく伝え、データサイエンスの普及に貢献しています。
◆事業拡大
企業の戦略の策定から運用に至るまで、収益性と持続可能性の両立を実現。特に、デジタル技術を活用した効率的なエネルギー管理や、環境負荷を最小限に抑えるビジネスモデルの構築に多くの企業で成功を収めています。
◆講演・セミナー
講演やセミナーでは、即効性のある具体的なアドバイスを提供。参加者からの信頼も厚く、課題解決に直結する実践的な知識を提供しています。
(※現在は、セミナーのご依頼はお断りしています。)
◆社会貢献活動
環境問題や貧困問題の支援活動に積極的に取り組む一方で、近年はパーキンソン病患者の自立支援にも尽力しています。幅広い社会貢献活動を展開しています。
【主要な著書】
『最強の組織づくり』
『最強の職場改善』
『最強のマーケティングOODA』
『基礎から学ぶデータサイエンス講座』
『経営マネジメントのための基礎講座』
『DX戦略完全ガイド: データ活用と技術革新で未来へ導くデジタル変革の全て』
『DX人材の育成方法 完全ガイド: 技術革新に対応する戦略とプログラム』
『最適化 全ノウハウ: 分析のポイント』
『非線形最適化 全ノウハウ: 分析のポイント』
『コミュニケーションで人生を変える!: 誰もが羨む究極の方法』
『仕事のミスをなくす黄金ルール: 職場のトラブルを90%減らす秘訣』
『見るだけ中小企業診断士: 忙しいビジネスパーソンのための要点図解』
『エネルギー事業者必見!成功する 発電アセット投資: 火力発電所を事例に評価手法を紐解く』
『水素ビジネスの成功ハンドブック: 未来を切り拓くロードマップ』
『欠損データの正しい対処手法: 実務で使える理論と方法』