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メグレ長編45『メグレと若い女の死』Maigret et la Jeune Morte(1954)紹介と再読感想
ジョルジュ・シムノン 平岡 敦訳『メグレと若い女の死』早川書房, 2023
メグレシリーズにのめり込むきっかけとなった本書。この1年半ほどで多くのメグレシリーズに触れて来たタイミングで一度再読してみたくなりました。
あらすじ
真夜中のヴァンティミユ広場で女の死体が発見される。
ルイーズという名の若い女性は、なぜ殺されることになったのか。
メグレは、《不愛想な刑事》とあだ名される第二地区の警部・ロニョンとも協力しながら捜査を行っていく。
しかし、ロニョンは次第にメグレへの報告なしに単独で捜査を行っていくようになる。
死んだ女の肖像を追い続ける中で、メグレは一人の若い女性の人生を追体験していく。
紹介と再読感想
本の殆どは死んだ女・ルイーズの人生を調べる事に費やされる本書。
メグレ自身も終盤で触れていますが、後半になるまで犯人が誰かということに触れられることはありません。
メグレの三人称一視点で描かれ、細々と書きすぎない文章で人物や情景を伝える、この独特の読み心地が紛れもなくメグレ警視シリーズだなと思います。
本作は、ルイーズという一人の人間が不条理な世界で死ぬまでを描きながら、同時にロニョンという不条理な世界でもがいている男の姿も主題として描いていきます。
どちらも、様々な経験から世間を信じず痛々しい程の頑なさが、更なる不幸を呼び寄せていました。
特に、まだ生きているロニョンに顕著ですが、自分の手の届く範囲の仕事に関しては素晴らしいのに、他者と生きることを諦めていることで、結局今回も労多くして功少なしの結果になっていました。
メグレ班の皆に出番があるのも、孤独に捜査するロニョンと対比され、レギュラーの出演が嬉しい反面、ロニョンの哀しい意固地さに胸が苦しくなりました。
ルイーズも、色んなボタンの掛け違いで起きた事件の被害者になっただけであり、どこかのボタンが違う風にかかることで違う人生に移行していた可能性があったのかもしれません。
しかし、社会の不条理が大きいとはいえ、その一部は彼女自身が招いた部分もあったと思います。
読み終わった時の満足感は再読でも変わらず高く、改めて読んでもシリーズ上位作であることは間違いないと思いました。
メグレシリーズの中のロニョン出演作としても最高にオススメの一作になります。
「ひと休みしたほうがいいぞ、ロニョン。今晩また、きみの手助けが必要になるだろうから。この事件をどう思う?」
ロニョンはなにも答えず、ただ肩を軽くすくめただけだった。どうせみんな、おれを馬鹿だと思っているんだ。おれの見解をあてにするふりなんか、してくれなくてもけっこうですとでもいうように。
ロニョンがそんなふうに思うのは、残念なことだった。彼は頭がいいだけじゃない、パリ警視庁でももっとも仕事熱心な警察官のひとりなのに。
映像化
ベイジル・シドニー主演(英) ※日本未紹介
「Maigret and the Lost Life」(1959)
ルパート・デイヴィス主演(英) ※日本未紹介
シリーズ4 第3話「The Lost Life」(1963)
ジャン・リシャール主演(仏)
第23話「Maigret et la jeune morte」(1973) ※日本未紹介
ジェラール・ドパルデュー主演(仏)
「Maigret」(2022)
メグレシリーズ 既読作品リスト
現時点での読了リストを自分用のメモとして書いておきます。
☆がお気に入り、〇がお気に入りには後一歩だけど良いと思った作品です。
全て現時点での評価になります。
長編
〇03.サン・フォリアン寺院の首吊人(1930)
06.黄色い犬(1931)
☆07.メグレと深夜の十字路(1931)
☆09.男の首(1931)
14.サン・フィアクル殺人事件(1932)
〇17.紺碧海岸のメグレ【別邦題:自由酒場】(1932)
☆18.第1号水門(1933)
☆21.メグレと超高級ホテルの地階(1942)
☆25.メグレと奇妙な女中の謎(1944)
☆29.メグレと殺人者たち(1947)
☆35.メグレと老婦人(1950)
☆36.モンマルトルのメグレ(1950)
☆38.メグレと消えた死体(1951)
☆39.メグレと生死不明の男(1952)
☆41.メグレとベンチの男(1952)
〇42.メグレの途中下車(1953)
〇43.メグレ間違う(1953)
☆44.メグレと田舎教師(1953)
☆45.メグレと若い女の死(1954)
☆46.メグレと政府高官(1954)
☆47.メグレ罠を張る(1955)
〇48.メグレと首なし死体(1955)
☆53.メグレと口の固い証人たち(1958)
〇56.メグレと老外交官の死(1960)
62.メグレと幽霊(1964)
☆63.メグレたてつく(1964)
〇64.メグレと宝石泥棒(1965)
〇72.メグレと老婦人の謎(1970)
73.メグレとひとりぼっちの男(1971)
中短編
01.首吊り船(1936)
02.ポールマルシェ大通りの事件(1936)
03.開いた窓(1936)
〇04.月曜日の男(1936)
05.停車──五十一分間(1936)
☆06.死刑(1936)
07.蠟のしずく(1936)
〇08.ピガール通り(1936)
☆09.メグレの失敗(1937)
☆10.メグレ夫人の恋人(1939)
☆11.バイユーの老婦人(1939)
〇12.メグレと溺死人の宿(1938)
☆13.殺し屋スタン(1938)
☆14.ホテル“北極星” (1938)
〇17.メグレと消えたミニアチュア(1938)
〇19.メグレとグラン・カフェの常連(1938)
20.愚かな取引(1939)
☆21.街中の男(1940)
☆24.メグレと無愛想な刑事(1946)
☆25.児童聖歌隊員の証言(1946)
〇26.世界一ねばった客(1946)
〇27.誰も哀れな男を殺しはしない(1946)
☆28.メグレ警視のクリスマス(1950)
☆29.メグレとパリの通り魔(1951)
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